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捕らえた聖女の目が死んでたので正体隠して面倒見る  作者: 棚本いこま
第3章 聖女と手を繋ぐ

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■27.いちゃついている自覚はない


 ヴァルディの住む一軒家は、魔王城の敷地内にある。


 そのため窓の外に目を遣れば、魔王が住まう黒い城――通称「本館」の姿を臨むことができた。自宅から本館までの距離は、徒歩で三十分と言ったところか。


 シェリネはキリッとした表情で本館を見つめ、やる気に満ち満ちた様子で足の腱を伸ばし始めた。


「今からあそこまで歩くんですね。お花畑よりは近そうですね」


「いや、本館までは大して歩かないぞ。転移用の魔道具があるから」


 ヴァルディはシェリネの屈伸運動を中断させ、中庭に連れて行き、塀に立てかけられている地味な扉を指した。


「これが転移扉。開けたら本館に繋がる」


「わあ。転移術を魔道具に落とし込めるなんて、魔界の技術ってすごいんですね」


 本館を取り囲む形で配置されている七星の各家にも、同じ魔道具がある。

 何かと魔王に招集されがちな彼らなので、自宅に転移扉の設置が義務づけられているのだ。


「俺しか通れない設定になってるけど、俺に抱えられた状態のシェリネなら、たぶん荷物判定で通れるはずだ」


 さあ抱っこされろと言わんばかりにヴァルディが両手を差し出すと、物珍しそうに転移扉を観察していたシェリネが「えっ!?」と顔を赤らめた。


「どうした?」


「あの、それは、君は羽のように軽いよ抱っ……えーと、この前のような姿勢で抱っこしていただく、ということでしょうか?」


「そうだけど。もしかしてあの体勢、苦しかったか? だったら別の抱え方にしてやる。小脇に抱えてもいいし、肩に担いでもいい」


「それは……とても荷物感が出ますね……」


 途端、しょんぼりと萎れるシェリネ。小脇も肩も駄目なのだろうか……とヴァルディは不思議に思った末、自分が片手に提げているクッキーの袋を見て、閃いた。


「いや、よく考えたら手を繋ぐだけでもいける気がしてきた。手に持ったものも荷物判定になるんだし。楽だしそうするか」


 そしてヴァルディは空いているほうの手で、なんの躊躇もなくシェリネの手を握ったのだが。


「……はい」


 再び顔を真っ赤にしたシェリネに、きゅっと握り返された瞬間、凄まじい羞恥心に襲われた。


 ここ数ヶ月、おはようからおやすみまでシェリネと過ごしているヴァルディだが、実はこうして手を繋ぐのは初めてである。


 お姫様抱っこは運搬だった。

 全身で密着して眠った時は抱き枕感覚だった。

 だが、手を繋ぐ行為は手を繋ぐ行為でしかない。


 実施して初めて分かったが、クッキーの袋を手に提げるのとはわけが違った。クッキーは握り返してこない。手が小さい。可愛い。握力も可愛い。シェリネが可愛い。


「……ヴァルディさん?」


 手を繋いだまま固まるヴァルディに、頬を染めたままのシェリネが、おずおずと呼びかけてきた。ヴァルディはビクッと肩を跳ね上げ、「あっ、はい」となぜか敬語で応答する。シェリネと目を合わせられない。顔が熱い。


「つ……繋ぎ方、変じゃないか? これで合ってるか? 握る強さはこれでいいか?」


「は、はい。正しく接続できているものと思われます。強さも問題はないかと。私こそ大丈夫でしょうか。指の位置や角度に不備などは」


「ない。全然ない」


 お互い早口で応答し合い、揃って俯き、妙に緊張した空気が漂う。

 だが、どちらも「手を繋ぐのはやめよう」とは言い出さなかった。


「じゃあ、まあ、出発するか、うん」


「はい。……あの、ところで、尻尾どうされたんですか?」


「えっ」


 ヴァルディは生まれて初めて、戦意ではなく羞恥心でも、尻尾の鱗が逆立ってしまうことを知った。





■おまけファイナル~この世界の竜について~

※おまけのくせに長文だよ!


 竜は「宝を守る」という理念が存在の根本にあるので、宝(大事なもの)に対する執着が少し過剰です。

 特に最初の発情期(爽やかに言うと思春期)を迎えて以降は、その性質を伴侶に対しフルパワーで発揮します。

 雄の竜はハイパー束縛ヤンデレ野郎と化しお嫁さんを監禁が通常運転、雌の竜はウルトラ尽くし系だめんず製造機と化し旦那さんを徹底的に甘やかす傾向があります。(ただし個竜差あり。妻の尻に敷かれたがる竜も、スパダリ夫に甘やかされたい竜も少数派ながらいます。)

 宝に対して毎日が新婚みたいなテンション、宝が自分の手元にある限り人畜無害、もしも逃亡されたら八つ当たりで世界を滅亡させるミラクルはた迷惑生物、それが竜。

 ゆえに竜の伴侶になった異種族は、「自由時間をくれないなら二度とちゅーしない」みたいな交渉ができる胆力の持ち主か、「なんか監禁されてる気がするけど、美味しいご飯が毎日出るし、まあいっか!」みたいな大らかな心の持ち主でないと、なかなか苦労します。

 ちなみにヴァルディは竜的にまだ子どもなので、思春期を迎えるまであと二年ほど。執行猶予があってよかったね、シェリネ!


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というわけで、連載を追ってくださる皆さま、いつもありがとうございます!

みんなで叫ぼう魔法の呪文、「りあじゅうばくはつしろ!」


さて、来週の更新が待ち遠しいぜ……そんなあなたに、新作の宣伝を。


『ドアマット旦那様』という短編を書きました。

竜人×人間の嫁による、自宅前テント生活ラブコメです。1万字ちょっと。


こっちはこっちでツンデレ竜・ミーツ・ガール、よろしければどうぞ~!



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― 新着の感想 ―
「なんか監禁されてる気がするけど、美味しいご飯が毎日出るし、まあいっか!」……まさに現在進行形で捕虜だけどまぁいいか精神の人がいますね……
りあじゅうばくはつしろ! すえながくばくはつしろ!
思春期前と申したか。前と申したか。 つまり小学生だな。って書いてマジですか…ってなりました。 おまけ拝読、そんな爆弾みたいな生物にここまでの社会性を涵養した魔界の皆様の功績は盛大に顕彰されるべきでは…
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