43話 下戸と目覚
奇妙な宴は終わる
視界が霞む。
魔族の酒は人間を少量で酔わせることができるようだ。
身体に力が入らない。
ラストルは魔将ヴォーラスに背負われ、巨人の平原を渡っていた。
「勇者が下戸でどうするよ。」
ヴォーラスが笑いながら言った。
「…うぅ…俺は勇者じゃねぇ…」
ラストルは朦朧とした視界のまま、悪態をつく。
周りには巨人達も他の魔物もいない。
「お前ら人間達の縄張りの近くまで送ってやる。
そっからは自分でなんとかしな?」
静かな平原にヴォーラスの足音だけが鳴る。
酔った身体にはこれほどまでに外の風が心地よいものだろうか。
ヴォーラスは続けた。
「今日は楽しかったぜ。
できれば今日が終わらないで欲しいくらいだ。
だが、ケジメはつけにゃならん。
忘れるな?次会う時は敵同士だ。
…って聞いてねぇか。」
ラストルは眠ってしまった。
ヴォーラスはユーズ王国の門の付近にラストルをそっと寝かし、帰っていった。
〜 首都ユーズ 王立中央病院 〜
ラストルは目を覚ました。
また、病室だった。
腕には細い管が繋げられている。
「目が覚めたようだね。」
女性の声が聞こえる。
目を横に映すと、白衣の女性が座っている。
「全く、戻って来るなと言ったのにまた来たな君は。
覚えてるかい?メイズだよ。」
敵であるデューダと戦い、全身火傷を負った時の主治医だったメイズだった。
「すみません…」
ラストルは眠そうな声で言った。
「今回は回復中毒だね。ポーションの過剰摂取で起こりやすい症状だ。
酔いのような状態と、吐き気、睡魔に襲われる。
魔界領域に入ったんだろ?怪我の回復でポーションをたらふく使ったとか身に覚えはあるかい?」
メイズは問診した。
ラストルは万能リンゴの飲料をヴォーラスと共に飲んだのを思い出した。
しかし、彼は無意識にその話をしなかった。
「身に覚えがあります。確かワーウルフと戦った時に飲んだような…」
「んじゃ、多分原因はそれだね。
今、中和剤を流し込んでるから数時間したら良くなるハズだよ。
あんまり無茶ばかりするなよ?」
メイズはカルテに、聞いた内容を書き込んでいく。
「あの…俺は一体どこに…」
ラストルはヴォーラスと酒を飲んだあとの記憶が無かった。
「記憶が無いのかい?
一緒に冒険に出た仲間の報告で、アンタが魔界領域に一人でいると聞いて周辺の戦士達が捜索してたのさ。
そしたら、アンタが吐きながら寝ているのを発見してここに連れてこられたってわけ。」
メイズは淡々と答えた。
「とりあえず、今日一日安静だ。
明日の朝とっとと出て行くように!」
メイズは椅子から立ち上がり、病室から出て行った。
ラストルは一息つき、天井を眺めた。
自分に起こった事の一連が夢のように思えた。
敵である魔物の将軍が良いヤツだった。
そして、あろう事か友と言われた。
魔物の仲間を殺したのに。
複雑だった。
複雑のまま、その日は夜を迎えた。




