■33.なぜかモヤモヤした結果の競歩
その日さっそくバンドメンバーの顔合わせだとかでシェリネを本館へ送り、やっぱり付き添いたいのでしれっと随行しようとしたが、笑顔で放たれた「いってきます!」が可愛かったのでうっかり「いってらっしゃい」を返してしまい、仕方なくひとり寂しく家に戻り、料理の下準備をして過ごし、指定の時間になったので迎えに行ったヴァルディは。
「ベース担当のギギさんから、屍四獅子車の一日乗車券をいただきました!」
「またわけの分からん券を嬉しそうにもらってお前は」
またもや魔族と即行で仲良くなっているシェリネを目撃することになった。
「わけの分からんとは失礼な。僕様から聖女くんへお近づきの印なのだぞ」
シェリネの隣でふんぞり返っているのは、鹿っぽい動物の頭骨を被りローブを羽織った、十歳くらいの子ども。
骸子という魔族のギギは、見た目こそお化けの仮装をした幼子だが、実年齢はヴァルディよりも遥かに上であり、魔界随一の死霊術士でもあり、頼んでもないのに講義を始める長広舌の持ち主でもある。
「この券の素晴らしさを解さないとは、これだからヴァルディは。それに引き換え、聖女くんは非常に見所があるのだぞ! 死霊術が人間界隈で実しやかに囁かれているような屍を弄ぶ非道の技ではなく死霊との適切な取引に基づいた信頼と実績の術であるという説明にきちんと理解を示し僕様の可愛い屍四獅子の話を聞かせたらそれは興味津々で」
「あー。もー。話が長い。しかも屍四獅子ってあれだろ、めちゃくちゃ凶暴な」
「ギギさんは頭が四つある大きい猫を飼っていて、その子の背に乗せてくれる券とのことです! 二枚いただいたので、今度ヴァルディさんと一緒に乗りたいなって」
「うん。乗る」
にこにこと一緒のおでかけを提案するシェリネに、ヴァルディが無意識に尻尾を振りつつ素直に返事をしたら、ギギが頭骨越しにも分かる生暖かい目を向けてきた。
「ヴァルディ……お前、聖女くんの前だと、借りてきた猫なのだな……」
「は? 俺のどこが猫だ。俺は火竜だぞ」
「借りてきた猫って言うかぁ、猫被りって言うかぁ」
「提言。ツンを失ったツンデレの線」
あたかも最初から会話に参加していたかのような滑らかさで、ピトフィとオールワークスがひょっこりと現れた。
なぜこの場にと言いたかったが、彼女たちもバンドメンバーなのでここにいるのが当然である。
「聖女サマを送り迎えして甲斐甲斐しいのねぇ、ヴァルディ」
「さすが捕虜様の見張り番でございます」
「気合いの入った足枷を贈るだけのことはあるのだぞ」
「そうそう、さっきはその話で盛り上がってねぇ」
「美しい足枷がよくお似合いです、捕虜様」
「えへへ、そんなそんな」
一気に現場が賑わう。これが女子会か。なんだこの形勢不利な雰囲気は。よもや足輪を渡した経緯を根掘り葉掘り聞かれるのではあるまいか。
本能で危険を察知したヴァルディは、慌ててシェリネの腕を掴んだ。
「ほら早く帰るぞシェリネ。捕虜には門限があるんだからな」
「はっ、すみませんヴァルディさん。では皆さん、また明日もよろしくお願いしますね!」
「またねぇ」「こちらこそ」「うむ!」
親しげに手を振る三人にヴァルディは背を向け、シェリネをぐいぐいと引っ張って大股で歩き出す。シェリネは歩きながら、それは楽しそうに語りかけてきた。
「ギギさんもヴァルディさんと同じ、七星の方なんですね!」
「ああ」
「ピトフィ姐さんがギターで、オールワークスちゃんがドラムなんです!」
「へえ」
「明日から皆さんと一緒に練習です!」
「……」
にこにこと話されるうちに、ヴァルディはモヤモヤした気持ちになってきた。
シェリネがギギたちと打ち解けることは想定していたのに、いざ目の当たりにすると、こんな風に他人の話をされると、思い知ってしまう。
シェリネは本当に、誰とでも仲良くできるのだと。
相手が火竜でも、猛毒鳥でも、鉱石鬼でも、骸子でも。
彼女が「魔族」という理由でヴァルディを拒絶しなかったことが嬉しかったはずなのに、それが他人にも分け隔てなく適用されると、なぜか焦燥を感じてしまう。今まではシェリネが楽しそうにしていると嬉しかったはずなのに、なぜか今回は、全くそう思えない。
このモヤモヤは疎外感だろうか。女子会のせいだろうか。シェリネを女子会に取られてしまう危機感だろうか。ヴァルディも女子会に混ざればいいのか。
「あの、ヴァルディさん」
「……」
「その、突然の競歩に、ちょっと追いつけなくて」
「!」
シェリネの腕を掴んだまま早歩きしていた自分に気付き、ヴァルディは慌てて立ち止まった。ついてくるシェリネは大変だったろう。
「ごめん……」
「いえ、門限を守るために急がなくちゃなんですよね。すみません、足が遅くて……」
適当な嘘のせいでシェリネを申し訳なくさせていることに申し訳なさを感じ、すかさず「いや、門限はまだ大丈夫だ」と返す。
「引っ張ってごめ……」
腕を放し、もう一度謝ろうとしたら、シェリネがビクッと肩を跳ね上げた。解放されたばかりの腕で、ヴァルディにしがみついてくる。
「どうした?」
怪訝に思ったヴァルディが、シェリネの怯えた視線の先を見ると。
「よぉ、ヴァルディ!」
向こうからやってくるのは、カルドロだった。
連載を追ってくださっている皆さま、いつも応援ありがとうございます!
いただいた感想、毎度楽しく拝見しております……生きる活力……!
というわけで、おまけコーナーでございます!
おまけ:読者さんの疑問解消コーナー
Q:
ヴァルディは火竜パパと人間ママの間の子だから、ハーフってこと?
A:
魔族は異種族と結婚した場合、子どもはハーフではなく、力が強いほうの種族になって生まれます。
火竜と人間の場合、その子どもは火竜になります。
なのでヴァルディは火竜100パーセントです(果汁100パーセントみたいな語感)。
なお、魔族は絶対数が少ない種族もたくさんいるので、異種族との結婚は割とポピュラーです。
そのため、魔界では異種族へのアプローチ方法を解説した恋愛テクニック本とかも売られています。
ただし対人間のアプローチ方法は魔界ではよくわかってないので、「とりあえず壁ドン」みたいな雑なテクニックが紹介されがちです。とりあえず顎クイ。




