第十章 十二年前の悲劇
第十章 十二年前の悲劇
リンゴ「マキ、何を恐れているのか、話してくれないか? この話には、俺たちが想像している以上に大きな秘密が隠されているようだ。」
マキはしばらく黙っていた。視線は、テーブルの上に置かれた金属片に注がれている。
やがて彼女は深く息を吸い込んだ。まるで、何年もの間、癒えることのなかった古い傷を再び開こうとしているかのようだった。
マキ「この秘密を誰かに話したことは、一度もない……。でも、あなたたちには話そうと思う。私の過去を何も知らないのに、それでも助けてくれたから。ただし、一つだけ約束してほしい。何があっても、この秘密を誰にも明かさないと。」
ロキ「心配しないで! 誰にも話したりしないよ。そうだろ、リンゴ?」
リンゴ「ああ、約束する。君がこれから話すことは、誰にも漏らさない。」
マキは小さくうなずき、二人の向かいにある椅子に腰を下ろした。
マキ「わかった……。よく聞いて。すべての始まりは、十二年前にさかのぼるの。」
小屋の中は静まり返った。
マキの表情が少しずつ変わっていく。まるで、遠い過去の記憶が彼女をあの頃へと引き戻しているかのようだった。
マキ「当時、この紙の花の島を治めていたのは、私のお父様だった。お父様は公平な人で、島の人々から愛され、尊敬されていた。でも、お父様には誰にも知られたくない、ある危険な秘密があったの……。」
ロキ「危険な秘密? それって何?」
マキは真剣な表情で二人を見つめた。
マキ「お父様は、とても珍しいものを持っていたの……。普通では考えられない力を秘めた、謎の核を。」
ロキは突然顔を上げた。いつもの笑顔が消える。
ロキ「待って……核だって!?」
マキ「ええ。あなた、何か知っているの?」
ロキはリンゴに視線を向け、それから再びマキを見た。
ロキ「シンゾウから聞いたことがあるんだ。人間は核に触れることで、その力を手に入れられる。そして、一人が持てる核は一つだけで、二つの核の力を同時に持つことはできないんだって。」
ロキは一瞬言葉を切り、真剣な表情で続けた。
ロキ「それに、核の力を使えば使うほど、核の温度は上がっていく。限界を超えれば爆発したり、持ち主の体を内側から焼き尽くしたりする危険があるんだ。だから、使うのをやめて、冷めるまで休ませなきゃいけない。」
マキ「じゃあ、あなたは核の秘密を知っているの!?」
ロキ「シンゾウから教わったことは知っているよ。でも、核についてすべてを知っているわけじゃない。」
リンゴ「ロキが核の力を持っていることなら、俺も前から知っている。でも、君のお父さんが持っていた核が、その話と関係しているかもしれないとは思わなかった。」
マキは不安そうにロキを見つめた。
マキ「核の危険性を知っているなら、あなたたちにもわかるはずよ。お父様が、あの力が悪人の手に渡ることをどれほど恐れていたのか……。」
リンゴ「だが、すべてはどうやって始まったんだ? その男は、どうやって核の存在を知った?」
マキはうつむき、両手の指を強く絡ませた。
マキ「お父様が王座を追われる前、宮殿に一人の男が仕えていたの。野心家で頭も切れる男だった。でも、その裏に隠された本当の企みを、お父様が知ったときには、もう手遅れだった……。」
彼女は少し間を置いてから、話を続けた。
マキ「ある日、その男はお父様に報告書を提出し、ある計画を実行する許可を求めたの。でも、その計画について、お父様は私に詳しいことを教えてくれなかった。ただ、その裏には危険な企みがあると見抜いて、きっぱりと拒否したの。」
リンゴ「その計画は、核に関係していたのか?」
マキ「詳しいことはわからない。でも、お父様が側近たちとその話をしているのを聞いたことがあるわ。お父様はひどく怒っていた。そして、あの男に核の力を兵器に変えることなど、絶対に許さないと言っていたの。」
リンゴの表情が険しくなった。
ロキも身を乗り出し、真剣に話を聞いていた。
マキ「それから二か月が過ぎた。お父様は、あの男も計画を諦めたのだと思っていた。でも、ある日、突然戻ってきたの……。しかも、今度は一人じゃなかった。武装した手下たちを引き連れ、力ずくで宮殿に押し入ってきたのよ。」
マキの手が震え始めた。彼女は胸元で両手を握りしめ、必死に感情を抑えようとした。
マキ「あの日のことは、今でもはっきり覚えている……。宮殿の廊下には兵士たちの足音が響き渡り、あちこちから人々の悲鳴が聞こえていた。最初は何が起きているのか、わからなかった。私は玉座の間へと走った。そこで、あの男がお父様の前に立っているのを見たの。」
重苦しい沈黙が流れた。
マキ「あの男は武器を掲げ、皆の前で宣言したの。お父様を殺し、この島の支配者になると……。」
ロキ「何だって!? 自分の宮殿で王を脅すなんて、何てやつだ!」
マキ「脅しだけじゃなかった……。あれはクーデターだったの。あの男はすべてを計画していた。お父様に計画を拒否されたことを口実にして、ずっと胸の内に秘めていた野望を実行に移したのよ。」
リンゴ「そのとき、君はどこにいたんだ?」
マキの目に涙が浮かんだ。それでも彼女は涙をこらえ、話を続けた。
マキ「私は玉座の間にあった柱の陰に隠れていた。お父様が、何があっても核を渡すものかと、あの男の前に立ちはだかる姿を見たの。お父様は、考え直すよう説得しようとしていた。あの力を求めれば、島に破滅をもたらすことになると……。」
マキは目を閉じた。
まるで、父の声が今も耳元で響いているかのようだった。
マキ「でも、あの男は聞く耳を持たなかった。笑いながら、お父様の時代は終わった、これからはこの島が自分の支配下に置かれるのだと言い放ったの。」
ロキは怒りに拳を握りしめた。
ロキ「この卑怯者……!」
マキ「あの男は手下たちに、お父様を捕らえるよう命じた。お父様は必死に抵抗したけれど、何十人もの兵士に囲まれていたの。私は助けに飛び出そうとした。でも、護衛の一人に捕まって、無理やり隠れさせられた……。」
マキの声が震えた。
マキ「お父様が私の名前を呼ぶ声が聞こえた……。そのあと、剣と剣がぶつかり合う音が響いた。そして、しばらくすると……何も聞こえなくなったの。」
マキはすぐには続きを話せなかった。
うつむいた彼女の頬を、一筋の涙が伝った。
ロキ「マキ……。」
彼女は涙をぬぐい、再び顔を上げた。
マキ「隠れていた場所から出たとき、お父様は床に倒れていた……。そして、お父様を裏切ったあの男が、その場に立ち、王は死んだと皆に告げていたの。」
小屋の中は再び静まり返った。
聞こえるのは、木の窓を激しく打つ風の音だけだった。
マキ「その日、私はお父様を失った……。そして、この島も王を失った。でも、あの男は王座を奪っただけでは終わらなかった。核を探し始めたのよ。核の力を手に入れれば、誰にも止められない存在になれると考えていたから……。」
リンゴは壁に掛けられた地図へと目を向けた。
リンゴ「だから、あいつは今も君を追い続けているんだな……。君が核の場所を知っていると思っているから。」
マキはゆっくりとうなずいた。
マキ「ええ。お父様が核に関する秘密を隠していたことは知っていた。でも、本当の場所までは知らなかったの。そして、お父様が殺される直前、ある小さなものを私に渡して、何があっても大切に守るようにと言ったの。」
マキはテーブルの上から金属片を取り上げ、二人の前に置いた。
マキ「これが、あの日から私の手元に残っている唯一のものなの。お父様は、たとえ島から逃げなければならなくなっても、決して誰にも渡してはいけないと言っていたわ。」
リンゴは金属片に刻まれた紋様をじっと見つめ、それから地図へと視線を移した。
リンゴ「もしかすると、この金属片が核の場所へ導く鍵なのかもしれない。」
ロキ「だったら、あいつより先に核を見つけよう! もしあいつがその力を手に入れたら、誰にも止められなくなる!」
マキは不安そうに首を横に振った。
マキ「それが怖いの……。十二年も経ったのに、あの男はまだ探し続けている。そして今、部下たちに私の居場所を突き止められた。とうとう真実にたどり着きかけているのかもしれない……。」
リンゴは立ち上がり、剣の柄に手をかけた。
リンゴ「奴に核を渡すわけにはいかない。」
ロキはリンゴを見て、いつもの笑顔を浮かべた。
ロキ「そのとおり! マキを助けるって約束したんだ。今さら引き下がれるもんか!」
マキは驚いたように二人を見つめた。
家族に何が起きたのかを知ったばかりの二人が、ここまで自分の味方になってくれるとは思ってもいなかったのだ。
マキ「どうして、そこまでして私を助けてくれるの? 私たち、出会ってからまだ少ししか経っていないのに……。」
リンゴは落ち着いた声で答えた。
リンゴ「大切なものを誰かに奪われる苦しみなら、俺たちにもよくわかるからだ。」
ロキは微笑み、マキに向かって手を差し伸べた。
ロキ「それに、他人の夢を踏みにじるような奴は大嫌いなんだ!」
マキは差し出された手を見つめ、それから二人の顔を見上げた。
話し始めてから初めて、彼女の顔に小さな笑みが浮かんだ。
しかし、彼女が何かを言おうとした、そのときだった。
小屋の外から、激しい衝撃音が響いた。
ドォンッ!!
三人は一斉に飛び上がった。
リンゴ「今の音は何だ!?」
リンゴは窓へ駆け寄り、慎重にカーテンをずらした。
遠くの森では、松明の明かりが木々の間を縫うように動いていた。あちこちから男たちの怒号が響き渡っている。
兵士「この辺りをくまなく探せ! あの娘は必ずこの近くに隠れているはずだ!」
マキはその場で凍りついた。顔から血の気が引いていく。
マキ「そんな……! もう追いつかれたの……!」
ロキは武器を握りしめた。拳の周囲に、バチバチと稲妻が走る。
ロキ「どうやら、息をつく暇さえ与えてくれないらしいな!」
リンゴはゆっくりと剣を抜いた。迫り来る明かりを、鋭い目で見据える。
リンゴ「マキ、地図と金属片を持って、安全な場所に隠れていろ。奴らは俺たちが相手をする。」
マキ「でも、あんなに大勢いるのよ! 二人だけで戦うつもりなの!?」
ロキは自信たっぷりに笑った。
ロキ「心配するな! 俺たちは三人も倒したじゃないか! あと何人か増えたところで、何の問題があるんだ?」
リンゴ「焦るな。敵が何人いるのかもわからないし、指揮官本人が来ているかどうかもわからないんだ。」
そのときだった。
小屋の外から、低く重々しい声が響き渡った。
「マキ! 中にいるのはわかっているぞ! お前の父親が残した金属片を渡せ! そうすれば、生きたまま外へ出してやる!」
マキの目が大きく見開かれ、全身に冷たいものが走った。
マキ(心の声)「この声……まさか、あいつ自身が来たというの……!?」
リンゴは真剣な表情でマキを見た。
リンゴ「マキ……この声の主を知っているのか?」
マキは震える声で答えた。
マキ「お父様を殺した男よ……。この紙の花の島を乗っ取った、今の支配者……!」
一瞬、沈黙が流れた。
やがてリンゴの口元に冷たい笑みが浮かび、彼は剣を構えた。
リンゴ「なら、わざわざ探しに行く必要はなくなったな。」
一方、ロキは腕に稲妻をまとわせながら、扉へと歩み寄った。
ロキ「そうだな……向こうから、わざわざ来てくれたんだからな!」
つづく……
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次回、第11話は明日公開予定です!ぜひお楽しみに!




