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繰り返す日常の中で。  作者: 理春


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第18話

卯月さんという人は、恋愛経験が乏しいわりに、人に対する受け答えや扱いに慣れているように見える。

余裕を感じるというか・・・他人から好感を抱かれやすいイケメンの人生を歩んでいるからか、いつだって自然体に見える。

掴めないミステリアスな雰囲気もあるし、ひたすらニコニコ優しく、愛想のいいお兄さんにも見える。


クリスマス前の週末、年末だと何かと忙しいからと、温泉旅行は絶妙な土日に決行された。

卯月さんが用意してくれたチケットを手に、特急電車に乗り込み、人もまばらな列車の中、穏やかに揺られて、過ぎていく田舎町を車窓から眺めていた。


「灯・・・眠い?」


ボーっともたれるように外を眺めていた俺に、彼はそっと声をかけて来た。


「え・・・いえ、大丈夫ですよ。」


「そう?まだ道のり長いし、無理せず寝てもいいからね。」


母親のような気遣いを回す彼は、嬉しそうにニコリと微笑んで、俺の頭を撫でる。


「・・・卯月さん何でそやってすぐ頭撫でるんですか?」


「えっ・・・ごめんね・・・。何だろうなぁ・・・子ども扱いしてるわけじゃないんだけどね・・・愛おしくて・・・」


俺は軽くため息をついて投げやりに言った。


「俺は、イケメンなら誰でもいいやって思ってるほうですよ?」


「・・・そうなんだ。・・・だから相手にする価値ないって?」


「はい。」


「・・・俺は今満たされてて幸せな気持ちだから、有意義だよ。・・・灯にとっては、俺は価値のない人間?」


「ん~・・・わかんないです。結局俺は、流されるままというか・・・何も考えていないし、どうでもいいんです。無気力で惰性で・・・卯月さんみたいに仕事に情熱もなくて、生きていくことに目標もなくて。高尚な学者の卯月さんからしたら、ミジンコみたいなもんですよ。」


卯月さんはいつものポカンとした表情を返した。


「・・・ミジンコって・・・微生物ってすごく重要な存在なんだけどな・・・。彼らがいないと飲み水が綺麗にならないんだよ。細菌やカビも微生物だけど、酵母や菌がないと、パンや発酵食品は存在しないから、食べ物にとっても無くてはならないものだし。」


「・・・まぁ・・・そうですね。」


「灯は、大義を掲げて生きていないと、何かを変えられる程の大事な職業じゃないと、価値がないと思ってるわけじゃないよね。小さな存在だって誰かが生きていく上では大切なもんだよ。例えば灯のご両親からしたら、息子が社会に出て立派に働いて、一人で生きていけていることは、それだけで尊いものだろうし、嬉しいことだと思う。灯の好きな人は、灯からしたら存在しているだけで価値があるように、その子にとっても灯はそうであるはずだよ。情熱がなくたって、目標がなくたって・・・・生きる上でそんなことが重要じゃないよ。」


「・・・・・・・ミジンコ馬鹿にしてすみませんでした・・・・」


慰められたのか何なのか微妙に感動してしまって、照れ隠しでそう述べた。


「ははは!俺に謝らなくてもw」


隣同士座った座席で、卯月さんはまた大事に俺の手を握った。


「・・・形のない気持ちも時間も、価値があるものだと思ってるよ。例え灯が俺に対してさして興味がなくて、誰でもいいと思ってたとしても、幸せな気持ちにさせてくれてるんだから、もっと調子に乗って俺を振り回してよ。」


「・・・わっかりました。」


卯月さんは楽しそうに微笑んで、また旅先での予定に花咲かせた。

小一時間程電車に揺られて、最寄り駅についてからタクシーに乗り込み、事前に調べていた風流な旅館に到着した。

川のせせらぎでも聞こえてきそうな、落ち着いた日本庭園を抜けて入り口に差し掛かると、上品な佇まいの仲居さんたちが、にこやかに出迎えてくれた。


「お久しぶりです。こんにちは。」


「あらあら望奈人さん!お久しぶりです~。かつらさんも後でおいでくださいますよ。」


「そうなんですか。」


卯月さんは従業員の方たちと知り合いの様子で、和やかに会話をして俺に視線を向けた。


「今日は・・・慶人都合つかなくて、友人と一緒に来ました。」


「・・・どうも。月山です、お世話になります。」


「あらあら、本日はご利用ありがとうございます。どうぞごゆっくり、お寛ぎくださいね。」


にこやかに腰を折る従業員たちに見守られて、俺たちは案内された部屋に入ることが出来た。

綺麗な畳と渋い木目のテーブルに、旅館と言えばの湯呑とポットを発見。

大きな窓の向こうに湯気が立ち上るのも見える。

荷物を置いて上着を脱ぐ卯月さんは、さっそくとばかりに切り出した。


「露天風呂もあるし、大浴場にも色んな種類のお風呂あるけど、どこに行きたい?」


「そうですね~。」


その時ポケットに入れていたスマホから、徐に通知音が鳴って、反射的にさっと画面を見た。


「えっ・・・」


そこには理人からのメッセで『灯くん今通話出来る~?』とあった。


「・・・卯月さん、ちょっとすみません。」


「ん?うん・・・」


部屋の奥まで行って、大きな窓を開けて、景色の見える露天風呂の湯けむりを浴びながら、さっと画面を開いて返信を打った。


「・・・もしもし?」

「あ、灯くんごめんね、急に。」

「うん、大丈夫。どうかした?」

「実はさ、こないだ話し忘れてたんだけど、年末年始の予定で・・・」


理人は親戚同士集まる席で、伯母さんが俺に就職祝いを忘れていたし、プレゼントを準備したいと考えているらしい。

色々悩んでしまっているようで、理人はこっそり必要な物を窺っておこうと思ったとか。

何とも母親想いなアシストをする好青年っぷり・・・理人可愛い最高。


伯母さんには気を遣わせてしまったなと思いながら、何となく実用性のあるものを考えて置く旨を伝えて、通話を終えた。


「すみません、卯月さん・・・えっと、なんでしたっけ。」


和室に戻ると、座布団に腰かけてお茶を飲んでいた彼は、また爽やかな笑みを見せた。


「ん~最初に入るお風呂は、せっかくだしそこにある露天風呂に二人で入ろっか、って話してたよ。」


「あ~そうですね、道中の疲労もありますし、ここ入ってゆっくりしてご飯済ませたら・・・また色んなお風呂巡りしましょう。」


「うん。」


自分で言っていた通り、俺は卯月さんを蔑ろにしていて、誰でもいい替えがきく人だと思っているのかもしれない。

彼が内心傷ついた表情をしていたことに、気が付いていなかったんだから。



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