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捕らえた聖女の目が死んでたので正体隠して面倒見る  作者: 棚本いこま
第3章 聖女と手を繋ぐ

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■29.魔王、天を仰ぐ



「そっちが呼んだんだからさっさとお茶を出せ。早くシェリネを椅子に座らせろ。こいつは俺の家から花畑程度の距離で息を切らすくらい貧弱なんだぞ。立たせたままじゃ可哀想だろうが。シェリネが筋肉痛になったらどうしてくれる」


「おっと、これは申し訳なかったね。さあさあ来ておくれ、あっちのテーブルにお茶の用意がしてあるんだ。ケーキもあるよ」


「あ、そうだ魔王。これ手土産のクッキー。ケーキと一緒に食うか?」


 今度はシェリネが「えっ!?」みたいな顔でヴァルディを見ていた。魔王に対する彼の砕けた通り越して雑な態度に驚いているらしい。


「あの、ヴァルディさん。いつも魔王様にそんな感じなんですか……?」


「そうだけど、何か変か?」


「魔王様って、魔界で一番偉い人なんですよね……?」


「まあ、そうだと思う」


「ヴァルディさん、自分は全く地位の高くない魔族だと言ってたので……」


「あっ」


「不敬罪とかで斬首になりませんか……?」


「いや、うん、あれだ、その、魔王は俺の育ての親みたいなもんだから」


「ヴァルディさんの育ての親!?」


 ひそひそとヴァルディに話しかけていたシェリネの視線が、勢いよく魔王に向いた。先程までの恐縮した様子が消え、きらきらした目で魔王を見つめてくる。「ヴァルディの育ての親」という情報一つで、魔王に対するシェリネの親しみ度が爆上がりしたことがありありと分かった。


「ふふふ、そうだよ。ヴァルディと私は仲良しこよしさ。さあシェリネちゃん、どうぞ遠慮なく掛けておくれ」


「はい!」


 永い時を生きる中で数多の人間と関わってきた魔王だが、ここまで他意のない、ともすれば背景にでかでかと「尊敬!」の文字が見えてしまいそうなほど純粋な敬意を向けてきた人間は初めてだった。


 魔王はむずむずした気持ちになると同時に、納得した。人間を嫌うヴァルディが、どうしてシェリネには敵意を抱かなかったのか。


 三人が着席すると、テーブルの上で待ち構えていたお茶係が、各自に温かい紅茶を注いで回った。小さくて丸くてやたらともっちりしている生き物がポットを抱えて動き回る様を、シェリネは興味深そうに見届けている。


「どう? 魔界のお茶だけど、お口に合うかな?」


「はい! 私は魔界に来て以来、美味しい紅茶にしか出会ったことがありません」


 シェリネの称賛に、隣のヴァルディが無言で嬉しそうにしていた。普段からシェリネに紅茶を淹れてあげているものと思われる。


「ふふふ、そうかいそうかい。メロンのケーキも遠慮なく食べてね。魔界の有名店のものだよ」


「うわあ……絶品……メロンすごい……魔界のお店すごい……」


 シェリネの称賛に、隣のヴァルディが無言で不機嫌極まる顔をしていた。魔界の有名店に嫉妬しているものと思われる。


「おいシェリネ。俺が焼いたクッキーも食え。俺が焼いたクッキーも」


「え、でも……魔王様への手土産クッキーなのに、私が食べてしまうのは」


「たくさんあるから二、三枚くらい平気だ。さあ食え」


「駄目です……ヴァルディさんのクッキーなんて神クッキーに決まっているので、二、三枚で止まれる自信がないです……」


「そっ、そういうことなら仕方ないな! ちょうど今日はたまたま山ほどクッキーを焼きたい気分だったから、帰ったら好きなだけ食わせてやる」


「本日の予告は神ばかり……!」


 ヴァルディはシェリネの一言一句で、喜んだり嫉妬したり誇ったりと情緒が忙しない。シェリネのほうも同様である。


 お互いがお互いにちょろい彼らを見守る魔王は、悠然とした表情を保ちながら内心では身悶えしていた。お前ら仲良しか。相思相愛か。もはや不用意にパーティークラッカーを鳴らしたい。


「そうそう、シェリネちゃん。君の左足なんだけど」


 いよいよ本題に切り込むぞ、馴れ初め聞いちゃうぞと魔王は意気込み、努めてさりげなく話題を振る。


「とても綺麗な足輪を付けているね?」


 ヴァルディがギクッと肩を跳ねさせた。目が勢いよく泳ぎだす。あからさまに動揺しているヴァルディの隣で、シェリネが天真爛漫に「はい!」と頷いた。


「魔界の捕虜用の足枷って、すごくお洒落なんですね。驚きました」


「……んっ?」


 魔王は微笑みを保ったまま、ちらっとヴァルディを見た。高速で目を逸らされた。


「……シェリネちゃんは、それ、足枷だと思ってるのかい?」


「はい! 初見では足枷だと思わなかったんですけれど、最近は鎖のないフリースタイルかつ、宝石をあしらってリュクスでプレシャスな雰囲気を演出かつ、左足のみのアシンメトリーデザイン足枷が主流なのだと、ヴァルディさんが説明してくださいました。ね、ヴァルディさん!」


「そそそそうだ。決してピトフィに急いで借りたお洒落雑誌の専門用語を駆使して後付けで設定を補強したとかそういうのではなく、俺は捕虜の見張り番として捕虜に正しい装いをさせる義務を全うしただけだ。魔王は流行に疎いから知らなかっただろうが、これが魔界の最旬モテかわトレンドを重視したモードでサスティナブルな足枷だぞ」


「捕虜の見張り番……最旬モテかわ……」


 魔王がぎこちなく繰り返すと、先程は目を逸らしたヴァルディが、今度は話を合わせろと言わんばかりに目で訴えてくる。


 捕虜を自認し、どう見ても美しい装飾品でしかない足輪を足枷と信じ切っているシェリネ。

 捕虜の見張り番を自称し、頑なに足輪の意味を認めないヴァルディ。


 ヴァルディの性格をよく知る魔王は、瞬時に諸々の事情――ヴァルディが各種事実を伏せ嘘を多用しシェリネと現在の関係を築いた等――を察して。



 婚姻の証まで渡しておいて、付き合って一日目にすら到達してなかったんかい。



 と叫びたくなる気持ちをグッと我慢し、静かに天を仰いだ。





 次話で第3章おしまいです。



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― 新着の感想 ―
魔王さま、天を仰いで漢泣きだよ(≧Д≦)これ! 青空など見えない天井を見つめつつ、目元を覆い滂沱の涙を流しているに違いない! いや~、なんだかLINEのスタンプが欲しくなるなあ、シェリネちんの。 \…
サスティナブル足輪に腹筋がw w w いこま節ブルブルダイエットと名付けよう。
魔王様、保護者でしょなんとかして?
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