46話 記憶と会話
一方その頃、魔王城では…
〜 深淵の魔王城 〜
「あれ?グーシオン様何をされてるんです?」
褐色の肌のルーナは部屋を物色している、ローブを纏ったグーシオンに尋ねた。
「終活じゃ。
魔王様と運命を共にすると決めたからには、自分もいつ死に直面するか分からない。
ならば、それなりの準備をしとかにゃならん。」
グーシオンは棚から大事そうに大量の本を抱えて、頑丈そうな箱に入れていく。
「へぇ。几帳面ですねグーシオン様は。
私は別に遺すものとか、あげるものとかは無いなぁ…」
ルーナは壁にもたれかかって言った。
「何を言っておる。
なんかこう…あるじゃろ、大事なものとか。」
ルーナは腕組みをしながら、目を瞑ってしばらく悩んでいた。
そして、閃いたように目をあけた。
「ねぇ、グーシオン様。
魔王様との思い出とか、優しくしていただいた感謝の気持ちって遺せないの?」
「いや、無理じゃろ。」
グーシオンはまるで待っていたかのように返答した。
「ですよね〜へへへ」
ルーナは笑いながら頭を掻く。
それを横目にグーシオンは箱に入れた本を整理しながら、呟いた。
「…普通の魔道士なら無理な話だな。」
ルーナはギョッとしてグーシオンの方を向いた。
「残念ながらワシは普通の魔道士ではないからできちゃうんじゃな。
コイツをお前にやる。
心を移す鏡。記憶鏡じゃ。
これに自分を写して、思いの丈を語れば、その当時の思いと姿をいつでも見ることができる。
ちなみにワシは最初、それに日頃の鬱憤を吐き出していたんじゃが、ある時うっかりそれらの記憶を再生してしまって…
清々しい気持ちだったのに台無しになって、よく考えたらそんな鬱憤を後で再生して何が良いのか意味を見出せなくなって使っておらんかった。
だからお前にやる。」
「…何やってるんですかグーシオン様…」
淡々と語るグーシオンを哀れみの目で見ながらルーナは言った。
「でも、ありがとうございます!
大事に使いますね!」
ルーナは魔王城の自室へ向かった。
グーシオンは静かに笑った。
〜 ユーズ平野 絶対魔界領域
ヴォーラス城 〜
「そうか。ついに勇者と出会ったか。」
魔王ルシフェウスは、魔将ヴォーラスの城を訪ねていた。
以前のように、大きなイスに座り珈琲を飲んでいる。
ヴォーラスはペットの三頭犬ケルベロスを撫でていた。
「そうだなぁ…あんなにオーラの無い勇者だとは思わなんだぜ。
だが、実力は確かだ。俺の部下のそこそこ強い団体を一人で殺っちまうくらいだからな。」
「お前は戦って無いのか?」
ルシフェウスは聞いた。
「俺は…一緒に呑んだ。」
ルシフェウスは勢いよく珈琲を吐き出す。
ヴォーラスは愉快そうに笑っている。
「実に…お前らしいなヴォーラス。」
ルシフェウスは口を布で拭いながら、反応した。
「お?怒らないんだな?
オーラが無いなりに、良い奴だったぜ?」
ヴォーラスは不思議そうな顔をしながらルシフェウスと反対側の席に座る。
「この領域はお前に一任している。
何も言うまいよ。
万が一、勇者と和解する方向性があったとしたならば、滅びの運命が変わる。
争いは無いに越した事は無いだろう?
そして、必要な手はすでに講じている。
自由にやるといい。」
ルシフェウスは静かに言い、珈琲を飲む。
「ん〜まぁヤツとの和解は無理だなぁ。
なんたって俺の仲間を殺されちまったんだ。
死んだ奴らの家族に変わって、俺が仇をとらにゃならん。
勇者が例え良い奴だったとしてもだ。
それが、先に立つものの責任だと俺は思う。」
ヴォーラスは真面目な顔をして言った。
「ま、仲良く呑んじまったのも事実だからな。その責任もある。
次に会う時は敵同士で会う事になるだろうさ。」
ルシフェウスは黙って聴いていた。
「そうか。
戦うならば、悔いの無いように全力で臨と良い。
そして、勝て!」
ルシフェウスは多くは語らなかった。
珈琲を入れたカップは空になっている。
ルシフェウスは席を立ち上がる。
「行くのか?」
ヴォーラスは聞いた。
「ああ。
バアン砂漠の非戦闘民を安全地帯に移動させる指揮をとる。
お前が勇者に負けるとは思わんが、念には念を入れておく。
次に会う時は、勇者に勝利した清々しい顔を見せてくれヴォーラス。」
ルシフェウスは笑いながら、一瞬でその場から居なくなった。
「任せろルシフェウス。戦鎚の魔将は伊達じゃねぇさ。」
ヴォーラスは明けない夜の空を眺めていた。




