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「魔王の終活」   作者: クロネコ
42/60

42話 問答と岩酒

奇妙な酒飲み対話は続く。


ラストルは複雑な気分でいた。

魔物の将が人以上に人のようだからだ。


自分がなんの躊躇(ためら)いもなく魔物を倒してきた事への罪悪感を抱いているのはもちろんだが、少なくともこの魔将ヴォーラスは悪としての存在として認識できなかった。


「すまない…俺の仲間が先に仕掛けた…

俺はそれから守る為に戦って、アンタの仲間を殺してしまった。」


ヴォーラスはしばらく黙って口を開いた。


「んまぁ…人間と魔族がいがみあってる以上、そうなることは少なからずあるだろうさ。

仕方ない事だ。


起こった事に対して、俺はなんとも思っちゃいねぇし、ギル達も最初から覚悟の上でここにいるんだ。」


ヴォーラスは静かに酒を飲む。


「魔族と人間は…分かり合えないのだろうか。」


ラストルは問いかけてしまう程、わからなくなっていた。


「そうさなぁ。

全ての犠牲を度外視にすりゃあ、分かり合えるとは思うがな…


ただ、一つ確かな事は。

お前さんと俺は戦わなきゃならんと言う事だ。」


ヴォーラスは言いにくそうに話した。

ラストルはまだ中身の残るグラスを握り締める。


「それは…仲間を殺したからか?」


ラストルは苦しそうに言う。


「…そうだな。

ワーウルフにも家族がいる奴もいた。

突然、今日戦死したって報告をされた家族はどう感じるだろうか。


俺はその家族の苦しみを背負って、けじめをつけにゃならん。


人魔大戦時には家族のいない魔族の兵が集められて戦ったが、今はそんな時代じゃあなくなってる。


それともう一つ。


約束してんだ俺は。

お前の生まれるもっと前から仲のいい友人だ。


そいつと、''勇者が現れたら倒す''って約束をな。

お前と俺が出会っちまったなら、もう戦うしかねぇんだ。」


ヴォーラスは何倍飲んだか分からない酒のグラスを置いた。

ラストルは黙っていた。


「が…そうは言ってもだ。


お前は良い人間にゃ違いない!

間違いなく、差別なく、偏見なく、話ができる(おとこ)だ!


今日だけは敵味方、確執、すべて忘れて、友として酒を()み交わそうじゃないか。

せっかくのうまい酒なのに、まずくしちまったら、酒とマスターに悪い。


それに今戦うのはお互い興がのらんだろう?」


ヴォーラスは赤い顔でにかっと笑った。


「強いな…ヴォーラス。

こんな状況で何もかも忘れて楽しくしようとしてくれる奴なんて、人間でもそうはいない。


…ありがとう。」


ラストルはただ他に言葉が思いつかなかった。

身体だけでなく中身の器の大きさに、深く心を打つものがあった。


「だから今日は楽しんで帰れ!

なんて辛気臭い顔してんだ!


それじゃあ本当にどうしていいかわからねぇ迷子じゃねぇか!?


覚悟は明日からすりゃいいんだ!

さぁ、飲んだ飲んだ!


マスター。万能リンゴのカチ割りをラストルに出してやってくれ!」


奇妙な(うたげ)は続いていた。

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