11話 決闘と雷槍 (魔)
魔将達との会議を終えた魔王ルシフェウスと、9体の魔将達。
ただ1人槍の魔将アーミーのみが、ルシフェウスと戦い、魔将の座をかけた決闘を申し込む。
〜 魔王城 城外決闘場 〜
動かない三日月が照らす暗闇の世界。
魔王城の離れた場所に、綺麗に石畳を敷いた正方形の決闘場がある。
四方の角には不気味な王冠を被った悪魔像の柱と、王冠からは青い炎が揺らいでいる。
決闘場には魔王ルシフェウスと9体の魔将は石畳の外に集まった。
龍の頭の魔将クロセロは手を振りかざし、決闘場の周囲の空間がかすかに揺らいだ。
「一帯の空間を断絶した。
低級の魔族が誤って侵入すれば、戦いの戦圧で消し飛ぶからな。
さて、審判は私クロセロが務めさせてもらうが、異論はないな?」
クロセロは魔将達に確認する。
他の魔将達は静かに頷く。
「うむ、ではルシフェウス、アーミー決闘場中央へ!」
クロセロの掛け声と共に、
魔王ルシフェウスと、槍を持った魔将軍アーミーは石畳を進み、中央で向かいあった。
「勝者は魔王の座を獲得。
敗者は服従、または死とする。
勝負は相手を殺すか、降伏させるか、この闘技場外の地上に落とすかの3つを条件とする。
相打ちの場合は次期魔王は魔将の中から選定する。
以上。」
クロセロは一通り説明をした後に、長く黒い爪の手を大きく振りかざした。
「始めッ!!」
クロセロが掛け声と共に手を振り下ろす。
その瞬間魔将アーミーは消え、ガンッという金属音だけが響く。
衝撃波が駆ける中、アーミーの銀色の槍はルシフェウスの大きな黒い剣の鞘で防がれていた。
「よく俺の雷速の突きを防いだな!」
「お前の雷速を防いだ私は神速という事でいいか?」
「ぬかせッ!!」
アーミーは防がれていた槍を素早く戻し、回転しながら薙ぎ払う。
ルシフェウスは高く飛びそれを回避する。
「なるほど、見ないうちにかなりの実力をつけたようだなアーミー。
だが、今の一撃をもってお前の実力は計れた。」
ルシフェウスは黒い剣の鞘を腰に収める。
それを見たアーミーは激怒した。
「ルシフェウス!テメェ…
その舐めきった態度ごと冥府に送ってやるッ!」
再びアーミーの姿は見えなくなり、目にも留まらぬ速さで斬撃を繰り出していく。
ルシフェウスはその場からわずかしか動かず、全て回避していく。
「うわぁ…全然見えない…
どっちもスゲェや…」
美少年の姿の魔将シーレは椅子に座り、丸テーブルで魔剤ドリンクを飲んでいた。
「さすがルシフェウス様ね。
アーミーを怒らせる煽り文句が秀逸ですわ。
さあ、皆さんも座って観戦されてはいかが?」
大きな帽子の胸の大きな女の魔性、グレモリールは他の魔将に呼びかけながら、丸テーブルと椅子を出現させ、カップに珈琲魔目から作ったコーヒーを注ぐ。
女剣士の魔将ルーナ意外の魔将達は着席した。
ルーナはただ1人、固唾を飲んで決闘の様子を見ていた。
風を切る音。
強い踏み込みによって砕ける石畳。
闘いは徐々に激しさを増していく。
アーミーの槍による斬撃を全て躱しきり、ルシフェウスは一瞬の隙を狙いアーミーの腹部に手を当てる。
「黒弾…」
ルシフェウスの放つ黒い波動と共にアーミーは、一気に決闘場の端まで飛ばされる。
「ぐおッ!?」
着地に失敗し、アーミーは床に打ちつけられて転がった。
「まだやるか?アーミー。」
平然とした顔でルシフェウスは言った。
アーミーは床に手をつき、ゆっくり立ち上がった。
「当然だ。俺はまだ立てる!
勝敗が決まらなきゃ闘う意味なんてねぇ。」
アーミーはふたたび槍を構える。
持っている銀の槍が光り輝き、そこから電撃が乱れ走る。
アーミーの体の周りは、電撃に包まれ石畳を砕く。
「行くぜ…!ルシフェウス!
こいつで引導を渡してやる!
我が槍は、神をも穿つ雷光の一閃。
奥義即ち、神鳴之槍!」
突き出した光り輝く槍が、雷鳴と共に一瞬で伸び、ルシフェウスに向かう。
「流石にこれは避けきれんか。」
ルシフェウスは腰に刺した黒い剣を素早く引き抜く。
向かってくる光の槍に、黒い弧を描きながら剣を振り下ろす。
雷鳴がさらに激しく轟く。
片手で剣を持っていたルシフェウスはあまりの衝撃の強さに、両手に持ち直した。
「…詫びよう!アーミー!
お前の覚悟の光。
ここまでとは予想していなかったぞ!」
ルシフェウスの黒い剣が暗黒のオーラを放つ。
「ふんッ!!!」
ルシフェウスが光の槍を真っ二つに割った。
割れた光の槍は石畳を二方向に破壊しながら、場外へ伸びる。
「くっ…!!私の結界では閉じ込めきれん…!!」
場外の結界に向かう光の槍をみたクロセロは焦る。
すると、光の先に2体の魔将が現れる。
鳥の頭を持つ忠義深い魔将フォーカスロールと、赤い髪と鎧の剣士の魔将ゼパルであった。
「よもやルシフェウス様にあの剣を抜かせるとは、これが奴の覚悟か。
なるほど、ただ小生意気なだけでは無かったようだ。なぁ?ゼパル殿。」
両手を開き、手首を合わせるように構えたフォーカスロールはチラリとゼパルを見る。
「ああ、この肌で感じる圧力。
洗練され、鍛え抜かれた奥義と呼ぶにふさわしい。
魔王様で無ければ、重症。
下手をすれば死ぬ。」
ゼパルは剣を抜く。
剣からは炎が巻き起こる。
「だが、2つに裂かれたなら威力は半減する。ゆくぞ!業炎斬!!」
「収束気壊砲!!」
ゼパルの炎を纏った剣は光の槍の一部を爆砕し、フォーカスロールの手からは超高密度の風の砲撃が放たれ、光の槍を消滅させた。
決闘場の地面はバラバラに抉れ、全力の神鳴之槍を防がれたアーミーは汗を滴らしながら、息を切らしていた。
「…クソ…マジかよ…俺の渾身の一撃を…」
アーミーは落胆していたが、ルシフェウスの剣を握っている手からは血が滴っていた。
アーミーはふらつきながらも槍を構える。
そして再び足を踏み込み、一瞬でルシフェウスに距離を詰める。
「ルシフェウス!!覚悟!!」
アーミーは最後の力で槍を突き刺す。
しかし、槍はルシフェウスを大きく外れ、アーミーはそのまま倒れ込んだ。
ルシフェウスは床に倒れそうになったアーミーを腕で受け止めた。
槍が床に落ちる音が響く。
「もうよせ。
お前の覚悟はわかった。
まさかここまで強くなっていたとは、私も感心するばかりだ。」
アーミーを肩で抱えながら、ルシフェウスは場外まで歩く。
アーミーは抱えられながら、つぶやく。
「チクショウ…情けねぇ…
完全に手のひらで転がされただけかよ…
本来の姿にすらさせられないなんてよぉ…
あんたを殺る勇者ってのはバケモンか…」
「いいや、お前は強い。
剣をぬかねばどうなっていたか。
運命に争うとは、まさに化け物を相手にするようなものだ。
だからこそ、魔族を救う方法を考えながら勇者に争う方法を考えねばならん。」
アーミーは何かに気づいたように顔をあげる。
「いま、争うって言ったのか?
ルシフェウス。お前勇者に勝つ気なのか?」
「嫌がらせ程度にしかならんだろうが、
それでも…私はかすかに小さな希望を抱いてる。
なにせ、お前の神をも穿つ槍を防いだのだからな?」
ルシフェウスはニコリと笑った。
「へへへ…なんだよ。
完全に腑抜けになっちまったから、どうせ死ぬ気なら先に殺してやろうと思ってたのに、
まだやる気あるんだったらそう言えや。
魔王なら、魔王らしくしていやがれ。」
アーミーは疲れた顔で笑っている。
「昔のこともあってな?
感情を表に出すのは少しばかり苦手なのだ。
許せ。」
ルシフェウスは魔王だった父、バアルークの事を思い出していた。
啓示を受けたショックと怒りで無謀にも勇者に挑み破れた自分の姿を思い出した。
決闘場の場外に立ち、ルシフェウスはアーミーを静かに場外へ下ろした。
「さあ、アーミーお前の負けだ。
魔王は継続してこのルシフェウスが引き受ける。
お前は私に忠誠を誓い、そして勇者を倒すために今以上に鍛錬せよ!
良いな?」
ルシフェウスはまたニコリと笑った。
「甘々な魔王様な事だ。
わかったよ、あんたにたどり着く前に俺の槍で勇者をぶっ倒してやる!」
審判を請け負たクロセロが歩いてくる。
「では、決闘はアーミーの場外よりルシフェウスの勝利とする!」
筋骨隆々の大きな体を持つましょうヴォーラスは大きな手で拍手をした。
横にいた魔剣士ルーナも胸をなでおろした。
ただ1人長い黒髪の黒服の魔将ダンタリオンは、その場から誰にも気づかれる事なく立ち去っていた。




