笑みの真実
「いらっしゃいませー」
今日は日曜日、黒崎はいつものようにバイトをしている。
「黒崎さん厨房行ってコーヒー淹れてきてくれないかい?」
「了解っす」
店長にそう言われ黒崎は厨房に向かう。普段は不真面目な黒崎だが、バイトはやってみると案外と楽しいことが分かり、意外にも真面目に働くことができていた。
「コーヒーコーヒーっと、、」
黒崎は店長に言われた通りコーヒーを淹れ始めた。
「黒崎くんって見た目いかついのに結構真面目だよね」
「そうすか?」
今厨房で一緒に仕事をしているのは、先輩の川島美咲先輩だ。年は3つ上で大学1年生らしい。
「それにしても金髪で高校通ってるの?何も言われないの?」
「まあ中学からこうなんでもう諦めたんじゃないすか?」
「ヤンキーなの?」
「最近は結構丸くなりましたよ、タバコも吸わないし喧嘩もちょっとしかしないし」
「ちょっとはするんだ、、」
まあすると言ってもふっかけられたらする程度である。
「あ、そうだ彼女は?黒崎くんなら可愛い彼女さんがいそうな感じするよねー」
「いないすよそんなの」
「えーー?ギャルっぽい可愛い彼女がいるのかなあって思ってたのに!」
「俺どんなイメージなんすか、、」
よく分からない妄想を抱いている川島先輩に呆れ気味の黒崎である。
「黒崎さんと川島さん一旦接客に回ってくれるかい」
「「はーい」」
そうして2人は店長と交代で接客に回った。
「いらっしゃいませー」
バイトを始めてもうすぐ半年が経とうとしている。まだ完璧には程遠いがだいぶ慣れたものだ。
「ねえねえそこの可愛い女の子俺と相席しようよ!」
「い、嫌です、、!」
(なんだなんだ??)
どうやら1人で来ていた女の子がナンパに絡まれているらしい。
「あのーお客様ナンパは他所でやっていただけませんか?」
黒崎はその行為を止めようと仲裁に入った。
「なんだよ?別にいいじゃんこのくらい」
「他のお客様の迷惑にもなりますので、、」
「なってねえじゃん、グチグチうるせえなあ」
この言葉で黒崎の中で何かが切れた。
「あ??邪魔だって言ってんだろぶっ飛ばすぞてめえどっかいけや」
黒崎は得意?の顔面攻撃でその男の目の前まで顔を寄せて忠告した。
「ひ、ひぃ、、!!ごめんなさい!!」
男はそのまま逃げるようにその場から立ち去って言った。
「お客様大丈夫ですか?」
黒崎はその俯いているお客に声をかけた。
「怖かった、、ありがとう、、!黒崎くん、、!」
「!?!?!?!?!?」
黒崎はそのお客さんに急に抱きつかれた。
「あ、あの、、!お客様、、!ってお前、、、」
その顔は明らかに見覚えがあった。
「お前委員長じゃねえか!」
黒崎はかなり大きめの声を出した。
「なになに黒崎くんどうしたのって、、、何してるの!?」
そこに川島先輩もやってきた。
「いや、、これはその事情があって、、!」
「もしかして彼女?」
「違います!!お前もいいから離れろ!」
「あ、、ごめんなさい、、」
霧島はようやく自分の状況を理解した。
「可愛い彼女さん、黒崎くんとはどんな関係なの?」
「た、ただのクラスメイトです、、!あと断じて彼女ではないです、、!!」
ニヤニヤする川島に霧島は慌てて弁解をする。
「へえ〜?黒崎くんは意外とこういう子がタイプなんだあ」
川島は黒崎にヒソヒソと話し始めた。
「ほんとにそういうのじゃないですって、、!」
「じゃあまだこれからってこと?」
「これからとかもないですよ!」
「まあいいや、今お客さん少ないから相席してきな、何かサービスしたげるから」
「いやいいですよほんとに」
「また絡まれたら困るでしょ?ほらほら早く」
「ちょ、ちょっと、、!」
黒崎は川島に背中を押されそのまま席に座らされた。
「ったく、、来るなって言ったのに、、」
「ごめんなさい、別に来るつもりはなかったのよ?たまたま通りかかっただけ」
「嘘つけゴリゴリ変装してきてるじゃねえか」
いつもとは髪型も変え、服装もいつもとは違う雰囲気の服装を着ており、さらに伊達メガネまでかけていた。
「どうかしら?見事な変装じゃない?」
「まあでもその髪型は確かに可愛いな」
「な、、!そういう話はしてないわよ!」
普段はポニーテールや普通のロングヘアの霧島だが、今日は髪の毛を編んだりとかなり手がこられている。
「それに服装もちょっと大人っぽいし眼鏡も似合ってるからより雰囲気が立ってていいな」
「う、うるさい!!このコーヒーぶっかけるわよ!!」
「人のバイト先で暴れんな」
暴動を起こそうとしている霧島を何とか抑える黒崎である。
「お取り込み中ごめんね〜、これうちのケーキだから良かったら食べて!」
そうこうしてると川島がサービスのケーキを持ってきた。
「え、、!いいんですか、、!?」
「迷惑かけちゃったから、ぜひ食べて!」
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて、、」
「お前ダイエット中じゃねえのかよ」
「コラ、女の子にそんなこと言わないの」
「はい、すみません、、」
川島に少し怒られ黒崎は少ししょげた。
「た、たまにはいいでしょ?せっかく頂いたんだし食べなきゃもったいなわよ」
「んまあうちのケーキはうめえからな、覚悟しろよ」
自分が作ったわけではないが自慢げにケーキを褒める黒崎である。そして霧島はそのケーキを口に運んだ。
「ほんとだわ、、!とても美味しい、、!」
霧島はとても幸せそうな顔をしながらケーキを頬張っていた。
(あ、可愛い)
素直に笑顔でいれば可愛いのになあとつくづく思う黒崎である。
「じーーっ」
「な、なんだよ」
霧島は黒崎のことをじっと見つめている。
「それで、いつ黒髪に染めるのかしら?」
「いや染めねえよ?」
「黒髪の方がかっこいいのに、、」
「ぐっ、、、!」
(そんなに素直に言われたら染めたくなっちまうだろうが!)
霧島の言葉に思わず心が揺らいでしまう黒崎である。だがそれ以上に金髪が気に入ってるので染めるつもりはないのだが。
「美味しかったわ、ありがとう」
そうして霧島はケーキを食べ終えた。
「すみませんケーキまでご馳走させて頂いて、、!ありがとうございました、、!」
「いえいえ!どうか黒崎くんを大切にしてやってください!」
「大切に、、?」
「先輩、、困ってるんでやめてください」
「ごめんね〜、じゃあどうかお幸せに!」
「お幸せに、、!?」
「懲りてねえなこれは」
最後に色々言われたが、用事が済んだ霧島はお店から退店していった。
「いやーびっくりびっくり!まさかあんなに美人で清楚そうな彼女がいるとは!」
「だから彼女じゃないですって」
「でもなんかすんごい仲良さそうじゃない?どこまでいったの??」
「どこまでもいってないですよ、、一緒に遊んだりするくらいで、ただの友達ですよ」
「一緒に遊んたり、、、?2人で遊んたりとか、、?」
「別に複数人でも遊びますし2人でも遊びますよ」
「2人でも遊ぶ!?それってデートじゃない!?」
川島は黒崎の肩を掴んでグラグラ揺らした。
「俺たちはそういうんじゃないんですよ、、何度も言わせないでください」
「黒崎くんがそう思ってるだけで、向こうはどう思ってるかわからないわよ?」
「どうも思ってないっすよきっと」
黒崎は呆れたように言葉を返した。
「それはそうとして、君はあの子のことどう思ってるの?」
「どうって何がですか?」
「ほら、可愛いとか、優しいとか、一緒にいて楽しいとか、好きとか」
「好きとかはないですけど、、楽しいとかは思うことありますね」
「可愛いとかは?」
「まあ客観的に見てあいつは可愛い方だと思いますけど」
「素直じゃないなあ」
思った回答が返ってこず、面白くなさそうな顔をする川島である。
「黒崎くんがあんなにニヤニヤしながら楽しそうに話してるの初めて見たけどなあ」
「え?俺ニヤニヤしてたんすか、、?」
「うん、誰が見てもわかるくらいデレデレだった」
「デレデレって、、!絶対そんなキモイ顔してないっすよ、、!」
「まあ本人には分からないよね〜」
そう言い残して川島は厨房に戻って行った。
「お、俺ほんとにそんな顔してたのか、、?」
自分でも全く自覚がなく、ただ普通に話しているつもりだった。確かに他の人と話す時よりは笑顔は多いのかもしれないが、それが傍から見てからわかるほどだとは思っていなかったのだ。
「ニヤニヤ、、デレデレ、、、」
その2つの言葉がずっと脳裏によぎっていて、その後のバイトは全く集中できなかった黒崎であった。




