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 授業中のアドレアン様は、というか授業中もアドレアン様はあまり真面目とはいいがたい。自分で選択して履修しているわりに暇なのかよく話しかけてくるし、外ばかり見ている。それなのに指名されると的確なことを答えるし、他の人では気づかないような鋭い指摘をしたりするのだからなんだか悔しい。

 アドレアン様が選択している授業はレイナルド殿下の時と違って平民の生徒が多い。アドレアン様狙いっぽいご令嬢もいるにはいるが。平民の生徒が多いため、授業内容はレベルが高めである。すごく学び甲斐がある。というかアドレアン様のノートを覗くだけでも勉強になる。アドレアン様のノートは最低限しかとられていないが、鋭い考察などが書き足されているのだ。私はそれももちろん自分のノートに写し取っている。だから最近は席が空いていないのをいいことに、積極的にアドレアン様の隣に座るようにしている。アドレアン様も別に嫌がってはいなさそうだし。そもそも授業中に向こうからしょっちゅう話しかけてくるような人に嫌がられているとは思いづらい。だからいいのだ。



 授業中、講師から出された課題を解いている時にアドレアン様が窓の外を眺めていた。ノートを見るとさっさと解き終わったみたいだ。私も解き終わっていたので特に深い理由はないのだが、アドレアン様の横顔をぶしつけにじろじろと観察してみた。長い睫毛に高い鼻梁。厚すぎず薄すぎない形のいい唇はアドレアン様の顔のつくりの端麗さを引き立てている。アドレアン様でさえなければ見とれてしまうほどにかっこいいのだが、いかんせんアドレアン様だ。

 といってもアドレアン様には熱心なファンがいるようだ。クレアから平民の女子生徒からも人気が高いと聞いた。たしかにクレアと私がランチをしている時にアドレアン様の噂が近くのテーブルから聞こえてきたことが何度かある気がする。でもなぜかみんなきゃあきゃあ言う割に遠巻きに眺めてばかりなのだが。レイナルド殿下やお兄様のファンのご令嬢方とアドレアン様のファンのご令嬢方は本質的に違うらしい。レイナルド殿下やお兄様のファンのご令嬢方はクレアに言わせれば肉食系らしい。アドレアン様のファンのご令嬢方は草食系なのだろうか。それも違う気がする。アドレアン様のファンのご令嬢方の方が熱狂的な気もするし。ただ近づくとアドレアン様から嫌がられるから遠巻きにしているだけなのかもしれない。それか、いつかアドレアン様が自分の存在に気づいて迎えに来てくれると信じている系なのかもしれない。そっちの方がありそうな気がした。

 私は急に自分がいじめにあったりしないか不安になって、背筋がうっすら寒くなった。アドレアン様のことをじっと待っているご令嬢方の前に急に現れてアドレアン様と仲良くしている令嬢、つまり私だ。これは明らかに危険じゃないだろうか。どこかでクレアに相談しよう。

 そんなことを考えて青くなっていたら、いきなり頬をつねられた。驚いて私の頬をつねっている人、アドレアン様の方を見る。


「何考えてたんだよ。顔色が悪い。」


 心配してくれていたみたいだ。それにしてはつねられた頬が痛いが。私はなんだかむかむかしてきた。誰のせいで思い悩んでいたというのか、人の気も知らないで。そう思ったらちょっとどうでもよくなってきた。アドレアン様にこの葛藤をぶつけて責任をとってもらおうと思い至る。


「悩んでることがあるんです。」


「なんだよ。」


「ここじゃちょっと。だからいつもどおり。」


 そう言うとアドレアン様はわかってくれたようだ。「ああ。」と短い返事が返ってくる。帰ったらいつもどおり手紙に書くつもりだ。今日はクレアが屋敷に来る予定の日だし、クレアにも相談して、アドレアン様には鬱憤をぶつけて。そう思ったら少し気持ちが落ち着いた。




**********





「だからアドレアン様ファンのご令嬢方にいじめられるんじゃないかと思って!

 考えたらどんどん不安になってきて。どうしよう、クレアー。」


「うん、それはあるかもね。」


「!!!」


「でもさ、カタル様ってそういう陰湿なの嫌いそうだし、そんなカタル様に気づいてほしい迎えに来てほしいご令嬢方がいじめたりするかな。 

 今回の場合、いじめられる理由って完全に嫉妬じゃん?いじめてカタル様のそばから遠ざけたとして、それをカタル様が黙っているとは思えないんだよね。」


「そうかも。

 けどクレア、それはいじめられた後の話であって、私がいじめられないための話じゃないよ。」


「バレたか。」


「とりあえずルーチェは侯爵家のお嬢様で宰相の娘、高い地位にいるわけだし、それを活かしていった方がいいんじゃないかな。手を出したら社会的に抹殺されるとか、よからぬことになるイメージを作る。それと並行して物理的にも危険な気配を出す。ルーチェ体術も剣術も選択してるし、そこで腕を上げていったらどう?」


「要するに手を出したらヤバイ感じになるってこと?」


「そういうこと。」


 クレアはそう言ってお茶をすすった。簡単に言ってくれるが、そうなってくると私だけでどうにかできる話でもない気がする。ひとまず保留にしよう。






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