20話 八年と卒業 (勇)
最後の魔王と名乗る者の戦線布告から8年の月日が流れた。
世界の様子はガラリと変わる
最後の魔王の戦線布告から8年が経過した。
状況は大きく変わった。
魔王は宣言通り侵攻を開始し、人間の戦士達は魔族の圧倒的な強さの前に、退却を余儀なくされた。
世界の4分の3は絶対魔界領域に成り果て、難民は堅固な国へ大挙して押し寄せる事態となる。
〜 円形王国都市 首都ユーズ 国立ユーズハイスクール 〜
円形王国都市の中は、外部の荒れた状況に対し、比較的に平和だった。
都市の一角に建つ荘厳な建物がある。
国立ユーズハイスクールは名門である。
一度卒業すれば、将来が約束されるとまで言われる学校であった。
多くの学生がハイスクール内にある卒業式場で綺麗に整列し、着席している。
「…なぁ、卒業生の答辞を読むのって学校成績のトップだよな?
なんで2人いるんだ?」
学生の1人が隣の学生に小さな声で尋ねる。
「お前…
学業成績の主席と、戦業成績の首席くらい覚えとけよ…
金髪のイケメン野郎はケイロン・ヴィスカーズ。
超絶金持ちのヴィスカーズ家の跡取りだ。
学業主席の頭脳派。
英才教育に英才教育を重ねたんだろうぜ?
いけすかねぇやつだ。
もう1人の黒髪のフツメン野郎はラストル・リーベルト。
こいつの家はよく知らねぇな。噂だと両親が亡くなってて別の家に引き取られてるとか。
戦業に関しては主席の魔物絶対殺すマンだ。
俺も見たことあるけど、マジで強い。」
もう1人の生徒は呆れた顔で説明した。
「すげぇな…俺ラストルを応援しちゃうな!
ザ・平民の星!みたいな感じでさ!
でもよ?
この学校って総合評価だろ?
どれかが抜きん出て凄くても、あそこに立てなくね??」
尋ねた生徒は更に不思議な顔をして話す。
「はぁ…マジかお前…
学業主席がケイロン、2位がラストル。
戦業主席がラストル。2位がケイロンだからだよ!」
「お前たち。うるさいぞ。
厳正な卒業式なんだぞ。」
会話していた声を聞かれたのか、背後からやってきた教師に叱られた。
周りの生徒はクスクスと笑っている。
程なくして、卒業式が終わり教室で教師からの最後の挨拶を終えたあと、教室は緊張の糸が切れたようにお祭り騒ぎとなった。
そんな中ラストルは荷物をまとめ、1人教室を後にした。
身長は伸び、体躯はややたくましく、黒髪はくせ毛がつき、口数の少ない男になっていた。
ラストルは各教室が卒業生のお祭り騒ぎの中、1人で廊下を歩く。
目の前から女子生徒を引き連れた金髪の男子生徒が歩いてきた。ケイロンだった。
「やあ、ラストルくん。
結局僕は最後まで君に戦業成績はかなわなかったなぁ。」
ケイロンは長い金髪の髪の毛をかき上げながら言った。
「ケイロン。
俺も学業成績は最後までお前に勝てなかった。」
ラストルも気だるそうな顔で答える。
「君はこの先どうするんだい?
僕はヴィスカーズ家の代々の習わしに従って、王族の代わりに統治を代行する執政官になる予定なんだけど。」
ケイロンは自慢げに今後の方針を語った。
「俺はこのハイスクールに入る前からやる事は決まっている。
俺は戦士になる。」
ラストルは淡々と答える。
その回答にケイロンは驚く。
「戦士!?
君みたいな成績優秀な人間が戦士になるのはもったいないよ!
あれはね、生活困窮者や社会不適合者が一攫千金を目指すために簡単に命をかけて就く職業だよ。
国を守るという大義名分で綺麗に隠された出来損ないの集団だ。
だから魔王の軍勢なんかに押されて退却を余儀なくされたんだ。
君はそんなところで危険でキツイ仕事をするより、王様の近くで安心して良い暮らしをした方が絶対にいい!
なぁに、僕らが生きてる時代には魔王が本気で攻めてくることは…」
ケイロンが最後の言葉を言い切る前にラストルは、鋭い眼光でケイロンに近づき、目の前で立ち止まる。
「なぁ、ケイロン。
お前、大事な人間や友達が目の前で殺された事あるか…?」
あまりにも恐ろしい形相なので、ケイロンは息を飲んだ。
「な…無いけど?」
ケイロンは圧倒されながら回答する。
2人の様子を見た教室の生徒達が、廊下に出て集まりだした。
「なんだなんだぁ?
本校主席の御二方が一触即発みたいじゃん?」
「やっちまえラストル!
その男の敵みたいな奴を叩きのめせ!
平民の底力を見せてやれ!」
「はぁ?何言ってんの?
そんな、脳筋根暗なイモみたいな奴にケイロン様は負けないわ!」
廊下が貶し合い、罵り合いの大騒ぎになった。
ラストルとケイロンは2人とも呆れた顔になっていた。
「何を騒いどるんだお前達!
卒業したんだからさっさと学校を出て行かんか!」
騒ぎを聞きつけた教師が怒っている。
ここでケイロンが手をあげる。
場にいた全員が何をするのか気になり静まり返る。
「先生!
卒業する前の最後のお願いがあります!」
突然のお願いに、教師は驚く。
「な…何かね?ケイロン。」
「最後にラストル君と、卒業最後の記念に模擬戦をさせてください!学生用修練場で!」
その場にいた生徒達から歓声が上がった。
「すげぇ!
主席2名によるガチンコバトルじゃん!
こんなの滅多に見れるもんじゃねぇよ!」
「ケイロン様!頑張って!」
勢いに押され、教師も渋々了承する。
生徒達はそれを見るや否や、猛烈な勢いで修練場の席取りに走る。
「やれやれ…
ああでも言わないと場が収まらなかったんだ。
君の用事も聞かなくてすまないね。
あと、気に触る事を口走ったようだね。
謝るよラストル君。」
ため息をつきながらケイロンはラストルに謝った。
ラストルは再び気だるそうな顔に戻った。
「ああ、構わないさ。
俺も高圧的な態度だったと反省している。
さぁ最後だ。
やるからには全力だからな?」
ラストルは廊下を歩きだし、修練場へ向かった。
「もちろん!
今日のこそは君に勝つよ!」
ケイロンは爽やかに笑いながら、ラストルに続いた。




