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レイナルド殿下とのお茶会の翌日、私は学園が始まる前にと細々とした用事を片付けていた。そこにノックの音がしてレベッカがお茶とお菓子を持って入ってくる。
「お嬢様、お渡しするのが遅くなりましたがこちらは先日届いていたものになります。」
レベッカが手紙を渡してくれる。アドレアン様からのものだ。忙しい私を気遣って一段落つく頃まで渡さずに保管していてくれたらしい。別にそんなこと気にしてくれなくてもいいのだが、その気遣いが嬉しい。私はなんとなく気分がよくなってレベッカに軽食を頼んだ。お気に入りのローストビーフサンドだ。ローストビーフが届くまでに用事を終わらせることにする。急いで作業を始めた。
ローストビーフサンドが届くのと用事が終わるのはほとんど同時だった。私は気分よくローストビーフサンドを受け取ると、テラスで食べることにした。午後の日差しが気持ちよく差し込んでいる。小鳥のさえずりが清々しい気分にさせてくれる。
ローストビーフサンドをつまみながらアドレアン様からの手紙の封を切った。そこには見慣れた、アドレアン様らしくない端麗な文字で日々の近況が記されていた。アドレアン様は夏休みということもあり、家の用事を手伝いながら日々鍛錬に励んでいるらしい。さすがは騎士団長子息だ。だが鍛錬に励んでいると言ってもお兄様ほどではないだろう。辺境伯邸でのお兄様の鍛錬はそれはもう壮絶だったのだから。
そんなことを思いながら読み進めていると、お兄様の鍛錬に関する話が出てきた。アドレアン様にも辺境伯邸から送った手紙でお兄様が鍛錬に励んでいるということは伝えている。それが気になったのだろう。お兄様の様子や鍛錬の様子などに関するお伺いだ。後で便箋10枚くらいかけて詳しく描写して説明してあげようと思う。便箋10枚程度ではたしてちゃんと説明できるのかが心配だ。しかしそれ以上かけたからといってうまく書けるかはわからないし、それ以上は直接会った時に説明することに決めた。アドレアン様にはお兄様の鍛錬に協力してもらわなければならないし、そのことも書かなければならない。よく考えてみるとアドレアン様への手紙で書きたいことがいっぱいある。想像しただけでうきうきわくわくしてきた。その勢いのまま手紙を読み進める。
アドレアン様からの手紙には、辺境に関する疑問なども書かれていた。辺境というのはほとんどの貴族達にとって知識でしか知ることのない未知の場所なのだ。実際に行ったことがある人は驚くほど少ない。アドレアン様は騎士団長子息という身の上からも辺境というものが結構気になるらしい。そんなに気になるならクレアに声でもかけてみればいいんじゃないかと思うが、アドレアン様の性格上そんなことはしないだろう。交友関係が著しく狭いイメージがある。偏見かもしれないが。わかる範囲で答えて、わからないところは今度クレアに聞いてみてから返事をすることにしよう。レイナルド殿下もアドレアン様も一度ランドール辺境伯領を訪れてみればいいのにと心から思った。
辺境の話の後には、数日後には始まる学園に関する話が書かれていた。具体的には、来学期から応用講義が履修できるようになるけれどどうするつもりか、準備はしているのかって話。アドレアン様に言われるまですっかり忘れていた。辺境伯領でクレアと話したばかりだったというのに。応用講義を履修することは決めている。成績も足りている。でも肝心のどの応用講義を履修するかを全く考えていなかった。決まっているのは魔法くらいだ。こればかりは学園再開前に決めておかないとスムーズな履修ができなくなってしまう。アドレアン様に感謝だ。おすすめの科目や履修したことのある科目の感想などをアドレアン様に聞いてみることにする。あとでお兄様にも聞いてみよう。もし昨日憶えていたらレイナルド殿下にも聞けたのに、残念なことをしてしまった。迷惑を承知でお父様に手紙を預けて聞いてみよう。応用講義に関しては実際に受けてみた人から感想を聞くに限るのだ。授業は多岐に渡っておりそのうえ進行の程度やその時の学生の様子などから、当初の予定とかけ離れた授業をすることも珍しくないらしい。だからどうしても受けた人から様子を聞きたいのだ。
クレアと応用講義に関して打ち合わせたいな、と思いつつぼーっと考える。クレアが辺境から戻ってくる予定はいつだったろう。結構授業ギリギリだった気がする。そんなことを考えながら外を眺めていると家の門の前に馬車が止まったのが見えた。クレアを見送った時にも見た辺境伯家の馬車だ!私は慌てて玄関に向かった。
玄関に向かうと想像通りクレアがいて、執事に家に招き入れられているところだった。執事に頼んでサロンにお茶の用意をしてもらってクレアを通す。
「まだ数日は戻って来ないかと思っていたわ。」
「そのつもりだったんだけどね、ちょっと予定が変わっちゃって。オル兄からルーチェとクリストフ様に手紙を預かったの。秋から応用講義をとるつもりだって話したから、ルーチェにはおすすめの講義の手紙で、クリストフ様にはこれだけはとっとけって指導の手紙。両方ともルーチェに渡しとくね。」
「ありがとう!
ちょうど応用講義をどうするか考えてたからすごく助かる!」
「それはよかった。手紙だけだったら届けさせてもよかったんだけど、ルーチェも王子殿下とかから話を聞いてるだろうし実際に打ち合わせた方がいいってオル兄に言われて、それで早めに帰ってきたの。」
「さすがオルファス様。」
私はオルファス様の気遣いと頼り甲斐にちょっと感動した。
「でもごめんクレア。ちょっと待ってもらってもいい?
私応用講義のことをさっき思い出したばかりでまだレイナルド殿下とかお兄さまとかに聞いてないの。これから手紙を出して聞いてみる予定だからそれまで待って。」
「全然いいよー。
学園に間に合えばいいんだから。学園前日くらいに打ち合わせましょう。」
しばらく話してクレアは寮に帰っていった。私は慌ててアドレアン様とレイナルド殿下に手紙を書いた。




