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クレアと話した後、私はアドレアン様に手紙を書いていた。
「アドレアン様のせいでご令嬢方からいじめられそうです。
次はどう書いたらいいかしら。状況説明からかしら。」
『アドレアン様には熱心なファンのご令嬢がたくさんいます。ご存じですか?
今までアドレアン様は女性を傍に寄せず、アドレアン様に近づきたい女性たちの関係も均衡が保たれていました。そこに今年度私が入学してきました。その私は生徒会でみんなの憧れアドレアン様に近づき、補佐となり、時には昼食を2人きりではないとはいえアドレアン様と一緒に食べ、あまつさえ納涼会でアドレアン様からダンスを申し込まれファーストダンスを踊っていた。ご令嬢方の心中は穏やかではいられないでしょう。察するに余りあります。
そんな中、2学期が訪れ私はいくつもアドレアン様と同じ講義を選択しています。そして授業の度にアドレアン様の隣に座り、授業中もみんなの憧れのアドレアン様から話しかけられ、仲良く会話をしていたりもする。頬を引っ張られるなどのボディタッチまであります。
そんなアドレアン様と私の様子を見て、ご令嬢方はどう思われるでしょう。私の存在が憎らしくなったりするのではないでしょうか。今まで一線を引いて黙ってアドレアン様を見守り、いつかアドレアン様が自分を見つけ、自分を選んでくれるその日を心待ちにしていたご令嬢は、私のことをどう思うのでしょう。
はっきり言います。私いまいじめられ危機にあるんです。アドレアン様ファンが私をいじめるのも時間の問題なのではないでしょうか。怖いです。どうにかしてください。
クレアに相談したら、家の力を悪用して手出ししたら社会的に抹殺されるような悪役令嬢みたいになれとか、体を鍛えて物理的に強くなって相手を怖がらせろとかそういうことばかり言うんです。
というかそれってまさに悪役令嬢じゃないですか。いくら相手にいじめられそうになったからと言って、力の差がある状態で叩きのめしたら完全に悪役令嬢ですよ。私断罪されたくないんです。世の中は悪役令嬢の断罪ブームですから。悪役令嬢と言えば断罪からの処刑。断罪と言えば悪役令嬢。そんなものになりたくありません!助けてください。』
書いていたら変に盛り上がってしまった。だって悪役令嬢だなんて大衆恋愛小説ではおなじみの登場人物だ。大抵は恋敵として現れ、主人公の邪魔をし、主人公を苛め抜き、最後には断罪される。鉄板のストーリー展開だ。
私は想像してみた。主人公はアドレアン様に憧れる令嬢の1人。アドレアン様に近づきたいと思いつつも近づけないまま、いつも遠巻きに彼に視線を送りながら過ごしている。いつか彼が自分の存在に気づき、自分を迎えに来てくれる日を夢見ながらも変わらない毎日を送っていたある日、変化が訪れる。新入生として入ってきたとある侯爵令嬢。それが変わらないはずの私達の平穏を壊したのだ。誰もが近づきたくも近づかない、暗黙の了解であるはずの彼との距離感を壊した。ずけずけと彼の視界の中に入り込み、近づく。それは時に生徒会で、時に友人である兄を利用して昼食の場で。2人の距離はみるみる縮まり、気づけば誰とも踊らないはずの彼がパーティーで彼女をダンスに誘っていた。そんなの友人の妹だから社交辞令だ、いやもしかしたら気の迷いかもしれない。なんとなく踊りたくなって、友人の妹だから誘いやすかっただけかもしれない。そう信じて自分を胡麻化した。それなのに新学期になってまた彼女が私達の祈りを打ち砕いた。彼女が私達と同じ授業に現れたのだ。新入生のくせに生意気にも応用講義に入り込んでくる。ここは彼と私達の聖域だったのに。あろうことか彼女は毎回彼の隣に座り、彼との仲を私達に見せつけてくる。授業中も親密そうにしているし、彼から彼女に話しかけていることもしょっちゅうだ。彼が彼女の頬をつねっていることもあった。私達はこれまでずっと彼に憧れてきた。それが今ぽっと出の小娘に攫われかけている。侯爵令嬢で彼の友人の妹という立場を利用して彼に近づき、彼の心をからめとろうとしているのだ。
私達が彼女に嫌がらせをはじめるのに、さほど時間はかからなかった。はじめはささいないたずら程度のものだった。それがどんどんエスカレートしていくのを自分でも止められなかった。こんなことしたいわけではないのに、でもこの激情を止めることができない。私達はみんな心と行動の矛盾に悩んでいた。それでもいじめは続いていく。けれど彼女はおとなしくやられてくれる令嬢ではなかった。ある時噴水の前で彼女を押そうとした令嬢が逆に噴水に投げ込まれたのだ。そこからはひどかった。彼女を陥れようとたくらんだ者が彼女の家の力で没落させられたり、彼女に直接手を下そうとしたものが物理的に反撃されたり。次第に彼女に嫌がらせをはたらく者はいなくなった。みんな彼女の目を気にして、恐れるように過ごしている。
(途中から物語の方向性が変わってしまったわ。やっぱり悪役令嬢路線になってしまうじゃない。クレアの案はできれば採用したくないわね。)
私はせっかくなので、この考えたばかりの妄想も一緒にアドレアン様宛の手紙に認めてから、レベッカを読んで早速アドレアン様に送った。




