■35.聖女の魔王城ライブ当日
瞬く間に日が過ぎ、ライブ当日。
「今日は精一杯、私がヴァルディさんの捕虜であることを宣伝します!」
控え室にて、やる気に溢れた顔で本日の意気込みを語るシェリネ。ライブの目的はきちんと魔王から聞いているらしい。
「正確にはヴァルディさんの上司さんの捕虜ですが、『上司くんは出張中だから、部下のヴァルディを名代に立てるといいよ』と、魔王様に助言いただきまして。なので会場では、声も高らかにヴァルディさんの名前を出させていただきますね」
当日の朝になって「そういやシェリネの認識と事実のズレをどうしたものか」という問題に直面していたヴァルディは、魔王の細やかな配慮に感謝した。後日マフィンを焼いて持って行こう。
「ああ。俺の捕虜だと高らかに宣言してこい」
「はい! 昨日は極上のカレーを食べたので、力に満ち満ちています!」
「そうか。ライブが終われば二日目カレーがお前を待っている」
「一日目よりさらにコクと風味が増すやつ……!」
シェリネの激励を終えたヴァルディは、控え室を後にして会場に向かった。
野外ライブ用の舞台が設置された広場を目指して歩く。まだ開始時刻には早いので、きっと空いているだろうなと考えていたのだが。
「多っ」
会場はすでに大勢の魔族で賑わっていた。ざっと千人はいる。屋台まで出ている。もはやお祭りである。
「インストバンド『布教和音』の演奏久々~! そりゃみんな来るよね~」
「なんか今日だけ特別にボーカル入れるんだって!」
「しかも件の聖女らしい」
「人間をボーカル起用するたぁ、さすが布教和音、ロックだぜ……」
「聖女って確かヴァルディ様が捕虜にした人間だっけ? どんなやつ?」
「ヴァルディくんが可愛い女の子と廊下でおてて繋いで照れ照れしていた、という目撃情報が多数あって、その子が聖女ではないかと噂が」
「大変いちゃついていた。敵に対し『死ねクソ雑魚どもが』と容赦なく血の雨を降らせていた男と同一人物とはとても思えなかった。と目撃者は証言しており……」
「しかもその女の子、左足に足輪付けてたって」
「それ、聖女を下僕にするために捕らえたんじゃなくて……」
「お嫁さんにするために情熱的に口説き落としてきたやつ……!?」
「ロマンチックだなちくしょう爆発しろ!」
大勢の魔族たちが銘々喋る会場は騒がしい。喧噪を避けて会場を遠巻きに見るヴァルディは、主な話題が自分とシェリネの関係性であることなど露知らず、「こんだけ集まるなんて、暇な魔族が多いんだな」と呑気に思っている。
そうこうしているうちに、開演時間になった。
魔王にもらった最前列優待券を入手直後に灰にしてしまったヴァルディなので、大人しく後方列に立ち、屋台で買ったジュースを片手に舞台を見据える。
ふいに、会場が静かになった。
「今日は集まってくれてありがとぉ」
「嬉しいのだぞ!」
「ようこそおいでませ」
まずはピトフィ・ギギ・オールワークスの挨拶があり、熱い拍手が起こり、ヴァルディにはよく分からないコール&レスポンスがあり、また会場が静かになる。
「それでは、本日の主役の登場だぞ!」
ギギの紹介を受け、魔動式拡声器(通称マイク)を両手で持ったシェリネが、とことこと舞台裾から姿を現した。水色の服とベールを身に付けた銀髪碧眼の少女は、遠くからでもよく目立つ。
「初めまして、魔界の皆さん」
これだけ大勢の魔族、というか魔族云々関係なくこの数の観客を前にしながら、シェリネは堂々としていた。あいつ弱々しい見た目なのに舞台度胸はあるよな、とヴァルディは感心する。
「私はシェリネと申します。フロギア王国から、ヴァルディさんの捕虜として魔界にやってきました。この最旬モテかわ足枷が捕虜の証です」
自分以外がシェリネの名前を知るのは面白くないけど「ヴァルディさんの捕虜」と所属が明言されているので許容しよう……と大人な対応をするのに忙しいヴァルディは、観客の視線がシェリネの足輪に向いて温かい空気になっていることに気付いていない。
「今日は魔王様が、私が末永く魔界に馴染めるようにと、この舞台を整えてくださいました。どうか皆さんに楽しんでいただけますように」
後ろに控えているピトフィたちが、各自の楽器を構える。
「それでは聞いてください」
ヴァルディはジュースを飲みつつ、ふと「そういやシェリネの歌をちゃんと聞くのは初めてだな」と思った。
彼女の歌声を耳にしたのは、初日に浴室から牢屋賛歌が聞こえてきた時くらいだろうか。愛らしい声で、なんとも平和な歌を口遊んでいた記憶がある。
「一曲目は今年魔界で流行った楽曲、『君に告白♡』です」
音楽に興味のないヴァルディなので、流行の曲もよく分からない。だが曲名から察するに、いかにもシェリネに似合いそうな呑気な歌なのだろう。
しんと静まり返った会場の中、すう、とシェリネは息を吸い。
「――てめぇの罪を、懺悔しろぉおおおおおおあああああああ!」
ゴリゴリに圧の籠もった歌声を響かせた。
「ごっふ」
ヴァルディは飲みかけのジュースを吹いた。
~おまけ:用語解説~
『君に告白♡』
魔界の大人気ロックバンド『デスモスチルス』のヒットナンバー。
初恋の女の子に見栄張ってカッコつけて嘘吐いた結果うっかり尊敬されちゃって引くに引けなくなった少年の葛藤を歌う、ほろ苦くも甘酸っぱい青春の曲。
ドラムの演奏が人間業じゃない速度だけど魔族だから大丈夫。
ファーストアルバム『束柱類より愛を込めて♡』に収録されているぞ。
次話でちょっとだけ歌詞が出てくるのでお楽しみに!




