第37話 僕と料理と星空と
今回の事態は、一歩間違えれば大きな戦争を引き起こすほどだった。
当たり前だ。悪魔が動いていたのだから。
しかも、主であるヴァオラ家の当主、ケント・ヴァオラは残虐非道。
人を殺めることに一切躊躇しない、冷静で残酷な人だったみたい。
でも、今はクラウド家が管理している。
悪魔であるグラットニーは、サモスさんがグリードさんを使い、強制的に魔界へと返したみたい。
本当にそんなことできるのかなと思っていたけど、サモスさんならできるなと思うことにした。
でも、涙を浮かべながら「今回の報酬が、なんでこんなことに消えるんだよぉ~」とつぶやいていたのは、なんだったのだろう。
聞く前にサモスさんは消えてしまった。
クニーもいなくなってしまうのかなと思っていたけど――……
『? どうした、主』
「いや、何でもないよ」
今も、僕の隣で掃除をしている。
今僕がいるのは、平和を取り戻した創造館。
一日の出来事だったはずなのに、帰ってきた時、なぜかすごく懐かしいと感じた。
今はいつも通りの生活を送っている。
朝起きて、部屋の掃除。お客様がいつ来てもお出迎えできるように準備。
そして、すべてが終わったら本を読む。
いつも通りの平和な時間。
だけど、物足りない気分になる。
それは、リヒトさんがあの事件から一度も来ていないからだろう。
いろいろと後処理が忙しいのだと思う。
そう思うが、それでも寂しい気持ちは消えない。
今日は来てくれるんじゃないか。
そう期待してしまい、僕はまたドアを見る。
けど、いつもと変わらない。
「僕も何か手伝えたらいいんだけどなぁ」
僕も何か手伝うといったけれど、リヒトさんとエレナ様に断られてしまったのだ。
ここからは自分たちの役目だと、言われてしまった。
『…………主よ』
「なに? クニー」
『いろいろとあって結局できていなかった、料理を練習してみてはどうかな』
料理。
そういえば、ヴァオラ家についての事件が起きる前に、そんな話をしていた。
僕が不器用すぎて、ダークマターのような卵焼きを作り出したんだよね。
今は時間があるし、正直暇。
それに、なにかで気をそらさないと、気分が落ち込んでしまう。
「それもそうだね。また、チャレンジしてみようかな!」
『うむ、頑張ろうぞ』
すぐに簡易的なキッチンを作り出し、食材も作る。
あっ、その前に料理本もセットしておこう。
「まずは何を作るかを決めないとだね」
『この本などはいかがかな』
クニーが小さな体を駆使して、本棚から一冊の料理本を取り出して渡してくれた。
よし、頑張るぞ!!
※
今日一日、料理をしてみた。
卵焼きのリベンジ、切って煮るだけのシチュー。
クッキーや誰でもできると書かれているカップケーキなどなど。
作ってみた。
作ってみたんだけど、おかしいなぁ。
「なんでテーブルの上には、同じような黒焦げたちが並んでいるんだろう」
いや、わかる。わかるよ。
卵焼きは、クルクルと回すことにてこずって焦げてしまい。
シチューは、ジャガイモや玉ねぎの中までしっかりと火が通っているかを心配しすぎて煮込みすぎ。
クッキーとカップケーキはもう、何を間違えたのかわからないくらいに原形を保っていない。
「ぼ、僕に料理は無理かもしれないよ、クニー」
『………………練習をすれば、大丈夫だぞ』
大丈夫と言っているけど、クニー。
なんで、目をそらしているの? いや、目だけじゃなくて、なんで体ごとそらしているの?
ねぇ、ちょっと。
こっちを見てよ。
「クニー? なんでこっちを見てくれないのぉ~?」
『もう夜が遅いぞ。今日はここまでにするがいい』
あっ、一階に逃げてしまった。
もう、ひどいなぁ。
窓を見ると、確かに星空が広がっていた。
すごくきれいな空気。
「クニー、少しだけ外を見て回らない?」
『外か? さすがに危険ではないか?』
下に逃げたクニーを追いかけ、僕も一階に向かう。
「少しなら大丈夫だよ。それに、この創造館から遠く離れなければ問題はないはず。ね? 少しだけ。お願い!!」
手を合わせお願いすると、クニーは折れたように『わかった』と頷いてくれた。
『だが、本当に少しだけだぞ。すぐに帰るからな』
「わかったよ、ありがとう」
クニーを抱え、ドアを開けた。
涼しい風が頬を撫で、星空が創造館を照らしている。
「わぁ、すごくきれい」
上を見ると、満天の星空が広がっていた。
「ほら、クニー。すごくきれいだよ」
『そうだな。――ん?』
あれ? クニーが森の奥を見る。
ど、どうしたんだろう。
僕もつられるように森の奥を見る。
静かな空間に、蹄の音が聞こえ始めた。
こんな時間に来客?
こんな夜に?
以前の事件を思い出してしまい、体が震える。
クニーを抱きしめていると、蹄の音が徐々に大きくなっていく。
震えていると、クニーが急に『遅かったな』とつぶやいた。
よくわからないでいると、森の中から一人の男性が姿を現した。
「――リヒトさん!?!?」
森の中から姿を現したのは、少しだけ息を切らしているリヒトさんだった。
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