第30話 僕と王と王妃
廊下に出ると、すぐに騎士の一人が駆け寄ってきて、進めなくなる。
ご令嬢は苦虫を潰したような表情を一瞬浮かべたような気がしたけど、気のせいかな?
「こういう時、リヒトがいれば……」
騎士には聞こえないような小さな声で、そんなことを言っている。
あぁ、わかった。
このご令嬢、リヒトさんの前と他の人の前では性格が違うんだ。
猫かぶりモードってやつだね。ここまで変われるなんて、すごいなぁ。
「エレナ様、どちらへ行かれるおつもりですか?」
「イオ、ヴァロワ家が今、大きく動いているという情報が入ったわ。今、リヒトが先に向かって足止めしている状態よ」
「なんだって!?」
騎士が驚き、目を見開く。
「今すぐ動かなければ、ツェダリア国が危険にさらされるわ。今、クラウド家にも連絡を取り、協力を仰いでいる状況よ。イオは今すぐオルレアン家の騎士全員に伝達して、すぐ動けるよう準備をしてちょうだい。私は母上と父上に伝えてくるわ」
それを早口に伝えると、騎士は敬礼し、すぐに走り去った。
息を吐き、ご令嬢は振り向く。
「行くよ」
「は、はい」
またしても駆け出し、お城の廊下を走る。
途中、メイドや執事とすれ違い止められるが、ご令嬢は無視した。
ご令嬢の両親、つまり王と王妃のいるであろう玉座の間へたどり着く。
ご令嬢は息を整え、顔を上げた。
「この中には、私の母上と父上がいるわ。準備はいいかしら」
「は、はい。よろしくお願いします!」
しっかり頷き、気合を入れる。
僕は、絶対にへまをしない。
ご令嬢も僕の反応を見て頷き、扉に手をかけた。
ゆっくりと扉が開かれる。
光が差し込み、一瞬目を閉じてしまった。
「母上、父上。お話があります」
ご令嬢が凛とした声で、玉座の間にいる王様へ声をかけた。
目を開けて奥を見ると、えぇと、たしか――エドワード王の椅子、とか呼ばれているんだっけ。
王様の椅子の名前。何かの小説で読んだ気がする。
そんな椅子に座っている男女二人――王様と王妃様。
二人とも凛々しく、ツェダリア国を統べる方なのだと、直感で肌に感じる。
空気は張り詰め、緊張の糸が伸びているような空間だった。
狼狽えている僕など気にせず、ご令嬢は前へ進み、王様たちの前に立って膝を折り、頭を下げた。
『クリエントよ、早く同じようにした方が良いぞ』
「あっ、そうだね」
クニーに言われてはっとなる。
すぐにご令嬢と同じく膝をつき、頭を下げた。
「母上、父上。いきなり申し訳ありません。お話があります」
「エレナ、どうした?」
父である王が口を開く。
続いて王妃が僕を見て、疑問を口にした。
「エレナ、そのお方は?」
「最近リヒトが出向いているアマダの森を住みかとしている青年です。今回、こちらの方が情報を届けてくださいました」
「ほう、言ってみよ」
王が言う。
「たった今、私の騎士であるリヒトが、悪魔を従えるヴァオラ家の主、ケント・ヴァオラと交戦中とのことです。つまり今、悪魔の方――グラットニーも動いているに違いありません」
「なんだと?」
王の表情が厳しいものへと切り替わる。
王妃も驚きに目を見開き、口元を押さえた。
「なので、まずオルレアン家の騎士を向かわせます。おそらくですが、今はケントをリヒトが足止めしています。しかし他の騎士はこちらへ向かっている可能性もあります。ですので、守りも……」
エレナ様はそこまで言って、口を閉ざした。
横目で見ると、焦っているような表情を浮かべている。
冷や汗を流し、唇を噛みしめる。
拳も握られ、震えていた。
どうしてだろう。怖いのかな。
でも、この状況には慣れているような立ち居振る舞いだし。
――いや、慣れていようが何だろうが、怖いものは怖いはずだ。
「あの、僕も発言してよろしいでしょうか」
恐る恐る手を上げると、王や王妃、エレナ様やほかの護衛たちの視線を感じた。
こ、こわい。僕は、一つ発言するだけでも怖いよ。
こんな中、エレナ様はあそこまで凛々しく発言していたの?
す、すごすぎる。さすが、ご令嬢様。
震えていると、王が「なんだ」と発言を許してくれた。
「あ、あの。僕は、創造したものを形にできる魔法を持っています。なので、必要なものがあれば作り出せます。もちろん、僕の知っている範囲でのことになりますが……」
最後の方は言葉が小さくなってしまった。
だって、自信はない。
僕、そこまで博識というわけでもないし、ただの本が好きな男ってだけだ。
それでも、ここまで小さな女の子が頑張っているんだ。
リヒトさんも、今命をかけて戦ってくれている。
それなら、僕も何かしたい。
なんでもいい。
リヒトさんの役に立つことができるのであれば、なんでもやる。
王を見上げていると、少し考え込んでいた。
「――おぬし、名前は?」
「ぼ、僕の名前はクリエントです。そして、こちらは僕を守ってくれている兎、クニーです」
胸に抱えていたクニーを見せながら自己紹介する。
クニーはこのような場に慣れているのか、帽子を外し、器用に腰を折った。
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