三十九話 意外と良い性格してる
「あー、面白かった!!」
実に楽しそうに言うゼクス。真昼間の通学路だというのにくるくる回っているので、ものすごく目立っているからやめていただけないだろうか。いやもうマジで。いつもの僕であれば他人のフリをしたのだろうが、今日だけは目を瞑ることにして、諦めて隣を歩いていた。
まあ、完全勝利って言っても過言じゃなかったしなぁ……
今日は八月一日、火曜日。登校日だった今日は、朝から待ち合わせして僕とゼクスは学校に向かった。
通学路を二人で歩いている時から、周りを歩く学生達からどよめきが上がっていた。ゼクスがかなり強烈なイメチェンをしたせいであるのは、考えるまでもない。ゼクス本人は、これっぽっちも気にしている様子はなかったけど。
さて、問題の村上さん達いじめっ子だが。三人共昨日のガチトラウマ事件が尾を引きまくっていたからか、登校して来たのは掃除やら連絡事項やらが全部終わった後だった。
今日は僕のクラスの方が先に終わったので、教室の前で待っていた。なので事の顛末を知ることが出来たのである。
教室から先生が去る頃、極度に怯えた様子の三人組がおっかなびっくり教室までやって来た。当然扉の前にいる僕目に入るわけで。
「くくっ、空閑、あんたなんでそこに……!? あいつ、原のこと何か知ってんの!?」
気付いた村上さんがガタガタと震え尋ねて来るが、答える義理は僕にはない。
三人の様子を見る限り、来るのは怖いけど確かめずにいたらもっと怖いから来た、といったところだろう。もしゼクスに何かあれば僕が知らないわけないから、何があったか訊かれることも想定済みだ。
何も答えないどころか一瞥すらくれない僕に、村上さんが掴みかかろうとして来たその時だった。
「あらどうも、村上さん」
『ひぃっ!?』
綺麗に悲鳴をハモらせた三人は、一様にゼクスを指さし瞠目していた。
「どうしたのかしら? 幽霊でも見たような顔して」
村上さん達からしてみれば、まさしくその状況だ。そりゃ死んだと思っていた人間が普通に目の前に現れたら、怖いし驚きもする。
だがゼクスの皮肉により、村上さんは自分達がものの見事に嵌められたことを理解したらしい。
「あ、あんた、あたしらハメやがったな!?」
「さぁねぇ。ああでもそう言えば、今朝気付いたら枕元にこんなものが」
わざとらしく言ったゼクスが懐から取り出したのは、昨日の一部始終が録音されたボイスレコーダー。
『わ、私ことむら、村上結沙は、原六をいじめ、ましたっ!!』
「なっ……」
「あら不思議。どうもこれ、村上さんの声のように聞こえるわね?」
白々しい笑顔を浮かべるゼクスに詰め寄ろうとするが、間に割って入った僕が邪魔で村上さんは近づく事が出来ない。
「く、空閑、やっぱりあんたらグルで、」
「さあ? 知らないなぁ。けどまあ、あれだよね。声紋とかって、調べれば簡単にわかるんだってね? そうそう、僕もこんなものを今朝見つけて」
ゼクスとは違い棒読みながらも、僕も続いて更にレベルの高い弱みを取り出す。ポチッとケータイのボタンを押すと、今度は映像が流れる。怯えて泣き叫ぶ、村上さんの姿が映った映像だ。
「な、こんなのどこで、ていうかどこから撮って――」
「不思議だね、ゼクス」
「不思議ねえ、流くん」
ニコニコと笑いながら言う僕達を、しばらく村上さんは鬼のような形相で睨みつけていた。後ろの二人はと言えば、ボイスレコーダーの音声が流れて辺りから諦めたのか、絶望した顔で突っ立っているのみだ。
ギリリと悔しげな歯噛みしたあたりで、顔を上げた村上さんはようやく異変に気づいたようだ。僕とゼクスはとっくに知ってたけど。
ここが廊下であり、当事者以外も通る場所だってことを村上さん率いるいじめっ子達は失念していたのだ。
「今いじめがどうとか聞こえた気がしたんだが、気のせいか?」
僕達を徐々に取り囲んでいた野次馬根性丸出しの生徒の奥に、一年生のクラス担任がいたのだ。
先生がいつからいたかまでは、僕も知らない。野次馬が集まって来てたのは、村上さん達がやって来た時点からだから知ってるけど。
一年生のクラス担任――大島とかそんな名前の先生は、じーっと三人のことを見据えていた。
流石に先生まではいじめに加担してなかったことに内心ホッとする僕は、隣で明らかに状況を楽しんでる顔のゼクスに視線を送った。これから三人をどうするにしても、それはゼクスの気持ち次第だから。
目配せの意味を正確に理解したゼクスは、僅かに笑みを苦いものに変えた。
「気のせいですよ、大島先生。ちょっとした言い争いなんで、気にしないで下さい。目立つところでやっちゃったもんだから、人集まっちゃっただけなんですよ」
やれやれ。ゼクスっては、根がお人好しなんだから。そんなやつら、とっとと雷落とされてこの街からいられないくらいのことしちゃえばいいのに。
呆れてため息を吐くしかない。でも、これはゼクスが決めた選択だ。いくら甘いと思っても、僕が口出しすることじゃない。それに、こういうお人好しなところがゼクスのいいところなんだから。




