2話
人間の集中力には、二つのタイプが存在するらしい。
短期集中型と、長期集中型だ。
前者はテスト勉強など行う時、少しずつ休憩を入れて進めると効果的で、後者は早朝や徹夜してこなすタイプに向く。
俺は長期のタイプなんだと思う。
ゾーンに入ってパソコンの前に張り付くと、昼休みの時間用アラームがスマホから鳴るまで、時間感覚を忘れて没頭してしまう。
ある意味在宅ワーカーとしては、長所と言えるかもしれないけど・・・
昔から・・・そう、学生時代から極端な長期集中型だった。
一度集中して何かを始めると、周りの音が聞こえないし、誰かが声をかけても気づかなかったりで、授業に集中出来ていればいいけど、手元の作業に気を取られてしまうと、教壇に立つ教師が説明する声が耳に届かなくなったりしていた。
大人になった今、一人でタスクをこなす自宅にいるのはいいものの、日常生活に不可欠な寝食を忘れがちで、稀に目眩がすることがあった。
水分を摂る、仮眠をとる、軽食を摂る、そういうタイミングや気分転換を必要としない時がある。
というか必要なことを、脳みそが気にすることなく集中し過ぎてしまうんだ。
それを自覚しているからこそ、最近はスマホでアラームをかけて正しい日常生活を送れるよう心掛けていた。
けど本当にこういう人はいると思うんだけど・・・
起床するために設定しているアラームだったとしても、止めて二度寝してしまったら意味がないように、俺もパッと無意識に止めた後仕事を続けてしまうからいけない・・・。
だからその日も、本当に自分の体調不良に気付いていなかった。
気を失うようにパソコンの前で突っ伏して眠っていたら、目が覚めた後視界が大きく歪んで、体は横に倒れて椅子から転げ落ちた。
「うぅ・・・・・」
途端に激しい頭痛と目眩、倦怠感に襲われた。
そして体中に鼓動が走り抜ける程の発熱。まるでアツアツのお風呂に浸かっているかのよう。
ゴトンと音を立てて、自分の側にスマホも落ちて来て、何ともタイミングよくアラームではない着信音が鳴り響く。
床を一生懸命這って手を伸ばして何とか画面を見るも、朦朧としてなんと表示されているのかすら見えない。
指先だけは動かせたのでタップすると、わずかに望奈人の声が聞こえた。
『もしもし灯?』
「はぁ・・・・はぁ・・・・みな・・・と・・・・」
『灯・・・?どうしたの!?大丈夫!?もしもし!!』
「た・・・・」
助けを呼ぼうにも、そこで意識は途切れた。
遠くの方で誰かが呼ぶ声が聞こえた。
あれ・・・
気が付けば心地のいい風に吹かれて、ベンチに座っていた。
明らかに夢の中だとわかるような爽やかさ、木漏れ日が綺麗な青々とした木々に囲まれてる。
ここ・・・来たことある・・・?
そこはいつだったか、夢に見た場所だった。
辺りを見渡しても、静かに風が流れる音と、少し小鳥のさえずりがする程度。
灯・・・
パッと長く伸びた白いレンガの先を見ると、望奈人が歩いて来た。
そして嬉しそうに微笑みながら隣に座る。
「望奈人・・・」
そうだ・・・あの時・・・
あの時見た夢では、隣の「誰か」は知らない人だった。
どうしたの?灯・・・
爽やかな笑みを浮かべて、綺麗な瞳を近づける彼は、そっと俺のおでこにキスを落とす。
「・・・望奈人だったんだ・・・」
今の今まで忘れていた。
いつか見た夢なんて、続きを見るとは思わないし。
何を言うべきかもわからず、愛おしそうに微笑みながら俺の頬に触れる望奈人を見ていた。
「・・・・望奈人・・・・俺ね・・・」
明晰夢であっても、ふわふわした感覚が否めない中、自分の意志関係なく口は動く。
「本当は、全部・・・全部委ねたいくらい、望奈人が好きなんだよ?」
目の前の彼は、相変わらず綺麗な笑みを浮かべながら、じっと耳を傾けている。
「でも・・・俺の中で、理人を愛した燃えカスみたいなものが・・・・まだ自分の中でチロチロ光って燃えてる時があるんだ・・・。望奈人があの時の俺と同じくらい、愛してくれてるってわかってるのに・・・引きずってる未練があるんだ。でも・・・もうそんなものないって、断ち切ったって振り切れるくらい、今はいっぱい幸せをもらってるよ。」
望奈人は猫みたいにゆっくり瞬きをして、静かに頷いた。
「でも・・・・・・・・・俺はそれでも後ろを振り返ってばっかりだと思う・・・・。叶えたかった気持ちがゴミ箱に捨てられてても、いつまでもそれを見つめて、燃やして消し去ることが出来ないんだと思う。・・・・なかったことに出来ないのは・・・・俺の悪い所だよね・・・・。」
夢の中の望奈人に、返事を求めることなんて出来ないのに
本心を吐露してしまう自分が、何だか情けなかった。
ただの甘えだ。彼なら許してくれると思って。
俺が理人を想い、過ごしてきた時間は、余りにも長かった。
理人が生まれた赤ちゃんの頃から、俺は毎日のように世話を焼いていたし、彼が中学校を卒業して近所から引っ越すまで、10数年間家族として過ごしてきたんだ。
そして5年後に再会してからの、痛々しくて狂おしくて、愛おしい時間を作ってしまった。
心身ともに追い詰められた自分は、後悔に似た懺悔を夢の中でしては、後生大事に育てていた恋の花を思い出してしまう。
この世で特別大切で、欲しくてたまらないものが、理人以外なかったから。
俯いて何も言えなくなると、夢の中で作り出した望奈人は、そっと俺の頬に手を添えて口付けをした。
そしてそのまま景色は溶けていった。
視界は閉じていって、次に目を開けると、見慣れた寝室の天井だった。




