第38話 命
「リヒトさん、どうしたんですか? こんな時間に……」
しかも、疲れているようで汗を流している。
「少しな、時間の余裕が出来たから、少しだけでも顔を見ようと思ってな」
「そ、そうだったのですね」
馬から降りたリヒトさんに近づいてみると、少しだけ顔色が悪いように見える。
それは、今が夜だからというわけではなさそう。
「あの、顔色が悪そうですが、大丈夫でしょうか?」
「顔色悪いか? 確かに、少し体が重たいが、問題はない」
絶対に問題あるでしょ!
でも、せっかく来てくれたのに、ここで帰すようなことを言うのも、失礼な気がする。
でも、心配。
すごく、心配。
何も言えずにいると、リヒトさんが顔を背けて笑う。
な、なんで笑っているの??
首を傾げると、今度は頭を撫でてきた。
リヒトさんの温かく、大きな手。
久しぶりだ、うれしい。
「すまない、急に笑い出して。言いたいことが手に取るようにわかってしまってな」
「え、そ、そうなんですか!?」
え、エスパー!?
エスパーですか、リヒトさん!!
『主よ、すごく顔に出ていたぞ』
「えっ!?」
う、うそ!!
恥ずかしい。
顔を手で押さえていると、リヒトさんがまた笑う。
リヒトさんが笑ってくれるのはうれしいけど、恥ずかしいよぉ。
「ゴホン。え、えぇっと。とりあえず、中で少しでもお休みください。寝ても大丈夫なので」
「あぁ、そうさせてもらおう」
二人で中に入り、いつものようにリヒトさんが席に座る。
「何か飲みますか?」
「いつものを頼む」
「わかりました」
二階へと行き、コーヒーと、軽食として野菜サンドを作り出す。
そういえば、サンドイッチは挟めるだけでも作れるよね……。
「…………」
いやいや、今は時間がない。
リヒトさんは今、疲れている。
いつもの慣れ親しんだ味の方が落ち着くだろう。
お盆に乗せ、いつものようにリヒトさんのもとへと行く。
窓の外を楽しむようにテーブルに肘をつき、眺めていた。
「お待たせいたしました」
テーブルに乗せながら言うと、リヒトさんがゆっくりとこちらを見た。
藍色の綺麗な瞳が、僕を映し出す。
「…………」
「え、えぇっと、どうしましたか?」
じーっと見られている。
なんで見られているのかわからず聞き返す。
「いや、まだあの時の言葉が頭に残っていてな」
「あの時の言葉、ですか?」
ど、どれだろう。
リヒトさんの頭に残るほどの言葉を、僕は言っただろうか。
何とか記憶をたどるけど、思いつかない。
またしても僕は顔に出していたらしく、リヒトさんは笑った。
「騎士は命を落としてでも、主や国の人を守る。それが当たり前。だが、それを根本的に否定してきただろう」
「い、いや、あの。否定ではなく……」
否定したわけではない。
ただ、信じたくなかった。
だって、誰だろうと、命は重い。
子供から大人まで。
どのような職業でも、どんな罪を起こした人でも。
命は、軽くないんだ。
「俺は、すごくうれしかった。――本当に、うれしかったんだ」
藍色の瞳が揺らぐ。
細められた瞳からは、喜びも感じるが、迷いも感じる。
「…………あの、命を大事にすることは、そんなにいけないことなのでしょうか?」
顔を覗き込み、聞く。
リヒトさんは驚き、細められていた目を大きく開いた。
「…………騎士にとって、自分の命を大事にすることは、いけないことだ」
「な、なぜでしょうか」
「迷いが生じ、動きが鈍くなるからだ」
僕は、前線で戦ったことはない。
以前も、リヒトさんが守ってくれ、サモスさんが僕を抱えてくれたから前線に出ることはなかった。
でも、わかる。
ほんの少しの迷いは、戦闘では命に関わる。
少しでも動きが鈍ると、相手の攻撃を許してしまう。
それは、見ていただけの僕でもわかる。
肌で、感じた。
「だから、自分の命は二の次なのだ。それが、当たり前――だと思ったのだが、俺は心のどこかで否定したかったのかもしれない」
「否定、ですか?」
「クリエントの言葉に喜びを感じた。共感してくれたことへの、喜びかもしれない。だが、同時に、自分はふがいないと感じてしまった」
笑みを浮かべたリヒトさんは、すぐに視線を落とし胸を押さえた。
「騎士としての心得を、心にしっかりと刻み込んだと思っていた。だが、そうではなかった。これでは、騎士として、これからも国を守れるかどうか……」
「――守れます」
なぜか、リヒトさんの問いに、間髪入れずに答えられた。
リヒトさんから視線を感じる。
「リヒトさん、あなたは僕を守ってくれた。国を、今まで守ってきた。だから、これからも守れます。守り続けることができます」
「だが、自覚をしてしまった。これからは、無意識に自分の命を――……」
「それで、いいではありませんか」
迷いのあるリヒトさんと目を合わせ、頬に手を添える。
不安そうに揺れている藍色の瞳に、僕の顔が映りだす。
「あなたも、国の人たちの一人です。自分を守り、国を守り、主を守る。それで、いいではありませんか。――それに、自分を守れない人が、人を守れるとは、僕は思えません」
片膝をつき、リヒトさんを見上げる。
「僕は、自分を守れる人が、本物の騎士だと思います。だって、堂々とした出で立ち、貫禄。それはすべて、自分を守れるから出ているのですよ。そして、それは人の心を安心させます。騎士が来たと、安心できるんですよ」
僕は、まだまだ平和な頭をしている。
まだ、大きな戦闘も経験していない。
けれど、今回僕が感じたのは、他の人も感じているはずだ。
堂々としたリヒトさんに安心し、弱っているリヒトさんに不安を感じる。
それが、ほかの人も感じているはずだ。
「命を軽く見ないでください。絶対に」
リヒトさんの目をまっすぐ見つめ、言う。
すると、リヒトさんが僕の手に自身の手を重ね、小さく頷いた。
「あぁ、わかった。ありがとう」
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