59話 会話と武具
依頼を完了し、一行は次の出発まで解散となった。
ラストルとヴァンは出会った丘の上で話をする。
旅の道中は常に夜だった。
すでに日が傾く時間だったが、この都市だけ太陽がある当たり前の状況が不思議に思えた。
ラストルとヴァンは小高い丘の上にある一本の木の下で首都ユーズの街並みを眺めていた。
「さて。武具ができればいよいよヴォーラスと対決だな。
お前は持てる力を100%発揮して奴に挑む事ができる。
どうだ?勝てそうか?」
ヴァンは整った顔の少年の姿から、元の骨の魔物の姿に戻っていた。
「わからない…
なんかずーっと違和感があるんだ。
ヴォーラスとの力の差もそうだけど、イマイチ戦う熱が上がらないというか…」
ラストルは思っていた事を漏らす。
「またそれか。
お前は敵であっても一度誰かに優しくされたら、意思が弱るのか?
戦場ではその甘さは命に関わるぜ?
戦うと決めた以上、優しくされようが敵は敵なんだ。」
ヴァンはため息をつく。
「わかってる。わかってるんだけど…
…なんか煮え切らない。」
ラストルは敵である事を理解しつつ、憎悪の対象とならない相手に違和感を感じていた。
「ジャンクゴーレムもワーウルフも明確な敵意があった。命を狙ってくる相手には全力で命を守る戦いをする。戦う理由はそれだけで充分だったんだ。
だが、ヴォーラスは違う。
仲間を殺されても相手の事情を汲み、戦意が無ければ見逃す。
次に来た時は敵同士だと諭して。
復讐とか報復って言葉が存在しないんじゃないかってくらい、冷静に物事を見ている。
戦う選択肢ではなくて、話し合えば分かり合えるんじゃないかって、そう思うんだ。」
ラストルは下を向きながら言った。
「言いたい事はわかるぜ?
だがそれは、
''自分にそれほどの関係性がない''
から言える事だってのを忘れるな?
人間ってのは大問題が起こったとしても自分にそれほど害がなければ、どこか他人事のような振る舞いをする生き物だ。
例えば、お前の両親が死ぬきっかけを作ったあの…なんとかっていう教師をお前は憎んでいる。
今もどこかで命を狙っているから、返り討ちにしたいと考えている。
それを、ペティあたりが''同じ人間なんだから会話すれば分かり合えるよ!''って言われてもお前は納得するか?」
「それは…」
ラストルは回答を躊躇う。
「無理だろ?
だってソイツを倒すために強くなる事を選び、戦士になったのだから。
こんな状況になっているヤツはこの街中どこにでもいる。
肉親を魔物に殺された者、土地を奪われた者、いつ来るか分からない侵略を不安に思う者。
その憎悪の対象は魔族だ。
そして魔族そのものも人間へ宣戦布告をした。
もう戦うしか選択肢はないんだ。
お前が良くても周りが納得しないからな。
あー人間ってめんどくさいなホント!」
ヴァンは考え過ぎた様子で頭を振りながら地面に寝転んだ。
ラストルは黙って聴いていた。
「ま、ダメ元で直接ヴォーラスに交渉してみろよ?
一筋縄ではいかねぇだろうけど、万が一って事があるかもしれねぇしさ!」
ヴァンはニヤついた顔でラストルに提案した。
「あぁ。そうだな。
やれる事をやってみよう。」
ラストルは顔を上げて言った。
「よし!お話はおしまいだ!
お前はハゲとバンダナの店に行って耐魔鉱石を含んだ防具と武器を揃えてこい!
ゆっくり戦士の宿舎で休んだらここに集合だ。いいな?」
「ジャックとダガーな?」
ラストルはツッコミを入れて立ち上がり、ヴァンと別れて店へ向かった。
〜 首都ユーズ 武具屋『ナイブズ』 〜
「おー!!ラストル!久しぶりだな!
何か作りに来たのか?」
浅黒いスキンヘッドのジャックが似合わない紺色のエプロンをしてカウンターに立っていた。
「なんか…結構繁盛してるみたいだね。」
店の中には防具を飾ったマネキンを眺める人、壁に掛かった剣や槍の武器を眺める人で賑わっていた。
「おかげさまでよ!
ダガーの鍛える剣がよく切れるって好評でよ!
あとは俺の作るドレスが女性に人気だったりしてる状態だぜ。
なーんか戦う事が天職だと思ってだけど、結果的にこっちの方が向いてたみたいだわ!」
ダガーが椅子に座りながら、剣を鍛えているのが見える。
「ジャックがドレス…」
ラストルは吹き出しそうになり、手で口を押さえる。
「おい、笑ってんじゃねぇぞ?
で、今日は何しに来たんだ?」
ジャックはラストルに尋ねた。
「そうだった。
これ耐魔鉱石って言うんだけど、これを使って防具と武器を作って欲しいんだ。」
ラストルは鉱石の入った袋を渡した。
「お前もか!
さっきでけぇ大剣を背負った褐色のお姉ちゃんも、これで防具を作ってくれって頼み込んで来たぜ。
これ、流行ってんのか?」
ジャックは不思議そうに聞いた。
「ムンナか…
いや、魔界領域のヴォーラスに挑戦しようとしてる。
戦うにはこの鉱石を含んだ武器と防具が必要なんだ。」
ラストルは事情を説明した。
「なるほどな。
オメェもすげぇ事成し遂げようとしてんだな!俺は応援してるからな!
素材を練り合わせればいいなら任せとけ。
一日でできるからよ!
んじゃ、ペティの事も頼んだぜ?」
ジャックはラストルの肩を叩いた。
「ありがとう。
…そういえば、ペティはなんであんなに自己肯定感が低いんだ?」
ラストルはジャックに尋ねた。
「それは、お前が直接聞いてみろ。
俺たちからはなにも言えない。
一つ言えるのは、聞くタイミングに気を付けろって事だ。」
ジャックは真顔で言った。
「わ…わかった。」
「よし、わかったらさっさと行け!
安心しな?最高の出来にしといてやる。」
ジャックは追い出すように、ラストルを店から出した。
「じゃあジャック頼んだ!
ダガーにもよろしく伝えてくれ。」
「おうよ!」
ラストルは店を後にした。




