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繰り返す日常の中で。  作者: 理春


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20/23

第19話

卯月さんと温泉旅行にやってきた俺は、さっそく部屋に備え付けられてある露天風呂に入ることにした。

12月下旬ではあるけど、まだそこまで本格的な寒さは感じなくとも、自然の多い旅館周辺は、東京と違う寒さがある。

服を脱いで湯につかるまでが、肌寒くて地獄だけど、お風呂の周りの開放的な美しい景色に目を奪われて、若干気がまぎれたりもする。

俺と卯月さんは、硫黄の匂いが立ち込める湯気の中、綺麗な緑色をしたお湯に、そっと足を入れた。


ちゃぽんとゆっくり体を沈めると、染み渡るように体が熱を帯びていく。


「・・・・はぁ~~」


「どう?」


「・・・・湯加減ちょうどいいです・・・・」


独り暮らしのお風呂より、少し広さがあるくらいなので、卯月さんも続いて隣に腰かける。


「あ~~~・・・・いい湯だねぇ・・・」


二人して溶けていきそうな気持よさに体を預けて、ボーっと景色を眺めた。


今更ではあるけど、俺は親しい間柄であれば、さして会話がなくても平気なほうだ。

家族と実家に居ても、そこまでわいわい騒がしい一家じゃないし、理人といてもそこまで無理に会話しようとはしてない。

それに理人は元々大人しい子だ。俺もそうだったかもしれないけど。

卯月さんとはまだまだ知り合ったばかりなわけだけど、一緒に旅行という一大イベントにも関わらず、俺は早くも会話を放棄していた。

それほどまでに脱力させる解放感と心地よさが、脳内の思考を停止させていたと言える。

するとボーっとしていた俺に、彼はそっと隣に詰めて座り、湯につかっていた俺の手を握った。


「ねぇ、灯」


「はい」


「さっき・・・・・電話は誰から?」


「・・あ~・・・理人です。年末年始の予定のことでちょっと・・・」


「そっか・・・。年末年始はやっぱり、親戚同士集まっておせち料理食べたりするの?」


「まぁ・・・そうですね。そこまで仕来りに拘ってるわけじゃないですけど、何となく年末年始くらいは集まろうかぁって感じだと思います。そうでなくとも別に、俺が実家にいた頃は、理人ちょくちょく遊びに来てましたけど。」


「そうなんだね。」


「・・・卯月さんのところは?」


「ん・・・俺は~・・・そうだねぇ・・・特に親戚の集まりとかはないかなぁ・・・。母は一人っ子でいとことかいないし・・・祖父母はもう亡くなってるしなぁ・・・。」


「・・・そうですか・・・。他のお身内の方とも交流ないんですか?」


卯月さんは繋いだ手を動かして、指を絡めて繋ぎなおした。


「うん。父は小学生の時に亡くなってね。学生の頃までは父の両親に会いに行ったりしてたけど、慶人・・・弟も俺も、学業や仕事が忙しくなり始めると音信不通になっちゃって・・・。たぶん母はやり取りしてると思うけど。」


「なるほど~・・・」


あ・・・やば・・・温かくて眠くなってくる・・・


道中の電車でも多少うとうとはしたものの、隣の卯月さんが嬉しそうにニコニコ話しかけてくるキラキラした顔に目を奪われていたので、休んでいいよと言われつつ結局起きていた。


「灯、逆上せてもダメだし上がろうか。」


うつらうつらし始めた俺に気付いたのか、卯月さんの声でハッとなって頷き返した。

大人しく湯から出て体を拭いて、温かい部屋で浴衣に着替える。

和室だし湯上りの薄着を想定してか、部屋は暖房が強めで、そのまま畳の上をゴロゴロしても寒くはない。

転がりたくなる気持ちを抑えながら伸びをすると、卯月さんは浴衣の帯を締めて、クスっと微笑む。


「眠たそうだから、お土産とか見て回るのは後にしようか。少し仮眠とる?」


「ん~~・・・・眠いことは眠いんですけど・・・でもせっかく午前中から来てるのに勿体ない気がしちゃうんですよ。」


「まぁ・・・そうだね。じゃあ眠気覚ましに散歩しに行く?時間になったら昼食は運んできてもらえるわけだし。」


「そうですね、行きましょう。」


上着を着て財布を手に、俺と卯月さんは部屋の外へと繰り出した。

綺麗な廊下を抜けて旅館の奥の方へ向かうと、縁側と中庭の見える広々した場所について、お土産がたくさん並ぶお店の先には、遊技場もチラっと見えた。

卓球台とかあるんだろうか・・・


半歩先を歩く卯月さんが、美味しそうなお土産のお菓子に食いついて指をさしていたので、彼の説明を右から左に流しながら、くいっと浴衣の袖を掴んだ。


「卯月さん」


「・・・なあに?」


お風呂に入る前から、何となく違和感を覚えていた。


「俺なんかしました?」


「えっ・・・?」


「何となく・・・気を遣われてるような・・・いや、落ち込んでるような空気を感じるので。」


図星を突かれたのか、彼は表情を固まらせて黙ってしまった。


「ん~・・・何でもないよ。」


「・・・えぇ・・?」


「だって・・・言ったらめんどくさいと思われるかもしれないし、ちょっとしたことでそこまで何かがあったって話じゃないから。」


「・・・・卯月さん、俺たち友達ですよね?」


「・・・そうだね。」


「隠し事はしてほしくないです。腹割って話しましょう。それが仲良くなる近道だと思いませんか?」


「・・・・うん・・・そう思うよ。・・・でもただの我儘だよ?」


「我儘上等ですよ。っていうか俺だって卯月さんに対して、今まで散々我儘言ってきた自覚ありますけど?」


「・・・」


卯月さんはお土産屋さんの前で立ち止まり、少しもじもじするような躊躇いを見せながら口を開いた。


「・・・灯のことが大好きなんだ。」


「・・・・え・・・あ・・はい」


「だから・・・羨ましいと思っちゃってね・・・。電話してるときさ・・・見たことない幸せそうな笑顔で話してたから・・・。俺には向けてくれない笑顔なのかなぁって思っちゃって・・・。まぁ、そこまで関係性が深くないんだから当たり前なんだけど・・・焼きもちだよ。」


「・・・」


「・・・ふふ・・・一喜一憂しちゃうもんなんだね、好きな人の事は・・・。中学生みたいな心境でモヤモヤしてるなぁっていう自覚はあるよ。・・・・会えない間も散々まごまごしてさ、一緒に旅行なんてずっと有頂天で・・・このまま帰りたくないなぁってずっと思ってる。でも・・・・ほら・・・まぁまぁ気持ち悪いでしょ?引いてない?」


掴めないと思っていた卯月さんの人間性が、少しずつまた輪郭を帯びていく。


「引いてないです・・・」


「・・・ホント・・・?」


そろそろ二次元キャラみたいなイケメンという客観視から、ちゃんと人間として向き合うのが筋だろうか。


「俺は・・・きっと卯月さんの真っすぐな気持ちを受け入れられる程の、器を持ち合わせてないんだなぁって。」


「・・・そ・・・それは・・・・ふ・・・フラれてる?俺・・・」


彼の綺麗な顔が歪んで、次第に顔色が悪くなっていく。


「ふってるつもりはないですけど・・・。あ~・・・その・・・何となく気付いてたかもしれないですけど、俺自分自身が嫌いなんです。」


また彼の手を取って繋いで、他のお土産に目移りさせながら続けた。


「コンプレックスがいっぱいあって・・・好きになれる要素なくて・・・たぶんそこまで拘りを持つようなことも無くて、虚無で中身のない自分が嫌いで・・・卯月さんの素直で綺麗な感情を、どうしたらいいのかわからないんですよ。」


持て余している彼の気持ちを、意に介さない自分が、ようやく腑に落ちた瞬間だった。



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