第16話
彼がこぼした弱音のようなものを聞いて、何だか今この瞬間は、イケメンに食べられたいとかそういう欲はなしに、ただの友人のように隣に座っていた。
「噛み合ってないと言えばそうかもしれませんし・・・別に噛み合わないといけないってことでもないですよね・・・。卯月さんがさっき言ったように、どこに行くにしてもお互いが楽しいと思って時間を過ごせたら、どういう関係性であっても問題ないわけですから。」
「・・・確かにそうだね。」
また彼らしい優しい微笑みを返してくれて、俺も深くは考えずに素直に答えた。
「旅行いきたいです。温泉好きなので・・・たくさん行ったことあるわけじゃないですけど。」
すると卯月さんはまるでパァ!と擬音語がつけられそうな表情で、笑顔を咲かせた。
「ホント?」
「・・・はい。」
「ありがとう・・・じゃ、予約入れとくね。」
彼のスマホを返そうと差し出すと、ピロンと通知音がして、バナーに出た名前とメッセージが目に入った。
そこには『明日どうする?』と短く書かれていた。
「・・・メッセ来てます。」
「あぁ、ありがとう。」
「・・・卯月さんくらいのイケメンになると、他にも意中の相手がいるっていう裏の顔が・・・」
「え?・・・ああ、これは・・・慶人は弟だよ。明日ちょっと実家に行く予定があって、ご飯どうするか聞かれてるね。」
「へぇ。」
よし、ここでちょっと焼きもち妬くフリでもするか。
「え~残念です、今日はこのまま泊ってくれると思ってたのに~・・・。一緒に居てくれないんですか?」
「えっ!・・・え、あ・・・もちろん灯がいいならいるよ?」
「・・・ヤバイ・・・罪悪感が・・・」
「え??」
「いえ、冗談です。わざわざ出かけに寄ってもらって・・・。朝までいたら、パーキングの料金すごいことになりますよ。」
「・・・冗談・・・そうだよね。」
う・・・この人は・・・
俺はあまりにも、卯月さんみたいな素直な人間との付き合いがなさすぎる・・・。
「卯月さん・・・」
「ん?」
「俺たち・・・噛み合うにしろ合わないにしろ、ゆっくり友人関係から進めた方がいいかもしれないですね・・・」
「・・・あれ、灯は手っ取り早い関係が理想なんじゃなかったっけ?」
そう言いながらまた嬉しそうに笑みを見せる彼が、何だか可愛く見えてくる。
「まぁ・・・セフレになるっていうんならそれが一番ですけど・・・。卯月さん、最初からそう言うのは嫌だっておっしゃってましたし、そういう関係になって俺が適当な応対してると、次第にしゅんとしていく卯月さんが目に浮かぶようで・・・さすがに良心が傷みます。」
「・・・そ・・・そっか・・・。」
彼の言うように、確かに俺たちは噛み合っているようで、噛み合っていないやり取りが続く。
その後もう時間も遅いしお互いお風呂に入って、卯月さんに適当なオーバーサイズのスエットと、お客様用の未使用の下着を貸した。
「・・・俺が着ると大きいのに、卯月さんがそれ着るとぴったりですね。」
「ふふ・・・そうだね。でも・・・身長はそこまで変わらない・・・よね?」
流し台の前でカップを洗っていた俺の側に寄って、同じシャンプーの香りがする卯月さんは、そっと屈むように俺の頭を撫でる。
「ん~・・・たぶん俺は173くらいです。卯月さん180超えでしょ?だいぶ違いますよ。」
「そっか・・・」
そっと腰に手を回す彼は、確認するようにすりすり手を這わせる。
「ふふ・・・卯月さん・・・くすぐったいんでやめてください。」
「・・・やっぱり・・・ちょっと欲出していい?」
「何ですか?」
洗い物を終えてタオルで手を拭くと、そっと腰を折った彼は、抱きしめるための腕を回してキスをした。
「・・・キスが欲?」
「・・・ん~・・・友達より・・・近い距離になりたいから・・・その・・・ため口で話してほしいなぁと思って・・・」
控え目にお願いする彼が、何故だか照れくさそうにしていて、よくわからない要求にとりあえず応えることにした。
「わかった・・・。」
すると満足そうに微笑んで、またぎゅっと抱きしめる。
「大好き・・・」
あ・・・やば・・・キュンとしてしまった・・・
卯月さんはまるで、お気に入りのぬいぐるみでも抱きしめるかのように、愛おしそうに抱き着いて、頭を撫でたり頬ずりしたりするもんだから、俺は純粋なイケメンの甘える攻撃に、陥落寸前だった。
そしてその時何故か、少し前に流行っていたホラーゲームを思い出した。
「卯月さん、ゲームしましょう!」
「へ・・・?」
彼の手を取ってずんずんベッドに連れていき、よいしょと上って胡坐をかいた。
「・・・ゲームって?」
「いいから同じようにベッドに座ってください。」
「え・・・でも・・・」
「何ですか?」
卯月さんは頬をかいて視線を逸らしつつも、仕方なしにベッドに足を踏み入れた。
「卯月さん、『真実か挑戦か』っていうゲームご存じですか?」
「・・・あ~・・・うん、映画で見たことあるよ。」
「あれやりましょう。」
日が変わる前の夜中、急な俺の提案に、彼は困惑した表情を見せた。
「えっと・・・なんで?」
「ずっとやってみたいと思ってたんです。俺はホラーゲームで知ったんですけど、漫画とかでもチラっと見たことが合って・・・面白そうだなぁって思ってました。実現させたいんです。」
「そっか・・・わかった。というか・・・また敬語になって」
「よし、じゃあまず~~」
マイペースな俺に翻弄されていたら、いずれは愛想を尽かすだろう。
そう思っているので、俺は何も気にせず自由に行動していた。




