四十一話 異世界に行く方法は……
救急車を呼んでくれた子? と訊いたら、ゼクスは頷いた。確かに、自分が男の子だとは言っていない。それどころか、もっと前に男子小学生なんて知らないとはっきり言っていた。そりゃそうだ。あれはゼクスの男装もどきであって、男子でも小学生でもない。
僕が二股をかけているって噂は本当にあったし、村上さんに告白してほいほいOKしたってのは……多分に語弊があるけど、まあ、間違ってはない。誤解があったってのは、村上さん達の方が、って意味では正解だ。誤解があったというより、こっちが誤解させたんだけど。
それによくよく思い返してみると、初対面の時の男だった時云々とか言っていたのも、嘘ではなかった。厳密に言えば男の恰好をしていただけで、男だったわけではないけど、まあ誇張であって嘘ではぎりぎりないか。
そう考えると、ゼクスは嘘を言っていない。けど、気になることがあった。
「……ちなみに、山降りた時にいなくなったのは男の子じゃないのを誤魔化すため、とかではなく……?」
「誤魔化すって何よ? 私はただすっごくいい物を貰ったから、一度家に帰って何かお礼になる物持って来ようと思ったら、もういなくなってたのそっちじゃない。あの恰好も、山登るからしてただけなのに、勝手にそっちが誤解したのよ? それに日を跨いでから『昨日山で道案内した時のことなんだけど~』とか言ったら、なんか恩着せがましいでしょ?」
「ごもっともです……」
僕が勝手に幽霊か何かだと思って、その場からいなくなっちゃったのが問題だったんだよねー……
「てなわけで、私は嘘を言ったことはないわよ。全力で誤魔化してフワッと答えたもの」
「確かにホントじゃないこと言う時、全部曖昧な表現だったね今思い出すと」
髪の毛引っ張られて片方ツインテールが解けてた時も、プールに突き落とされた時に何があったのか訊いた時も、どっちも疑問形だった。
断言してないから、嘘じゃないと言えば嘘じゃないけどさぁ……
何となく納得がいかないが、ゼクスが断言した時は全部真実だってことなんだろう。
……ん? 待って。ちょっと待ってホントに待って。って、ことはだよ? さっき他にも断言してたことがあったりなかったりやっぱあったような……ならもしかして、昨日の夜のも勘違いとか夢とかそんなもんじゃないんじゃないかな的な……!?
「……あ、あの、ゼクスさん? 今の話を総合して考えると、その、そんなことはないと思うんですけども、思ってもみない事実が浮かび上がるのですけれども……」
どもりまくったうえに敬語になる僕に、ゼクスは困ったようにはにかんだ。
「あー……流くんが何言いたいか、わかっちゃった。えーと、ね……うん。ここはやっぱり、うやむやにすべきじゃないわ。それにアニメとかからパクって来るのも、誠意がないわよね」
何やらブツブツ呟いていたゼクスは、道端でおもむろに立ち止まって顔を上げた。その顔は昨日の夜よりも赤く染まり、決意と覚悟に満ちている。
「流くん」
「は、はい」
「私は流くんのことが、大好き、です。この世界で、一番」
「…………友達的なポジションで?」
「男の子として」
「………………」
人生初の、マジ告白をされた。
村上さんのはもちろんノーカンだ。だって好きとかじゃなくて、ゼクスへの嫌がらせで……あれ!? もしかしてゼクスがその、僕に惚れた的な展開が起こったタイミング如何によっては、嫌がらせ成立してるっ!?
驚きの新事実だった。
ま、まだわからないぞ!? ここは本人に確かめるべきだよね!?
「いつどの辺りからで……?」
「うーん、明確にいつ、ってのはないかなぁ。最初に気になったのは、私の会話について来てくれた時かしら。それに、途中で嫌になって席を立ったりもしなかったし。
だから、その、この人いい人だなぁって。それから後も、私が無視すんなって言ってからは見かける度に、律儀に会話してくれたし。決定打は、間違いなく計画を立ててくれた時から今日までの流れだけどね」
流くん、すごくかっこよかったもの。
消え入りそうな声が、微かに聞こえる。顔を赤らめるゼクスは、恥ずかしそうにしながらも真っ直ぐに僕のことを見詰めていた。
どうしたのかと考えかけて、そんなの考えるまでもないと気付く。告白されたからには、そりゃあ返事をすべきだ。
「あの、僕のせいで嫌がらせが加速した件は……」
「あの時点では嫌がらせかどうか微妙だったわよ。ま、イラッとはしたけど」
イラッとしたんだ。
なんだろう。ちょっぴり嬉しい。てことは、その時には既に僕を意識してくれていたってことになる。
でも待て。問題はその後だ。
「そ、それに僕、最初にゼクスの境遇聞いた時、何も出来なかったし」
「言ったでしょ? いい結果が出たんだから、都合の悪い中間で起こった事なんて、無視しちゃえばいいって。それにあの後も気にかけてくれていたから、終業式の日に私のことを探してくれたんでしょう?」
そうかもしれない。けど、僕としては引っかかる。もっと早くどうにか出来たはずなのだ。あの時僕が、すぐに動いてさえいれば。
「ゼクス、やっぱり僕なんか――」
「ああもうぐちぐち面倒くさい!! イエスかノーで答えなさい!! 私のこと、嫌い?」
「そりゃノーだけど――」
「じゃあ好き?」
「い、イエス」
「なら、それでいいのよ」
強引に言い切ったゼクスは、ふいっと顔を逸らして歩き出した。その顔は、今までで一番真っ赤っかだ。
「ねえ流くん、どこでもドアってどうやったら造れると思う?」
「藪から棒になに!? 今それ訊くこと!?」
「だってどこでもドアがあれば、来年になってもすぐに流くんのところに会いに行けるじゃない」
「……まあ、量子力学から勉強すればいいんじゃないかな」
こういう可愛らしい話だったら、アニメだろうと漫画だろうとゲームだろうと、いくらでもしようじゃないか。
ゆでだこのように顔を真っ赤にする二人がアニメや漫画について話すという、傍から見ればなんだこいつら? と思われる光景がそこにはあった。
そしてそれを自覚しながら、僕達は通学路を歩くのだった。どこでもドアもいいけど、タイムマシンとかもしもボックスでもいいよねと、いつまでもこのありふれた現実世界で笑い合いながら。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました! 新作の『私、樹になります。~世界を見守る簡単なお仕事~』もよろしくお願いします!




