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繰り返す日常の中で。  作者: 理春


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第23話

年末年始の休みが終わり、理人は冬休みが始まるまでに作戦を決行しようと連絡してくれた。

どうやら卯月さんが講義をする曜日は決まっているようで、どの曜日でどの時間帯なのか調べて、確定するまで理人の知らせを待つことになった。

いざ有休をとって行ったらその日じゃなかった、なんてことになったら無駄足だし。


「ふぅ・・・今日はこのくらいにしとくか・・・」


いつものように日が落ちる頃までパソコンの前で仕事をして、ちらっと机に置いたスマホを見やる。


そうえいば、最後に温泉デートした日から、年末年始を跨いで・・・もう3週間は連絡取っていないけど、いつもみたいな他愛ないメッセージこないな。


以前時間の感覚を失って忙殺されていた頃は、彼と3か月も会っていないことにカレンダーを見るまで気が付きもしなかったけど、打って変わって大人しくなった鳴らないスマホを、今は少し恨めしく思えてきてしまう。

一度気にし始めると、大した時間が経過しなくても細かく気になるようになってしまうし。

理人からの連絡ならまだしも、あんなに何でもないやり取りを送ってきていた卯月さんが、急に連絡をよこさなくなるなんて違和感だ。


椅子の背もたれをしならせながら、俺は何となく温泉旅行でのことを思い起こした。


「・・・自分のするべきことが分かった気がする・・・・?」


彼の不自然なまでの自然な振る舞いが目立ったのは、その言葉の後からだった。


するべきこと・・・?


話していた前後の内容を思い出しても、その言葉はあまりにも脈絡がない。

彼は何を思い立って、決意したんだろう。


想像しても予想しても、彼の考えはわからない。

理人のことならまだしも、卯月さんとはあまりにも関わっている時間が短すぎる。


また新たな謎にモヤモヤを抱えて、数日経った頃・・・

相変わらず卯月さんから音沙汰はないけど、理人から調べがついたと連絡が来た。

どうやら理人は理学部の生徒に接触して授業の時間を知り、卯月さんの授業がある時間帯の終わりを狙って待ち伏せ、彼と直接話をしたようだ。

俺が理人の話をしていたことも教えていたので、悟られないように気を付けて、生物学の授業に興味があるから、いつ授業を行っているのかと詳細を聞きだしたのだとか。

恐るべし理人の行動力。

そして卯月さんは快く自分の授業の時間帯や、授業内容を教えてくれたらしい。


理人にお礼の返事をして、何も連絡がない卯月さんのことが少し気になったけど、講義を受けてみる日も決まったし、その日に会って話をすればいいことだ。


そして有給の申請も無事通って、ついに決行する時がやってきた。


「灯くん、お待たせ。」


理人と大学の中庭で合流し、いざ教室まで一緒に向かうことになった。

皆がお昼ご飯を済ませた昼過ぎの時間帯、迷子にならないように理人の後ろを歩いた。


「理人もう学食食べたの?」


「うん。日替わり定食~。灯くんは?」


「俺は適当にカフェに入って軽食とったよ。・・・ちなみに食堂に卯月さんいた?」


「いんや、いなかった。結構食堂広いから見逃してる可能性もあるけど、先生イケメンで目立つし・・・かなり見渡したけどそれらしい人いなかったよ。」


「そうなんだ・・・。」


階段を上って、しばらく廊下を歩き進めると、だんだんと生徒たちの流れが多くなっていく。


「あ~ここ!」


理人は教室の前で立ち止まって、スマホを確認する。


「時間的に後・・・じゅ~~ぷんちょっとくらいで始まるよ。」


「そうなんだ、理人ありがとうわざわざ。」


「いいえ~。なんかラブラブなエピソード増えたら教えてねwてかツーショットの写真とか後で見せてね。」


「ふふ・・・わかったよ。」


理人はおどけながら少し緊張している俺を気遣ってくれた様子だった。


さて・・・


生徒たちが行き交う廊下で、一つ息をついて辺りを見渡す。

特に周りから不審には思われてないようだし大丈夫。

再度時間を確認して、俺は生徒に紛れながらそっと教室に踏み入った。


結構広い教室だ・・・


大学に通っていた頃を少し思い出しながら、たくさんある机に思い思いに着席する生徒たちを見渡しつつ、バレないためにも後ろの方の席を狙うことにした。

荷物を持っていないのも怪しいので、それらしいリュックを手に彼を待つ。


ざわざわしている子供たちの雰囲気や、聞こえてくる会話に耳を傾けていると、何だか不思議な気持ちになってくる。

ほんの数年前まで同じく大学生だったくせに、もう自分は完全に別物の存在になっているようだ。

俺自身は大して変わっていないのに、社会人として何かが摩耗されていったんだろうか。

大学生がとてもキラキラして見える。


数分後、そろそろ授業の時間という鐘が鳴る前に、白衣姿の卯月さんが入室するのが目に入った。

すると不自然にざわつきながら前の席に固まっていた女子生徒の集団が、嬉しそうにコソコソ話し込むのがわかる。

彼はというと・・・何だか遠くから見ると、浮かない表情にも見えるし、真剣な眼差しをしているようにも見える。

自分がここにいることも不思議なのに、少し離れて教壇に立っている卯月さんがいるのも、妙な感覚だ。

彼は講義用のマイクを準備しながら、何やら最前列から話しかける女子生徒の質問に答えているようだった。

そのうち予鈴が鳴って、卯月さんの声が機械を通して聞こえだした。


「今日は少ししか板書しないけど・・・レジュメ作ってるので後で各自持って帰ってください。」


あれ・・・


生徒たちは授業の準備を整えながら、彼に注目していた。

俺は一人、何となく卯月さんの話し声に違和感を覚えた。

何というか・・・声色が少し暗い気がする。

気だるげというか、覇気がないというか・・・

何でもない様子で授業を始め、白衣が似合う高身長の彼が、教室を少しウロウロするたびに、女子生徒は相変わらず釘付けで話を聞いていた。


生物学には彼の影響で少しくらいは興味はあるものの、やはり専門外なこともあってそこそこ難しい言葉も出てくるし、講義内容より卯月さんの様子が気になってしまう。

離れた後ろの席で、じーっと穴が開く程見つめているのに、彼とは一度も目が合わず、隔絶された世界にいるようだった。

温泉旅館であの晩・・・同じ布団の中で愛し合ったことは、夢みたいに嘘の出来事だった気がしてくる。


頭の中で彼と話した場面を次々思い返した。

楽しそうにはしゃいでいた様子も、心配そうにしていた瞳も、他の誰かに見せないような、ベッドの上での恍惚な笑みも・・・

好きだよと言ってくれた声も・・・本当に俺に対してのものだったんだろうか。


いつの間にか授業が終わって、生徒たちはざわざわとまた目の前の空間を乱し始める。

座ったままボーっと卯月さんを見つめていると、次々と教室の外に流れ出ていく生徒たちと、彼の周りに群がる女子生徒たちが対照的だった。


「せんせ~前言ってたゼミの飲み会来ない?」


「行かないよ~。」


「ね~先生って彼女いるの?」


「・・・個人的な質問は答えないって言ったでしょ。ほら、レジュメ持って帰って。」


あしらい慣れてるな・・

そういえば彼は以前高校教師だったと言っていたし、その頃から女子生徒の扱いなんか当然慣れてるか。

白衣のカッコイイ卯月さんが見れたものの、何だか少し空虚な気持ちを抱えながら、俺は教室を後にしようとそっと立ち上がった。

最後にチラっと教壇に視線を向けると、教科書を持った卯月さんが、硬直して俺の方を凝視していた。


あ・・・まずい・・・


反射的に身を翻して廊下に出る。

辺りをキョロキョロして、とりあえず階段のある方へ歩いた。


あれ・・・?

理人と一緒に来た時、こっちだと思ったんだけど・・・やばい・・・こんな時に方向音痴発揮してちゃダメだな・・・


また違う廊下を歩いて少し静かな場所まで来て、再び目印になりそうなものはないかと見渡した。

すると背後に気配を感じて、ぽん・・・と肩に手が置かれた。

恐る恐る振り返ると、背の高い卯月さんが俺を見下ろしていた。

何とも言えない表情で・・・


「・・・・・」


俺が黙っていると、卯月さんは『俺が何を言いたいかくらいわかるだろう』と言わんばかりに眉をしかめる。


「えっと・・・・・・お久しぶりです。」


「・・・ここで・・・何を?」


「・・・・卯月さんなら大体想像つくんじゃないかと・・・」


彼は乱暴にため息をついて、辺りを見渡してから俺の腕を掴んで歩き始めた。

強引に歩き進める彼に抵抗することなくついていくと、更に廊下の奥までやってきて、すっかり人気のない校舎の端っこにたどり着いた。


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