■26.魔王、購買部から密告を受ける
魔王の元には日々、魔界中の様々な情報が集まる。
その情報網は広大な魔界に遍く行き渡り、遠くは国境付近まで、近くは魔王城の一階――便利な立地と豊富な品揃えで繁盛する購買部も、例外ではない。
通常は誰が何を買ったといった個人情報を、購買部の店主が易々と明かすことはない。だが今回は案件が案件だったので、それは極秘事項として、魔王の耳に届けられた。
購買部の店主曰く。
ヴァルディ様が女性に贈る足輪をご購入なさいました。
色とかデザインとかめちゃくちゃ悩んだ末のご購入でした。
ご本人曰く「捕虜にした人間に嵌めるただの足枷だ」とのことでした。
求婚の小冊子をそっとお渡ししたら真剣に読みながらお帰りになられました。
魔王は報告に来てくれた店主を労い、何も聞かずに小冊子を渡したファインプレーを褒め称え、金色の折り紙で作ったメダルを進呈した。
魔王は腕を組み、目を閉じ、この重要情報を咀嚼する。
魔王にとって部下は皆、我が子のような存在だ。
中でも親代わりに面倒を見てきたヴァルディに対しては、より一層可愛く思う気持ちがある。
そのヴァルディが、今、ひとりの女性を愛そうとしている。
魔王の膝の上で棒付き飴を舐めながら「おとなになったら、まおうとけっこんしゅる!」と無邪気に尻尾を振っていた、あのヴァルディが。
先日ふらっとやってきて「今日は天気がいいな魔王。ところで『愛おしい』ってどんな気持ちか説明してくれ」と聞いてきた時点で薄々というか濃々察してはいたが、ついにあのヴァルディが。
聖女に足輪を贈った――つまり、愛の告白に至ったとは!
「ああっ、大人になって……!」
魔王、感無量である。
ヴァルディが九歳の時、暴れる巨鎧蟲の背に飛び乗って振り落とされないよう尻尾を突き刺した上で延々と炎弾を撃ち込むという鬼畜戦法で完勝した際にもその成長に涙したものだが、今も同じくらいに感動している。
「しかし人間嫌いのあの子が、人間に恋をするとはね」
最初の頃、魔王は「フロギア王国の聖女様」に、さほど興味がなかった。確かに癒しの力は物珍しいが、それだけだ。所詮は有象無象の人間に過ぎないのだろうと。
だが、蓋を開けてみればどうだ。彼女はどういうわけか、ヴァルディの「宝物」になってしまったではないか。
ヴァルディの日々のウキウキ具合がその証拠であり、先日デートを偵察した七星からの「あれはガチのデートでした。いちゃついてました」という報告が裏付けである。
人間でありながら、魔族のヴァルディと良好な関係を築く聖女。もう興味が湧いて湧いて仕方がない。
「ああ、気になり過ぎる。聖女ちゃんと話してみたい」
今までは変に介入してヴァルディの恋路を邪魔しないよう、あくまで遠くから見守る姿勢を保ってきた魔王だが、もう我慢の限界だった。
だって足輪て。婚姻て。一体何があったら「絶対泣かす」と息巻いてた相手に愛を誓う事態になるのか。
大事なものは他人から隠したがるヴァルディのことだから、魔王が聖女に会いたがっても嫌がる(案の定デートの覗き見がバレたカルドロは「燃やされかけた。怖かった。惚気がひどかった」と証言している)だろうが、そこは我が儘を言えばなんとかなる。
魔王が絶対に会いたいと言えば、ヴァルディは露骨に嫌そうな顔をしながらも了承してくれるのだ。ヴァルディが命令を聞くこの世で唯一の存在が、魔王なのだから。
それにヴァルディが聖女を娶れば、彼女の立場は「捕虜」から「魔界の住人」に変わる。つまり魔王の庇護対象、会う権利は充分にある。
「という建前で職権乱用しよう。君の妻に挨拶させておくれって。うんうん」
もはやヴァルディと聖女は両想いかつ求婚も大成功した前提で浮かれている魔王は、すっかりお祝い気分である。パーティークラッカーの準備さえ始めている。
「購買部に『捕虜用の足枷』と言い張って注文するヴァルディのことだから、私の前でも素直に認めないかもしれないけれど、聖女ちゃんと話せば分かっちゃうことだからね。ふふ、馴れ初め聞いちゃおうかな~」
まさかヴァルディが当の聖女にすら足輪の真意を教えず、ただの足枷だと言い張っていることなど知る由もない魔王は、いそいそとお茶会の計画を練り始めた。
「すぐにでもお茶会したいけど、足輪贈りたてほやほやの新婚さんの邪魔しちゃ悪いかな。よし、来月になったらお茶会のお誘いをしようっと」
以上が、ヴァルディの家に魔王の伝言係が来るまでの経緯である。
■おまけシーズン2~続・登場人物近況~
・ヴァルディ
幼少期より妖艶なドレス姿の美女(魔王)に見慣れているので、ハニートラップ耐性が異様に高い。ただし対・シェリネになると、耐性が著しく低下する。たぶん色気と無縁の芋ジャージ姿だとしてもデレるくらいに弱くなる。
・シェリネ
悪しき魔族の手により肉欲に溺れ(直近のMVPはすき焼き)、享楽に耽り(夢のマカロンタワー)、堕落も覚えてしまった(抗えない二度寝)、退廃的な聖女。
退廃を極めた彼女は、もちろんハニートラップ(ガチの蜂蜜)にも非常に弱い。狡猾な魔族からの巧みな誘惑(蜂蜜好きなだけ使っていいぞetc.)に抗えた試しがない。




