第13話
10杯は飲んだ頃だろうと思う。
流石に少し、頭の中がボンヤリしてきて体がふわふわしているような感覚に陥っていた。
「灯、もうおしまいにしよっか。」
彼は仕方なさそうな、可愛い弟でも見るような優しい眼差しでそう言うと、俺の頭を前みたいに大事に撫でた。
それから・・・その後ふと瞬きして目を開けると、見知らぬ部屋にいた。
俺の目の前に水を差し出す卯月さんが、心配そうに顔を覗きこんで介抱してくれてるような気がした。
少しふわふわするくらいで、たぶん悪酔いしてるとかそういうんじゃない。
きっとここは、卯月さんの自宅なんだろうと思う。
その次にうっすら目を開けると、温かい体温に包まれながら、卯月さんとただただキスしていた。
朦朧・・・と言うほどじゃなくて、ハッキリと感触は伝わるし、むしろだんだんと酔いが覚めてくるのを感じながら、控え目に優しく重ねる唇を、今度は自分から食べるように貪った。
「・・・卯月さ・・・俺、酒臭くない?大丈夫?」
「ふふ・・・大丈夫だよ。」
イケメンとの美味しいイベントだ・・・
けれどどうだろう・・・あろうことか俺の記憶はそこで終わっていた。
まるで肝心なところにエラーが生じて、バグが発生したようにツギハギの場面が見え隠れして
チラっとご褒美スチルのように、卯月さんの裸が見えた気がしたけど、俺の記憶という名のメモリは終了した。
「・・・最悪・・・」
まるで夢の中にでもいたような、現実かどうかも分からない記憶に惑わされて目を覚ますと
優雅な鳥の鳴き声と、カーテン越しの陽気を感じる寝室で、イケメンとベッドを共にしていた。
広めのベッドでシーツの上で身をよじり、隣の寝顔を見ると、穏やかに寝息を立てて、無防備な一糸纏わぬ姿だった。
はぁ・・・何で記憶ないんだろ・・・
これが人生初のお酒での失敗だ。
「ありえないよ・・・。」
悔しさでポツリと声が漏れると、彼はそっと綺麗な瞳を開いた。
ずっと思ってるけど、何食ったらこんなイケメンになるんだろう。
少しウェーブがかった黒髪が、彼の瞳を少し隠して、形のいい薄ピンクの唇は、見覚えのある笑みを作る。
「・・・灯・・・」
たぶん彼は、俺の人生で出会う確率が限りなくゼロに近い、貴重なレアキャラで、所謂隠しエンドでしか攻略出来ないような対象キャラで
色んなクズ男を相手にしてきた俺にとって、非日常的な存在と言える。
「おはよ・・・。大丈夫?二日酔いになってない?」
寝ぼけながらも第一に俺の体調を心配するあたり、彼は本当に心底いい人なのかもしれない。
「・・・卯月さん・・・」
「ん?」
「・・・非常に残念なことに、俺昨夜の事、この部屋に来たところからほとんど覚えてなくて・・・」
「・・・そうなんだ。」
彼は特に笑みを絶やすことなく、俺の髪の毛に指を通して、おでこにキスを落とした。
「・・・俺も何か・・・本当に現実なのかなって思いながらいたから・・・多少は酔ってたのかなぁ・・・」
「・・・あれだけ飲んで酔ってないことはないんじゃ・・・」
「ふふ・・・そうだね。でも俺は事細かに覚えてるよ?」
「・・・何をですか?」
卯月さんは問いかけに応えるように、スッとを目を細める。
「灯が本性丸出しだったから・・・望み通りにしてあげたんだよ?・・・でもまぁ・・・どっちが先に酔いつぶれてたのかっていうと、勝敗はよくわかんないね。俺も普段よりは強引に行動してたし、灯は記憶飛んでるし・・・」
「・・・詳しく。」
「ん?ふふ・・・詳しく?・・・店を出て・・・宅飲みしたいって灯が言うから、じゃあうちに行こうかってなって・・・お酒をいくつかコンビニで購入して、マンションに帰ってきて・・・それから多少飲みながら、話しながら・・・おつまみ食べつつ・・・その後灯が駄々こねるみたいに可愛い子供になってきちゃったから、可愛いなぁと思って受け答えしてて、動けなくなる前に一緒にお風呂に入って~・・・灯は口調も変わってるし明らかに酔っ払ってるから、俺の勝ちかなぁ?って言ったら、『卯月さんは飲み比べ以前に俺に酔ってるから、最初から敗北してます!』って言われて、確かに・・・って思ってたら、抱いてくれない意気地なしって拗ね始めちゃったから・・・俺が負けてるなら言うこと聞かなきゃね~ってエッチなこと始まって、イチャイチャしてるうちに灯りがどんどんドMなこと言い出すから、わりと激し目に愛し合ってたよ。」
「・・・・・・・・・・・・思ってた以上に俺酔ってる・・・・!」
「はは!そうだねw」
嬉しそうに笑う彼は、俺を抱き寄せてぎゅ~っとする。
「俺の負けだね・・・。先に好きになったのは俺だしね。」
「・・・・全然覚えてないの悔しいです。」
「そう?」
「当たり前じゃないですか・・・せっかくイケメンとの最大のイベントが・・・」
「ふふ・・・俺はゲームの攻略キャラじゃないよ。」
「・・・・・・十分そういう顔立ちですよ?」
「・・・・でも灯と同じ現実にいる人間だよ。」
俺は半身を起こして、寝っ転がる彼を見下ろした。
「じゃあ今からもっかい抱いてください。」
「・・・・んふふ・・・いいの?」
堪えるような嬉しそうな笑顔すら、いやらしさの欠片も感じさせない爽やかさ
卯月さんは同じく体を起こして、綺麗な肉体に目を奪われる俺をよそに、またそっとキスした。
彼は好きだと伝えても、俺がどう思っているかなんて聞かない。
俺の欲望を受け入れても、自分は何も要求しない。
目の前の快楽に酔いしれて、彼の体だけを求めてる俺に、心底幸せそうに接してくれる。
弄ばれてるとわかっているのに、俺を大事に抱きしめては、側にいたいと口にした。
重ねてた唇が離れて、ぎゅっと彼の背中に手を回しながら、何かにつけていちいち理人を思い出す自分に
自問自答してみた。
もし卯月さんに突然何かあって、亡くなってしまったとしたら
果たして俺はどう思うだろうか。
口説くのが上手くないと・・・ロマンチックなセリフやキザなことを一つも言えずに、愚直に自分を曝け出していた彼に
どうしてもう会えないんだろうと、受け入れられなくなるだろうと思う。
ずっと一緒にいたかったなんて、思う程時間を共有していないけど
きっと理人より、卯月さんをふと思い返す瞬間が増えるだろう。
それできっと、何でだろう・・・俺は卯月さんのこと好きだったのかな・・・なんて考えるんだ
彼ともっと一緒にいたら
自分は変わっていっただろうかとか・・・
そして、彼が訪れることのなくなった自宅のリビングで、一人晩酌する光景を想像してみた。
「寂しい・・・・」
ポロポロこぼれる涙を隠すように、彼の肩に縋りついて泣いた。




