第25話
帰宅してしばらくパソコンで動画を観ていると、メッセージを返信した友人から着信が入った。
「もしもし?」
「よ~っす、今家?」
「うん、今日有休だったから。」
「マジか~。つか久しぶりだな~」
数少ない友人の中でも、比較的連絡を取っている東は、大学卒業後、都内のIT企業で働いて、同じくSEをしていた。
「久しぶりだっけ?」
「そうだよ、半年以上会ってねぇだろ。」
「まぁそうかも。で・・・何か用あるの?」
「いや別に、暇電。飲み行く?」
「まだ日も高いうちに飲み行く話?・・・今日は無理。」
「あ、そうなん。んだよ、いつもは何となく来るくせに。ほぼ予定なんてねぇだろ?」
「そういう東は何で暇になると俺を誘うのさ。適当に可愛い女の子呼んで飲み行くか~っていつもSNSに書いてるじゃん。」
「俺の投稿はチェックしてんのかよ!別に誰でもいいんだよ。今日は女の子とかそういう気の遣う相手と出かけたくねぇの。」
「俺にも気を使ったらどう?」
「は?なんで?」
「・・・・今日俺・・・彼氏がうちに来るから待ってる。」
俺が電話口でそう言うと、東は数秒間黙っていた。
「は?!マジで?」
「マジだよ。」
「ほ~~ん、やったじゃん、やっと彼氏出来たのかよ。あれ?散々話してた理人くん?」
「違うよ・・・いとこと付き合うなんて現実的じゃないでしょ。」
「そうだけど、ガチ恋だったじゃん。」
「まぁ・・・・今も別に好きだけど・・・。そうじゃなくて偶然知り合ったイケメンだよ。」
「おま・・・・偶然でイケメンなんて知り合わねぇんだよ。」
「じゃあ俺の魅力が引き寄せちゃうのかもね。」
「キモ・・・。お前が女の子だったらなぁ・・・そんなこと言ってても可愛いなぁで済むのに。」
「うるさいな・・・。飲みに行く相手は他にしなよ。」
「んだよつれねぇな~。つまんねぇわ~。俺の周り最近そんな奴ばっかなんだけど!」
「知らないよ・・・高校生みたいに僻んで愚痴らないで。」
「じゃあ俺に可愛い女の子紹介しろや!」
普段は真面目なサラリーマンのくせに、プライベートではピアスごりごりのヤンキーなのは未だ変わってない。
見た目は取り繕えても中身は無理らしい。
「そもそも俺女友達いないよ。」
「はぁ~・・・まぁそうだよなぁ・・・。あ・・・梨花ちゃん元気?てか梨花ちゃんもう社会人?」
「そうだね。」
「え、梨花ちゃん紹介してよ。」
「死ね。」
「いや、冗談じゃん・・・こえ~~~お前マジシスコン・・・シスコン野郎卒業しろよマジで。」
「梨花は彼氏がいるよ、残念だったね。」
「え~・・・別に俺彼氏がいても気にしねぇけどな~」
「倫理観ちゃんとしてから出直してきて。」
「お前に言われたくねぇわ・・・。学生時代散々男喰いまくってたじゃねぇか。」
「別に俺は恋人がいる人を狙うなんてこと一切してないよ。」
「うっそだぁ~!」
「ねぇ怠い・・・どうでもいい会話に付き合わされるのめんどくさいんだけど。」
「じゃ家行こか?」
「彼氏来るってさっき言ったよね?単細胞なの?」
「え~~お前の彼氏見定めないとさ~。これでも俺人を見る目くらいはあるし。」
「知らないけど・・・」
「ガチで無理?」
「え、ホントにめんどくさい。本来の目的はなんなの?」
「あ~~・・・何だろな~・・・。顔はいいのにもったいねぇなぁっていう灯を酒の肴にしてると楽しいんだよ。」
「・・・ちょっとよくわからないけど、侮辱されてることは理解した。」
「はいはい、要約すると楽なんだよお前が一番。人付き合いで疲れちゃったの俺!」
「・・・もう・・・わかったよ、彼氏が来るまでには帰ってね。」
「やった、オッケー。」
ちょっと甘いかなぁとも思ったけど、俺がどんな人間であろうと、構わずに友達でいたのは東だけだった。
友達だと思ってる風な人達は、皆影で俺のことを気持ち悪いと言ってたのを知っている。
しばらくしてやってきた東は、パーカーの上からコートを羽織って、寒そうに首をマフラーに埋め込み、黒いマスクをつけて髪の毛が若干ボサボサだった。
「おじゃましま~~。うい、コンビニで酒買ってきた。」
「いや・・・飲まないよ?」
「何でだよ、お前が好きなやつもある。」
「まだ14時だよ。後彼氏来るって言ってるじゃん。」
「どゆこと?」
ぶつくさ言いながらコートを脱ぐ彼から受け取ってハンガーにかけ、彼はキョロキョロして洗面所を見つけて手洗いを始めた。
「真昼間から酒臭くなって会いたくないからだよ。」
「あ~・・・そ。つーかさ、彼氏来たら・・・・あ、やっぱいいや。」
「なに?」
「いや、何でもない。てかどんな人なん、彼氏。」
相変わらず学生のようなテンションで尋ねる彼は、見かけによらず頭がいいのに、爪を隠しまくってる能ある鷹だ。
俺と違ってしっかり国立大学理学部を卒業している。
「T大の生物学者、准教授。」
「はあぁあぁ!?ガチで!?どこで知り合うんだよそんなん!」
「・・・いや・・・偶然電車で家の鍵を拾って、駅員に渡したらちょうど慌てて取りに来た彼と顔を合わせて・・・別にそれはきっかけだけど・・・数日後に近所のコンビニで遭遇して・・」
東は眉をしかめながら腕組みして、廊下を歩いてリビングに入りながら言った。
「つまり~~・・・灯的に言うと、偶然居合わせた怪しいイケメンキャラってことか・・・」
「・・・まぁ偶然が重なってるのは事実だね。」
「なんか昔からさ、お前わりと周りから変な目で見られて不遇じゃんか。疑ってかかりてぇよな。」
「ふ・・・散々疑ってたよ。裏があるに決まってるって。」
「そうだよな。・・・んで何で付き合うことになったん?」
「何で・・・・・」
まるで答え合わせでもさせられているような気分だった。
東がソファに腰かけて飲み物を開けるまで、しばし考え込んだ。
「蓋を開けてみたらいい人だったから・・?」
「・・・・へぇ・・・」
腑に落ちねぇ、みたいな顔をして缶ビールを開ける彼をよそに、自分はコーヒーを淹れることにした。
「東は何を期待してんの?俺に恋人出来たのがそんなに納得いかない?」
「いや・・・別にそういうんじゃねぇよ。めでたいなぁと思うし、弄ばれてるとかバッドエンドじゃなけりゃいいなぁって思うし、普通に応援してやりてぇよ。」
「ふぅん・・・ところで何で東は平日に休みなのさ。」
「あ~俺今日は半休取ってたんだよ。ちょっと引っ越すかぁって思って、いい物件あったからさ、今日荷物来て色々片付けてた。んで力尽きて漫画読んじゃうし・・・誰かに電話しよ~ってなったわけ。」
「なるほどね・・・。いい物件探しの趣味は健在なわけだ。」
「ま~な!痒い所に手が届くいいとこなんだよ。会社からちょい近くなったし、まぁ元々遠くはねぇんだけど・・・」
「というか暇って電話してきたけど、荷解き済んでないってこと?」
「あ~まぁ・・・。」
隣に腰かけてジト目を返すと、東はふんと鼻を鳴らした。
「別にいいんだよ、大して物ねぇしさ。」
その後もお互いの近況を少しずつ話のネタにしながら時間が過ぎて、気が付くと夕暮れ時になっていた。
するとスマホからピロンと通知音がして確認すると、卯月さんからのメッセだった。
「・・・なに?彼氏?」
「うん・・・。早めに終わってもう向かってるって。さ、帰って。」
「へぇ~い。また時間ある時飲みいこーぜ。」
「うん。」
彼が言われるがままにうちを出て行った後すぐ、また東からメッセがきた。
『やべぇイケメンとすれ違った!!芸能人かも!』
「ふふ・・・」
恐らく卯月さんのことだろうけど、彼の変わらない子供のような言動に、少し懐かしさを覚えながら笑みがこぼれた。
そして程なくして卯月さんがインターホンを鳴らした。
「お疲れ様。」
ドアを開けて迎え入れると、彼は幸せそうな笑みを見せて、扉を閉めた途端抱き着いた。
「灯・・・」
「どうしたの?・・・帰りを待ってた大型犬みたいだよ?」
「ふふ・・・」
彼から何となく嗅ぎ覚えのある香水の香りがする。自分も持っているけど使ってないやつだ。
すると卯月さんはパッと顔を上げて、玄関付近を不思議そうに見渡した。
「・・・どうかした?」
「・・・・・・・・・誰か来てた?」
「あ~さっきまで友達が・・・。」
「そうなんだ・・・。灯のイメージっぽくない香りがしたから。」
「・・・へぇ・・・そんなのわかるんだ。本当に犬みたいだね。」
「ふふ・・・。」
愛想笑いを返して、何気なく夕飯の話をする俺に続いて歩く彼から、今度は襲い掛かって食べたい・・・なんて空気を感じ取っていた。




