第14話
自分を好いてくれる卯月さんを、俺は半ば邪険にしながら、気のないフリをしていた。
その理由がハッキリわかってしまった。
「灯・・・?」
みっともなく裸のまま抱き着いてめそめそする俺を、心配そうに卯月さんは抱きしめ返した。
そして優しく俺の背中をさすって、それからは何も言わなかった。
卯月さんが、自分の中で大事な存在になるのが怖かった。
散々自分をおもちゃにする男共を相手にしていたから、彼にも裏の顔があると決めつけて接していた。
けど知れば知る程、卯月さんは自身が言うように、それもまた中身の無さと捉えられるのか、悪意などなく純粋な人だった。
けれど親しい夜を過ごして、こんな風に情緒不安定に泣き出してしまう男を、素直に慰めて、挙句好きだと思ってしまうのは
あまり普通とは言えないだろう。
俺に出会ってしまったのは、彼の運の尽きかもしれない。
泣き止むまで待とうとする彼から体を離して、ぐいっと涙を拭った。
「大丈夫です、すみません。」
さっとベッドから這い出てパンツを履いて、側にあったティッシュで鼻をかんでぽいっとゴミ箱に捨てた。
「しないの・・・?」
背中から彼の優しく落ち着いた声がして、俺は振り返らずに答えた。
「・・・卯月さん・・・」
「ん?」
「俺の事好きだと確信したのっていつですか?」
「・・・・・・・えっと・・・一緒にいて嬉しいなぁとか、楽しいなぁとか、離れたくないなぁって思った最初のデートの時からかな。」
「じゃあ何でそう思ったんですか?」
「え・・・・ん~・・・何で・・・わかんないねぇ・・・灯の雰囲気?かなぁ・・・」
「・・・顔とか体型じゃなく?」
「ん~~・・・顔を意識してお付き合いしてこなかったなぁ・・・。体型も好き嫌い特にないよ。」
この人は本当に恋愛初心者なんだ・・・
俺は立ち上がって改めて彼を振り返った。
「いいえ、意識してます。目の前にいる俺が、例えばお相撲さんみたいに恰幅よくて、大きく丸い顔で、ファッションセンスも終わってたら・・・卯月さんは好きになってないはずです。」
すると彼はポカンとしてから、ふふっとまた笑みを返した。
「お相撲さんの灯かぁ・・・可愛いなぁ♡」
「・・・・はぁ・・・・」
どうしよう・・・恋が盲目とはよく言ったもんだな・・・フィルターどころの話じゃないな。
「・・・つまり灯は何が言いたいの?」
「・・・」
前に言ったように、男を好きになって一緒になってもいいことない、なんて言い方しても
彼は恐らく納得しない。
男どころか、おかしな奴ばっかり寄ってくる俺みたいな人間とは、縁を持つべきじゃない。
ただでさえいとこに執心で拗らせてて、まともな恋愛してこなかった俺なんか、彼の価値観や生活リズムに合うはずがない。
必ず付き合いの中でズレが生じてきて、お互いイライラしてしまうようになる。
好きだから自然に無理してるはずなんだ。
「卯月さん俺、だいぶめんどくさがりで勝手な性格ですよ。」
「そうなんだ。」
「家事、炊事なんてろくにしませんし、献身的な人間じゃないし、自分さえ良ければそれでいいやって思ってます。」
「ああ・・・それは俺も思ってるかもなぁ・・・」
「・・・性欲強いんで、毎晩イチャイチャしたいし」
「・・・ふふ、いいよ?」
「その癖に自分が眠くなったら勝手に寝るし、相手にイライラされても怠いなぁとか思います。」
「そっか。」
「友達ならいいけど、付き合うタイプじゃないよなぁって、卯月さんもいずれ気が付きますよ。」
「そうかな・・・」
「そうです。」
「・・・灯が恋人になりたくないなら、もちろん無理強いするつもりないよ。友達でいたいですっていうなら、俺は友達で構わないよ。」
「・・・一生付き合えなくてもいいから側にいたいってことですか?」
「うん。」
とうとう頭の中がプチパニックだ。
彼には欲があるようでない。
「・・・関係に拘ることはしないよ。だって別の人間なんだからさ、それぞれ生き方があるじゃない。人生において重要な存在である『恋人』にしてくださいっていうのは、あまりにも強引で烏滸がましいお願いな気もするし、俺は灯の生き方を尊重したいよ。」
「・・・・・・そう・・・ですか・・・」
「うん。」
「・・・・じゃあ・・・何で昨日・・・俺が勝ったら恋人になって、とか言ったんですか?」
「・・・そうだねぇ・・・。もしそれで恋人関係になれて、一緒に過ごしていくうちに、絆されてくれたりするかなぁって思ったからかな。」
「・・・・馬鹿ですか・・・」
「・・・ごめんなさい・・・」
バツが悪そうにしゅんとする彼に、至極真っ当な意見を浴びせた。
「卯月さんみたいな、頭のよくてイケメンで、高身長でハイスペな男に、そこまで好きになられて純粋な気持ち向けられて、逆に絆されない人なんて滅多にいませんよ。もちろん俺も例外じゃないです。」
「・・・」
黙って見つめ返す彼は、綺麗な顔から下も完璧そのもので、白くて細すぎない体型に、若干腹筋われてるのもなんかムカつく・・・じゃない・・・やめろ、2次元キャラ。
「でもだからこそ・・・何だろうな・・・俺は自分って言う生き物の中身を知ってるからこそ、もったいないって思ってるんですよ。卯月さんの純粋さが、俺のせいで減る気がするんです!」
「・・・純粋さが・・・減る・・・?」
「卯月さん恋愛経験乏しいって言ってましたよね?俺も人の事言えませんけど・・・もうちょっと相手は選ばないとダメです。盲目に好きになって、一緒にいたいからとか、楽しいからとか、そんな理由で恋人を選ぶのは大学生までですよ。」
「そう・・・?」
「そうです。大人になったら皆、将来を見据えた付き合いを覚えていくもんです。失敗は無駄に繰り返しても、やり直しのきく年齢ならまだいいでしょう。でも卯月さんは今28ですよね?今から俺みたいなのと付き合って、結局色々あって合わなくて別れたら・・・もう30超えてる可能性すらあります。それだとますます、卯月さんってハイスペなのに何で売れ残ってるんだろう・・・みたいに腫物扱いされたり、女性の扱いとか付き合い方の感覚忘れて、上手く関われなくなったりするかもしれません。」
「・・・・・」
卯月さんは捲し立てる俺に、またポカンと表情を返した。
「つまり・・・俺なんかやめといたほうがいいんですよ・・・」
「・・・灯は、片思いをしてるくらいが、自分にはちょうどいいと思ってるってこと?」
「・・・俺がどう思ってるかじゃなくて・・・今の意見を踏まえて、卯月さん自身どう思いますか?」
「・・・灯の言ってることは現実的でよくわかるよ。」
「でしょう・・・?」
「・・・灯はいつも、周りからどう思われるかっていうのを想定するんだね。たぶん俺のために・・・。でも俺は、好きになった人と過ごして、お互いを知って、時には喧嘩して、すれ違ってもまた一緒に居たいって思える関係の先に、別れがあったとしても、その時自分が何歳であろうと、無駄だとか世間の目だとか、灯と関わらなきゃよかったなんて、間違っても思わないよ。」
「・・・・何でそう言えるんですか?」
「ふふ・・・じゃあ灯も・・・何で俺が30歳超えて適齢期逃したら、他の人と付き合えなくなるかもなんて思うの?」
「・・・それは・・・」
「俺も灯も、疑問に対して、もしくは想定に対して、こうじゃないかとか、タラればを話してるだけだよ。灯の意見は一般的でよくわかる。普通に考えたらそうだなぁと思う。でも・・・大事なのは本人がどうしたいかで、相手とどうなりたいかじゃないのかな。それに、灯は本当に思ってることを言ってるようで、本心は隠してる気がする。」
「・・・・」
本当に勝手なもんで、卯月さんに図星をつかれると、イライラしてくる自分がいた。
けど彼はそう言いながら追究しようとしない。
俺が言いたくないことを、無理矢理引き出そうとはしない。
「ホント・・・調子狂うな・・・」
それを皮切りに、俺は淡々と服を着て彼のうちを後にした。
「送っていくよ。」と声をかけてくれる彼を無視して。




