第12話 僕と雨
突然ドアが開き、驚く。
だが、その人物を確認し、さらに驚いてしまった。
「さ、サグラモールさん!?」
そこには、昨日モナ様とリヒトさんと一緒に来てくれた、クラウド家の騎士――サグラモールさんが、びしょ濡れの姿で立っていた。
どうやら雨の中を馬で駆けてきたらしく、全身が濡れている。
「と、とりあえず中へ。こちらをお使いください!」
すぐにその場で創造し、タオルを作る。
サグラモールさんは「あんがと」と言って受け取った。
すぐに二階へ案内し、椅子に座ってもらう。
「あの、大丈夫ですか? 奥にお風呂もありますので、体を温めた方がよろしいかと」
「いや、雨宿りだけで十分だ。雨が止み次第、また行かなきゃならんからな」
「そうですか……」
ここまで焦っているということは、今は仕事中なのだろう。
でも、ここまでびしょ濡れでは、風邪をひかないか本当に心配だ。
「――それにしても、随分と降りましたね」
「急に降り出したからな。さすがに驚いた」
豪快に笑いながら、窓を打ちつける雨を見る。
なんだか、元気そうだ。
これなら。大丈夫――かな?
「あっ、そうだ。あの、もしよければ少しだけ軽食を取りませんか?」
「いや、そんな時間はない」
「ですが、雨が止むまでまだ時間がかかりそうです。ただ座っているより、少しでもお腹を満たした方がいいかと」
にこっと笑って言うと、サグラモールさんは外を見る。
まだ雨は激しく、窓を強く打ちつけている。
僕の言葉に納得してくれたのか、こちらを見た。
「それもそうだな。頼めるか?」
「はい! 何か食べられないものやアレルギーはありますか?」
「特にないぞ」
「わかりました。すぐに作りますね」
僕は少し陰に隠れ、お皿を創造する。
そして、すぐに食べ終われるように卵のサンドイッチを作った。
それを持っていくと、サグラモールさんはすぐに食べ始めた。
「むっ、うまいな」
「口に合ったようでよかったです。もしよければ飲み物はいかがですか?」
そこで僕は気づいてしまった。
以前、サグラモールさんは「自分で作る」と言っていた。
それなのに今は、僕の作ったサンドイッチを何も言わずに食べている。
思わず見つめていると、サグラモールさんは手についたマヨネーズを舐めながら聞いてきた。
「どうした?」
「い、いえ。あの、以前はサグラモールさんが自分で作ると言っていたので……。僕が作ってよかったのかと、今更ながら考えてしまって」
「あー、そういうことか。リヒトも言っていただろう。モナ様が口にするものに何か混入していたら、国すら危うい事態になる」
うん。それはリヒトさんから聞いた。
でも、それは騎士であるサグラモールさんも同じではないだろうか。
騎士であるサグラモールさんの命も、国を守るためには絶対に必要だ。
警戒していてもおかしくはない。
「だが、俺みたいな騎士が一人毒を食らっても、国は何も変わらない。替えはたくさんいるからな。だから、今回は何も言わなかったんだ」
っ……。
そんなことを、軽々しく口にするなんて。
自分の命を軽く見ているような発言に、僕は何も言えない。
ただ唖然としている間に、サグラモールさんは食べ終わってしまった。
「おっ、雨が止んだな」
「え? あっ、本当だ」
窓の外を見ると、先ほどまでの豪雨が嘘のように晴れていた。
雲の隙間から太陽が顔を出し、森を照らしている。
差し込む陽光が、雨で冷えた館内を優しく温めた。
窓を眺めていると、隣から視線を感じる。
振り向くと、サグラモールさんと目が合った。
「な、なんですか?」
「いや。リヒトが隙間時間を無理やり作ってまでここに来るのも、無理はないと思ってな」
意味が分からない。
どうして、今の流れでそうなるのだろう。
でも、褒めてくれているんだよね?
それは、素直にうれしい。
「……気に入っていただけているなら、僕も嬉しいです」
微笑み返すと、彼も笑った。
本当に、太陽みたいな人だ。
こんな人の周りには、自然と人が集まるんだろうな。
僕は心臓が弱く、それを理由に笑わなくなった。
病院ではいつも一人で本を読んでいた。
自分から人に近づこうとはしなかった。
だから最期も、一人だった。
だからこそ今は、できるだけ人のために笑いたい。
少しでも誰かの疲れを癒やせる存在になりたい。
――パカ、パカ。
「あ、馬の足音」
「おっ、あいつが来たみたいだな」
あいつ?
一階へ降り、扉を開ける。
ちょうど、馬から降りるリヒトさんと目が合った。
「あ、リヒトさん!」
嬉しくて、思わず駆け寄ってしまう。
濡れていない。
雨に打たれてはいないらしい。よかった。
「少し遅れた。雨宿りしてから来たんだ」
「いえ、雨の中でも来てくださってありがとうございます!」
見上げていると、馬にはもう一人乗っていた。
ピンク色の髪をハーフアップに結い、空色の瞳を持つ少女。
白を基調としたレースの多いドレス。
気品がある。
目が合った瞬間、逸らされてしまった。
「ああ、こちらは私が仕えるオルレアン家の令嬢、エレナ様だ」
「れ、令嬢様!? し、失礼しました! じろじろ見てしまって……!」
まさか令嬢様が来てくださるなんて思っていなかった。
慌てて頭を下げる。
「別に」
短く答え、リヒトさんの手を借りて馬から降りる。
「ここが、リヒトの言っていた創造館ね。中を拝見してもよろしいかしら」
「は、はい。お気に召すか分かりませんが、どうぞ」
急いで扉を開ける。
エレナ様はゆっくりと中へ入り、静かに館内を見回した。
ま、まさか二日続けて令嬢様が来てくださるなんて思わなかった。
しかも今日は、あまりおもてなしの準備ができていない!
だ、大丈夫だろうか!?
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