第26話
外食するにしてもどうしようかなぁと、付近の店を調べながら、彼に声をかけた。
「卯月さん、やっぱり食べに行くのもう面倒だし・・・出前か手料理でいい?」
「・・・うん、いいよ。」
あまり他人に興味があるわけじゃないし、機嫌を取ったり伺ったりしない方だけど、彼の可愛い気遣いの笑みには、だんだん気付いている自分がいた。
「食べたいものを我慢しろなんて言ってないよ?」
本性を曝け出さないとお互い合う合わないもわからないもんだ。
友達である先に行くなら、彼に我慢してほしくなかった。
「・・・我慢・・・しなくていいんだ。」
「・・・ん?」
隣同士ソファに腰かけたまま、綺麗な手で頭を撫でられて、そのまま流れるようなキスを受け止めた。
一口一口、美味しそうに味わうようなキスをして、押し倒されたまま彼を見つめ返すと、また愛おしそうな微笑みを落とされた。
「俺、あんまり食に興味がないんだよ。だから何でもいいんだ。好き嫌いも、アレルギーも特にないし・・・。」
「そうなんだ。」
「でも・・・今は灯が食べたい。この時間に夕飯っていう習慣もないし、灯がしたいように合わせたい気持ちもあるけど・・・。俺が来るまで・・・誰か知らない男と仲良く話してたのかなぁって思うと・・・」
そこまで言うと、卯月さんはバツが悪そうに目を逸らして体を起こした。
「どこまで言ったら灯に嫌われちゃうのか定かじゃないから・・・怖いな。」
ああ、そうか・・・普通に恋愛してる人は、こんな風に相手に気を遣うもんなんだ。
そう思いながら同じく体を起こして、彼の頬をスリスリ撫でた。
「望奈人・・・」
パッと嬉しそうに目を合わせてくれる彼と一緒にいる時間に、もう理人を思い出したりしない。
いつからそうだったのか、もうわからないけど。
「友達付き合いから始めようって言い出したの俺なのに・・・望奈人が連絡くれない間、寂しかったんだよ。」
「・・・ふ・・・ホント?」
「うん・・・。」
彼は少し泣きそうな表情を浮かべて、そっと抱きしめた。
彼の温もりが何だか一緒に入った温泉みたいに暖かくて、心地いい。
「望奈人・・・好き・・・。」
耳元でそう漏らして、甘えるようにすりついた。
すると彼はぐいっと俺の両足を引いて、ひょいっという擬態語が相応しい持ち上げ方をして、言葉を発する間もなくベッドに連れて行かれた。
俺がポカンとしたまま見下ろす望奈人を見つめると、彼は文字通りご馳走を前にした獣だった。
発情したイケメンって、三次元だとこんな感じなんだ・・・。
若干客観視しながらも、望奈人に求められるまま食べられるのが気持ちよかった。
今はもう引け目を感じながら、彼の好きを受け取る必要もなく、自分も素直に好きを返せる。
理人を思い返したり、気持ちがぶり返したりすることは、この先もあるかもしれないけど、真っすぐ俺だけを想ってくれる望奈人と一緒にいられるなら、それは薄れていくだろうと思う。
ずっとじゃなくていいから、彼の人生を少しだけもらいたい。
やがてたくさん食べて満足したように、寄り添いながら頭を撫でて、俺のおでこにキスする彼は、何だかちょっと恥ずかしくなってくるほど、絵に描いたイケメンで気まずい。
「・・・何を今更照れてるの?」
「・・・だって・・・なんか現実感がないんだよ・・・望奈人みたいなスパダリが俺の事好きなんて。」
「すぱ・・・だり・・・?」
「ごめん、知らなくていいや。えっと・・・ハイスペックなイケメンってことだよ。」
「あ~・・・。・・・別に俺そんなんじゃないよ・・・知ってるでしょ?」
「ん~・・・まぁ内面的な部分で自信がないのは知ってるけど・・・」
望奈人は掌で俺の輪郭をなぞるようにしながら、綺麗な瞳にじっと俺の顔を映した。
「ずっと一緒にいれば、現実感が出てくるよ。灯に・・・嫌われないように・・・飽きられないように頑張るね。」
「・・・別に頑張らなくていいよ?」
「・・・え・・・」
ちょっとショックを受けたような反応をする彼に重ねて言った。
「だって・・・無理して自分を偽らないといけない人間関係なんてストレスじゃん。家族間でも恋人でも、そんなもの俺は不要だと思ってるよ。」
「・・・そっか・・・」
「お互いの価値観とか人間性にガッカリするなら、それがお別れの時だろうし、頑張らないと続かない関係なんて、望奈人に強制したくない。」
「ふふ・・・そっか。」
「・・・望奈人言ってたじゃんか。大きな目標とか大儀がなくても、人生には意味があるって。ずっと何年も何十年も一緒にいられるようにとか、将来を考えて結婚前提にとか、そういうことを叶えるための関係じゃなくていいはずだよ。」
彼は次第に悟ったような表情になって、ニッコリ安心した笑みを見せた。
「うん・・・。そうだよね・・・灯は・・・俺と違って、本当に心から大事だと思える人がいたから、一緒に居られる時間が大事だって解ってるんだね。・・・なんか恥ずかしいな・・・俺のが年上なのに・・・。」
「・・・3つしか違わないじゃん・・・」
「ふふ、確かにそうだね。」
「好きだからっていう理由の元・・・何かを我慢してほしくないよ。自分が傷つくだけなら尚更。」
「うん・・・ありがとう灯・・・。大好きだよ。」
自分でもここまでスラスラと、説教臭い言葉が出てくるもんかと思った。
未来のことは何もわからないにしても、正直誰かと永続的に一緒に居られる関係を
自分が望むようになるとは思っていない。
冷めきってるとか諦めてるとかじゃなくて、ずっと同じ誰かと歳を重ねていけるような、当たり前のようでロマンチックな関係を求めていなくて・・・。
けどまだまだ人生経験の少ない自分が、卯月さんみたいな優しい誰かと出会えること自体が貴重なことではあるから
好きだなぁと思えている間くらいは、一緒にいたい。
「灯、良かったら一緒に買い物行って・・・俺が夕飯作ってもいい?」
服を着直して俺を振り返る彼が、嬉しそうに言うので
今はこの甘々な時間を堪能しまくろうと心に誓った。




