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『言いたいことはいくつもあるが、まずはこれから言わせてもらう。

 お前いつもこんな妄想しながら過ごしてるのか?頭はもっと建設的に使うことを推奨する。

 

 悪役令嬢という言葉に聞き覚えはなかったが、お前の妄想を読んでなんとなくわかった気がする。そりゃあそれだけ相手を陥れたり危害を加えたりしていたら、たとえ正当な理由があったとしても断罪されるだろ。悪役令嬢路線はやめとけ。ろくなことにならない。


 いじめに関しては、くだらないとしか言いようがないが、俺にも責任の一端があるなら俺が手を貸してやる。だから何かあったら俺を頼れ。1人で危険なことをするな。

 もし俺に頼れない時はレイナルドに頼れ。あいつなら悪いようにはしないはずだ。俺たちの目の届かないところではなるべく辺境伯令嬢から離れるな。


 お前に何もないことを祈ってる。』


 アドレアン様からの返事はその日のうちに届いた。案外気にしていてくれたのだろうか。返事が早い。興味ないと思っていたし、馬鹿にされるかもとも思っていたから、心配してくれて結構嬉しかった。





**********





 予想に反して何も起きないまま日々を過ごしている。決してアドレアン様ファンのお姉さまたちにいじめられたかったわけではない。ないのだが、いじめられないとそれはそれで拍子抜けだ。アドレアン様との距離感は相変わらずだし、お姉さま方は本当に私のことをいじめなくていいのだろうか。むしろ心配になってくる。私がそんなことを心配するのは本末転倒だが。



 今はクレアと一緒に剣術の授業に向かっている。やっぱり何かのあるなしに関わらず、自分の身を守るすべはあった方がいい。勧められるがままに体術と剣術の授業を選択しておいて正解だった。

 と言っても私はまだ始めたばかりの超初心者でへっぽこだ。剣を振ろうとしても長くは続けられないし、体術にしても体幹ができていないせいかすぐに転んでしまう。いじめられる頃までには形になるといいのだが。



 剣術の授業も体術の授業も、当然のことながら男女別で行われる。講師も女騎士様だ。そのためアドレアン様をはじめとした令息達の雄姿を近くで見たい、などという不純な動機で選択するミーハーなご令嬢はここには存在しない。いるのはガチ勢。主に騎士の家系などの武家出身のご令嬢だけだ。つまりほぼ経験者。しかも本気だ。だから女子生徒しかいないとはいえこのクラスはかなり本格的な授業が行われる。私やちらほらいる初心者平民女子生徒にはなかなか厳しいものなのである。私はクレアがいなかったら、そして辺境伯家でのお兄様の様子を見ていなかったら、ついていけずに途中で脱落していたかもしれない。平民女子生徒は平民でありながらこんなところまで学びに来ているだけあって、みんな根性がある。私達は授業にどうにかこうにか食らいついていた。



 私達初心者は授業の大半を剣の素振りに費やす。剣を振り回す筋力と体力が不足しているからだ。私達のレベルではまだ練習試合にまではたどり着かない。ただ剣を振る。これがなかなかにつらいのだ。二の腕がぷるぷるして、腕がもげそうになる。もう上がりたくないと主張する腕を叱咤しながら、剣を持ち上げ振り下ろす。授業の後はいつも全身がキシキシする。全身の激しい筋肉痛は開始2週間で落ち着いたが、いまだに授業が終わるたびに体が軋むのは変わらない。普段使っていない筋肉を使うのだ。無理もない。私達初心者組はみんなで痛みに耐え、時には励まし合いながら一緒に素振りを続ける。おかげで平民女子生徒達ともだいぶ仲良くなった。環境の違う友人たちとの交流は想像以上に楽しかった。



 私達がヘロヘロしながらも必死の思いで剣を振り続けている横で、クレアは無双していた。それほどにクレアの実力は圧倒的だった。授業開始初日の練習試合でクラス中を制圧し、2回目の授業からは上級生のお姉さま方にも指導のようなものをしていた。その実力は講師である女騎士さまにも一目置かれており、新入生ながらアシスタントのようなものを任せられている。

 お兄様はあのクレアに挑むつもりだ。そう平坦な道ではないだろう。頑張って、お兄様。私はつい心の中でお兄様を応援してしまう。授業が終わるたびに帰りの馬車の中でその日のクレアの鍛錬についてお兄様に報告するのが、すっかり剣術や体術の授業がある日の日課になってしまった。

  


 今日もクレアは強い。数いるお姉さま方を軽くあしらっている。初心者仲間の中には、クレアに憧れクレアが剣を振るう度に感嘆のため息を吐く子たちまで出てきた。クレアが彼女達に「お姉さま」と呼ばれるようになる日も遠くないかもしれない。



 剣術に限らず、体術の授業でも同じ感じだ。剣術と体術両方とっているご令嬢方がほとんどなので、クレアをトップにヒエラルキーが出来上がりつつある。恐るべしクレア・・・。授業を受ける度にお兄様の進む道の険しさに祈りたくなる日々が最近の私の日常となりつつある・・・。






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