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捕らえた聖女の目が死んでたので正体隠して面倒見る  作者: 棚本いこま
第3章 聖女と手を繋ぐ

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30/33

■30.繋ぐます



 魔王とのお茶会を恙なく終え、ヴァルディは安堵した。


 フロギア王国の兵士を皆殺しにした魔族本人であることを始め、ヴァルディがシェリネに対し各種事実を伏せ嘘を多用していることが、この場で露見しやしないかと冷や冷やしていたのだ。


 だが、途中で際どい話題(足輪への言及)が出たものの、ヴァルディが我ながら巧みに誤魔化したおかげで大事には至らなかった。


 それ以外に危険な話題は出てこず、魔王とシェリネのお喋りは魔界で流行りの歌がどうの、話題の恋愛小説がどうのといった、平和的かつヴァルディが全く興味のない分野の話に終始し、欠伸をしながらお茶を飲んでいる間にお開きとなってくれた。


「本日はお招きいただき、ありがとうございました!」


「こちらこそ。お話できて楽しかったよ」


 最初は魔王に対し一歩退いた態度を取っていたシェリネも、この短時間ですっかり打ち解けたらしい。


 魔王もまた、なぜか妙に浮かれていたり急に遠い目をしたり天を仰いだり元気を失くしたりと挙動不審気味だったのはさておき、この茶会でシェリネを快く受け入れた様子だ。


 ヴァルディは元々、シェリネが自分以外の誰かと仲良くするのは「取られた」感じがするから嫌だと考えていたが(例:2号がシェリネに抱っこされていると無性に腹立たしい)、実際こうしてシェリネが魔王に親しみを覚え、魔王がシェリネを歓迎している光景を目にすると、なんだか喜ばしい気持ちのほうが強かった。


「見てください、ヴァルディさん。魔王様がたくさん小説を貸してくださいました。捕虜生活に潤いを、とのことです」


 どうやらヴァルディが茶会で欠伸している間にそういう話になっていたらしく、いつの間にかテーブルには本が山と積まれていた。


「全て私のお勧めの恋愛小説だよ。基本ハピエン、変化球でメリバ、ジャンルも王道から変わり種まで揃えてみた。シェリネちゃんに喜んでもらえるといいな」


「嬉しいです! 神殿ではこういう本を読ませてもらえなかったので」


「うんうん。ヴァルディ、君もこの機会に読むといいよ。というか読みなさい。勉強になるから。勉強に。特に恋愛能力ぽんこつ無自覚デレ世話焼き系が出てくる話なんて本当に勉強になるはずだから」


「んー、あー、気が向いたら」


 妙に強めの圧で恋愛小説を勧めてくる魔王に、ヴァルディは生返事をした。文字だけの本など読む気になれないのだ。ヴァルディがきちんと読んだことのある書籍は絵本か料理本くらいである。


 だがまあ、シェリネの余暇の楽しみになるのなら歓迎なので、こうして貸してくれるのは嬉しい。シェリネが懸命に抱えようとしている大量の本を全て奪い、クッキーを入れてきた袋に詰め込み、肩に担ぐ。


「じゃあな魔王」


「お邪魔しました!」


「気を付けてお帰り。またお茶しようね」


 にこやかに手を振る魔王に見送られ、ふたりは部屋を後にした。


 廊下を少し歩けば、来た時に通ってきた転移扉に辿り着く。

 ヴァルディの自宅の中庭に設置されているものは地味な扉だが、本館側の転移扉は髑髏の装飾が施された物々しいデザインだ。魔王城感を演出したいのだと魔王は言っていた。


「あー、やっと終わった。ようやく帰れるな。……シェリネ?」


 返事がないので振り返ると、呑気に転移扉に手を掛けたヴァルディの後ろで、シェリネが俯いていた。


「どうした? 忘れ物か?」


「いえ、その、また転移扉を通るので……」


 シェリネはもごもごと言い淀んでいたが、意を決したようにヴァルディを見上げた。


 決した割には頼りない表情で、頬は赤く、つまり恥じらっているのだと分かって、恥じらいの理由もすぐに分かった。


「手を、繋ぎますか……?」


「……繋ぐ、ます」


 ぎこちなくシェリネの手を取るヴァルディが、尻尾の鱗を逆立ていたのは、言うまでもない。





以上、第3章「聖女と手を繋ぐ」編でした。

お前ら付き合って一日目の恋人同士か。


次話から第4章「聖女は歌う」編、これにて最終章です。

連載に少し休憩を挟みまして、8月中に再開予定です。


次話まで間が空いてしまいますが、正体を隠してきたヴァルディ&あらゆる嘘を鵜吞みにしてきたシェリネの行く末を、最後まで見守っていただければ幸いです!

とりあえずシェリネには魔界ワンマン野外ライブを開いていただく予定です。


そんなこんなで以下おまけ、4章で活躍する七星の皆さんの振り返り紹介です。

予習にお使いください。


・カルドロ……全自動で惚気た弟分に燃やされかけたむきむきお兄さん。

・ヤンヤン……後半でちょびっと出番がある予定の金髪チャラ眼鏡。

・ピトフィ……ばっちり再登場予定の気怠げお姉さん。

・ギギ……4章でがっつり出番があるのだぞ!

・フレン……4章でも出番を捻じ込めそうにないため、本作に出てこないことが確定した可哀そうな眼鏡。ごめん。

・オールワークス……再びシェリネと絡む予定の無表情系メイド。

・ヴァルディ……直近の動揺案件はシェリネのおてて。動揺すると敬語が出るます。


それでは8月にまたお会いしましょう!



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― 新着の感想 ―
8月の再会を心待ちにしています。 竜族がヤンデレしかいないのは勉強になります(笑)
取り敢えず、ヴァルディは魔王様一押しの「恋愛能力ぽんこつ無自覚デレ世話焼き系が出てくる話」を読んだ方がいいと思う(笑)
(魔王様の貸し出し小説の中に「塔の魔術師、塔の中の楽園」(魔法で勝手に書籍化)を忍ばせ、次元帰還中にあと書きを二度見する音) 「次回予告・眼鏡」…、おまえ、消えるんか…? いや、まだだ。まだ未来は…
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