10話 夜闇と親心 (勇)
巨人により友人を多数失い、生き残った友人も足が不自由になってしまった。
唯一、無傷のラストルはその友人の足を治すことが自分にできることと考え、決意を固める。
巨人の出現によりトローク村の学院が破壊され、しばらくの間、近隣住民は避難していたが、程なくして帰宅が可能となった。
学院のあった場所は進入禁止となり、この件で亡くなった生徒達の追悼は粛々と行われ、生き残った少年ラストルと車椅子の少女オリビアもその追悼に参列していた。
それから数日が経過したある日の夜。
〜 トローク村 リーベルト家 〜
少年ラストルは自室に籠り、死んでしまっても復活し続ける禁忌の魔法、永続復活について調べていた。
永続復活の魔法効果を受けた者の身体の一部を取り込んだ者は、その身体の死んだ部分が復活する。
教師デューダの言葉を信じて、立てなくなったオリビアを救う為に文献を調べていた。
すると、自室のドアをノックする音が聞こえる。
扉を開けて入って来たのは母親のマリアだった。
「あら?勉強?偉いわねラストル。
疲れたでしょう?ホットシロップティー置いとくわね。
でも、あんな事があったばかりだから、そんなに根を詰めすぎなくても良いのよ?」
マリアは学院を巨人に襲われた事による心の傷を案じていた。
心配そうな顔を浮かべながら、湯気の出ているホットシロップティーを置いた。
「ありがとう母さん。
でも、僕はいろんな事を勉強しなきゃいけない気がするんだ。
僕だけ無傷で無事だったのは、きっとそういう事なんだ。」
マリアの方を見ることなく、ラストルは文献を読み続ける。
マリアはラストルを背中から抱きしめた。
「あなたがそんなに責任を感じなくていいのよラストル。私はあなたが生きていて本当に嬉しかった。
お願いだから私達親よりも先に逝かないで…」
マリアは自分の感情を伝える事しか言葉が出てこなかった。
友達を失った事の無いマリアは、ラストルがどのような気持ちなのかを理解する事が難しかった。
「大丈夫だよ母さん。
心配をかけるような事はしないから。
シロップティー貰うね!」
ラストルはニコリと笑った。
「じゃあ…ほどほどにね?」
マリアはゆっくり扉を閉めた。
ラストルは机に置いてあるシロップティーに口をつけた。
暖かく、いつもより甘かった。
ラストルの部屋を出ると、心配そうに部屋の前で夫クリストが待っていた。
「大丈夫かい?本当は僕が気遣って行くべきなんだろうけど…」
「ううん、いいの。ラストルを励ましたいって言ったのは私だし。
でもあの子、笑っていたけど自分だけ生き残ったのを負い目に思って、凄く責任を感じてるみたい…
クリスト。
私、あの子が今どれだけ辛い思いをしてるのかわかってあげられないわ。
ダメな母親ね…」
クリストは黙ってマリアを抱きしめる。
「そんな事ないよマリア。
僕だっていきなり目の前で友達が死んだ事はないんだ。
今回の一件であの子の心は大きく傷ついた。
けれどその傷は、彼自身で乗り越えるしかないんだ。
僕達親がしてやれる事は、彼が道を外しそうになったら正してあげたり、落ち込んだ時に励ましてあげられるような存在でいてあげる事だ。
なに、大丈夫さ!
なんたってあの子は僕と君の子なんだから!」
夫クリストの言葉に妻マリアの心は少しばかり楽になった。
マリアは静かに頷き、ラストルの部屋の扉を見つめた。
机の上で熱心に文献を読んでいたラストルは、目の疲れから窓の外に目をやった。
「うぉ!ビックリした!」
窓には瞳の青い黒猫が1匹いた。
ラストルをじっと見つめている。
ちょっかいを出そうと窓の扉を開けると、黒猫は座っていた場所から飛び降り、逃げた。
ラストルは残念そうな顔をし、目線を移した。
「…なんだあれ?」
遠くで火の手が見える。
辺りが真っ暗な中で、一際明るく隣の村が燃えているのが分かる。
そして、ラストルは戦慄した。
夜闇に光る目。
それが無数にある。
紛れもなくそれは、学院を襲った巨人の目であった。




