12話 離別と孤独(勇)
少女オリビア足を治すために、復活し続ける魔法。永続復活について文献を読み漁っていた少年ラストル。
ふとしたきっかけで、外を見た時。
何人もの友人の命を奪った巨人の群れを発見する。
少年ラストルの眼に写るのは、山のような岩石の棍棒を振り回す青い巨人の群れ。
ラストルは背筋が凍りつく恐怖を覚えた。
火の手が遠くで上がっているのがわかる。
まだ、ラストルの住む家までは距離があった。
ラストルは窓を開けたまま急いで、部屋から出た。
母親のマリアは食器を洗い、父親のクリストは新聞に目を通していた。
「あら?どうしたのラストル?」
マリアが不思議そうに尋ねた。
「大変なんだ!隣の村が…
巨人に襲われて火事になってる!!」
「なんだって!?」
クリストはラストルと共に部屋に入り、窓から外を覗いた。
マリアは遠くで心配そうに見つめる。
遠くで燃え広がる炎と、先程より巨人の群れが近づいてくるのが分かる。
「これは…大変だ!!
マリア!ラストル!今すぐ逃げる準備をするんだ!」
クリストは叫んだ。
マリアは黙って頷き、すぐに部屋から出て行く。
ラストルは何冊かの本をリュックに詰めて、同じく部屋を出ようとした。
ふと、棚の上に仰々しく飾ってある細長い棒状の木片を見た。
巨人を倒した時に使ったサイリルの木片だった。
ラストルはそれを手に取った。
「たしか、これ自体に魔力があって自分の魔力を補強する…
うん、これは持って行こう。」
ラストルは木片を手に取ってポケットへ入れた。
玄関へ続く廊下へ出ると、既に父親のクリストと母親のマリアは玄関で待っていた。
「ラストル!準備はできたな?
さあ、逃げるぞ!」
クリストは玄関のドアを開けた。
しかし、クリストは動かない。
「あなた…?どうしたの?」
心配そうにマリアは動かないクリストに質問した。
「マリア…ラストルと…一緒に…逃げ…ろ」
クリストの口から血が溢れる。
そのまま、膝から崩れるように倒れた。
クリストの前に立っていたのは、2人の男だった。
1人は無精髭を生やし、体が大きく、目つきが鋭い。
手にはクリストを刺したと思われる血まみれのナイフを持っていた。
もう1人は無精髭の男より小柄で細身だが、同じく目つきが鋭く、黒い頭巾で口を隠している。
「キャァァァっと!!あなたッ!!…ウッ!!」
母マリアの悲鳴が一瞬で呻き声に変わった。
無精髭の男が、マリアの腹部をナイフで刺していた。
マリアは力なく、壁に背中をつきながら倒れる。
「あ〜あ、もったいない。
こんないい女を遊ばずに殺しちまうなんてよ。」
黒頭巾で口を隠した男が、血を流してグッタリしているマリアを見ながら言った。
「なんだ?文句あるか?
だいたい、村人は全員逃げたんじゃねぇのかよ。
なんで、まだ人がいんだ。
…ん?」
無精髭の男は前方を見た。
子供が1人いる事に気づく。
「あ…あぁ…母さん…父さん…」
ラストルは混乱した。
目の前で簡単に人が殺された。
惨状を理解しきれず、ただ涙だけが流れる。
「ほら、もう一匹いやがる。
始末して金目のものを盗ってずらかるぞ。」
血のついたナイフをチラつかせながら、無精髭の男が近づいてくる。
ラストルは無意識のまま、ポケットに手を突っ込み、サイリルの木片を取り出した。
「じゃあな、ガキ。
あの世で父ちゃん母ちゃんに会ってきな。」
無精髭の男がナイフを振り上げる。
「うわぁぁぁッ!!閃光ッ!」
「うぉ!?」
サイリルの木片を無精髭の男に向け、眩い光が薄暗い廊下に走る。
閃光の魔法を受けた無精髭の男は玄関まで吹き飛んだ。
その隙をみて、ラストルは泣きながら自分の部屋に走り、ドアを閉め鍵をかけた。
そのまま、床に座り込み泣き続けた。
悲しさと、怒りと、困惑が心を掻き乱す。
「ははは、みっともねぇなボイド!
ガキの魔法で吹き飛ばされるなんてよ!」
黒字頭巾で口を隠した男は、仰向けで転がる無精髭の男ボイドを笑った。
「うるせぇクルー、予想外だったんだよ!
あのクソガキ、楽には殺さねぇ。」
黒ズキンの男クルーを鋭い目で睨みながら、ボイドは怒りを露わにした。
そして、再び起き上がり2人は廊下を進んだ。
部屋でうずくまり泣いていたラストルは、
部屋の窓を開けていたことに気がつき、走って閉めようとした。
1階なので窓から男達が入って来ることを警戒したからだ。
すると、黒猫が一匹部屋の中に入ってきた。
先程の青い瞳の猫だ。
黒猫はラストルの床に置かれたリュックの中へ潜り込んだ。
「ここは危ないぞ!
おまえも殺されちゃう!!」
ラストルは黒猫が入ったリュックへ駆け寄り、中の黒猫を出そうと引っ張る。
黒猫と一緒に本が引っ張り出される。
拍子に本が開いた。
「あれ…このページ…」
ガシャンッ!
と、部屋の外で食器の割れる音がする。
大きな音に驚き、黒猫とラストルは固まる。
ラストルは味方が1人もいない今の状態に再び恐怖を覚え、また泣が出てきた。
すると、黒猫がしゃがんでいるラストルの膝にすり寄ってきた。
「そうか…お前も怖いんだな…
多分逃げても、すぐ追いつかれる。
…だったらいっそのこと…」
ラストルは深呼吸をして、涙を拭いて立ち上がった。
2人の男はキッチンで金品を探すために、棚から食器類を出しては捨てていた。
床には割れた食器が散乱している。
「おい!クソガキを探すんじゃねぇのか!」
マリアとクリストを刺した無精髭のボイドは苛立った様子で、黒頭巾のクルーに怒鳴った。
「まあ、落ち着けって。
楽に殺さねぇんだろ?
どうせどっかに隠れてやがるんだ。
こうやってデカイ音立てながら、金目の物をゆっくり探せば、あのガキは恐怖で震えるってわけだ!
そんな恐怖で歪んだ顔を見ながら、ぶっ殺すのはさぞ気分が良いだろうぜ?」
クルーの目が笑っている。
「なるほど。そりゃ最高だ!
舐めたガキにゃ、ちょうどいい殺し方だ!」
ボイドは納得した様子でニヤリと笑った。
「わかったら、手を動かせ。
盗賊は効率よく仕事をしなきゃな。
早くしねぇと巨人が来ちまう。
まったく、あの旦那もよくピンポイントで巨人がいるところわかるもんだ。
巨人に村を襲わせて火事場泥棒なんて、ボロい商売だぜ。
また脅してでも頼まなきゃな!」
悪知恵の働くクルーはつぶやきながら、棚の皿を一斉に床に撒き散らす。
食器は大きな音を立てて割れた。
男達が金品を物色する中、
ラストルはチョークで床に魔方陣を描いていた。
目の前に置いてある本は、
『魔方陣百科事典(中級編)』
無論、ラストルは中級者ではない。
父親クリストの愛用していた本だった。
描くことに集中しているおかげで、部屋の外の音はさほど気にならなくなっていた。
「…できた。
やり方は前と一緒だ。
この魔方陣の中で発動した魔法は、補助魔法。二星強化と同じ効果を得る。
デューダ先生の使ってた三星強化に比べたらちょっと弱いけど、アイツらをやっつけるくらいには…」
ラストルはチラッと猫を見た。
黒猫は青い瞳でこちらを見ている。
ラストルはもう逃げようともしない、黒猫を抱きかかえた。
「なあ、悪いけどお前も一緒に戦ってくれないか?
じゃないと…また泣きそうだからさ。」
黒猫は身体をよじってラストルの腕を伝い、器用に肩に立った。
「ありがとう…お前は賢いね。
…!?」
突然、部屋のドアノブを回し、ドアを開けようとする音がした。
「…おい、このドアだけ鍵がかかってんぞ!
ガキはこの中に違いねぇ!
クルー!ぶっ壊して開けるぞ!」
ドアの外で無精髭の男の声が聞こえる。
ラストルは扉に向かって、細長いサイリルの木片を構えた。
「さぁ…来るぞ…
大丈夫。僕は巨人を倒したんだ!
怖がるな。悲しむな。
アイツらは父さんと母さんを殺したんだ!
怒れ!!」
足元に書いた魔方陣が薄く光り始める。
ラストルは、詠唱を唱え始めた。
「光よ。
天地を照らす数多の星となり、
集いて瞬け…」
木の割れる音と共に、勢いよくドアが壊された。2人の男が入ってくる。
「見つけたぞクソガキ!今すぐぶっ殺して…」
「ボイド!なんかやべぇぞ!!」
ナイフで襲いかかるボイドを、何かを察して止めたクルー。
しかし、すでに遅かった。
「複流光!!」
ラストルの持つサイリルの木片から無数の閃光が放たれる。
その光弾は大きく、部屋の壁を貫いていく。
真正面から光を受けたボイドは、大きな身体の至るところを光弾に貫かれ、吹き飛んだ。
黒頭巾のクルーも背中を数箇所を光弾に貫かれて、床に倒れた。
穴の空いた壁と、盗賊2人の死体を前にラストルはその場に力なく座り込んだ。
強烈な疲労感が襲う。
肩に乗っていた黒猫は壊されたドアからリビングへ走っていった。
「…行かなくちゃ…」
ゆらゆらと立ち上がりながら、
おぼつかない足取りで、廊下へ向かう。
母親のマリアは血を流して座り込み、父クリストは玄関に扉を開けたままうつ伏せに倒れている。
ラストルは、母親のマリアの前で膝をついて座った。
目を開いたままだった。
その瞳の光はもう見えなくなっている。
「…う…うぅ…なんで…こんな事に…」
ラストルはその場で声をあげて泣き崩れた。
巨人が近づいくる事など気にもとめず、ただひたすら泣いた。
涙が枯れ果てた時には、巨人の足音が近くで聞こえていた。
ラストルは涙で腫れた目のまま、マリアの目を手でそっと閉じた。
そして、倒れていたクリストの身体をやっとのことで起こし、マリアの横に座らせ手を繋がせた。
「母さん。父さん。今までありがとう。
僕…いや、俺、頑張るよ。」
ラストルはリュックを担ぎ直し、走って外を出た。
走りながら、自分の生まれた家を振り向く。
開いたままのドアから明るい光が漏れ出している光景がどんどん遠ざかる。
途端に胸を締め付ける悲しさと、寂しさが込み上げる。
しかし、涙が出ない。
締め付けられる胸を押さえながら一心不乱に走り続けた。
外の暗黒に巨人の足音だけが響いていた。




