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 私は背筋にゾクゾクとしたものがはしるのを感じた。辺境に発つ前にも冗談めかしてそのようなことを言われたことはあったけれど、冗談ではなかったのだろうか。レイナルド殿下の瞳から瞳をそらすことができなくて、私はしばし息をつめた。


「どうなのかな?

 君が辺境の男性に惹かれるというのならば、私も辺境伯に教えを請いに行かなければならないのだけれど。」


 レイナルド殿下はまだ瞳をそらさない。


「辺境の男性と言っても、辺境伯の屋敷から外には出ていないので、出会ったのは辺境伯のご家族とその使用人くらいですわ。

 辺境伯ご家族はもとより、使用人達を見ていると王都の使用人との違いは明白でした。みな動きは機敏でたくましく力強く、使用人であっても有事の時には戦闘に加わることができるように教育されているということでした。

 辺境伯ご家族は・・・。」


「辺境伯ご家族は?」


 レイナルド殿下は真剣な目つきのまま続きを促してくる。レイナルド殿下の瞳は真剣なのだが、真剣で怖いというよりもむしろ必死さを感じさせるものだった。だから私もついレイナルド殿下を安心させてあげたくなる。レイナルド殿下の不安が消えるように丁寧に言葉を紡ぐ。


「辺境伯ご家族はとても素敵な方達でした。質実剛健でいつも有事の際に備えているのでとても頼りになる方達だというのが、一緒に過ごした短い時間でも伝わってきましたわ。剛毅な見た目に反して人柄は温かく、お兄様の鍛錬を見学しているときにはそれが一層強く伝わってきました。

 たくましいだけではなく、人間らしさというのでしょうか、どこか憎めないところがあったり、隙のようなものが垣間見えたときには親近感がわきました。人間としてとても魅力的な方達だったので、惹かれるなという方が無理だと思いますわ。レイナルド殿下がもし同じ時間を過ごされていたのならば、レイナルド殿下も同じように感じたと断言できます。それほど素晴らしい経験をさせていただきました。」


 レイナルド殿下が視線を外して大きく息を吐く。


「結局、私は辺境伯に教えを請わなければならない、ということかな。」


「そうなりますわね。

 レイナルド殿下にもぜひ、できるだけ早くに成長したお兄様を見ていただきたいのですわ。」


「クリストフは今日は留守にしているんだったよね。」


「はい、残念ながら。

 レイナルド殿下にもあのお兄様の鍛錬風景をお見せしたかったです。何度倒されても立ち上がる不屈の精神。こんなことを言うのははばかられますけれど、お兄様にそんなものがあるなんてそれまで露程も思っていなかったので、いたく感動いたしました。今後も打倒クレアを掲げて鍛錬に励むそうですわ。」


「へえ、ランドール嬢をね。」


「お兄様、ランドール辺境伯領での鍛錬ではクレアに太刀打ちできませんでしたから、思ったよりそれを気にしていたみたいです。」


「なるほどね。

 といってもランドール嬢は年下女性とはいえランドール辺境伯と夫人にしっかりと鍛えられているはずだ。並大抵のことじゃ勝つのは難しいと思うよ。特にクリストフは肉体より頭脳派って感じだし。」


「そうなのですわ。

 けれどそこからのお兄様の変身を期待しているのです。私の愛読する大衆恋愛小説に登場するヒーローがごとく今までの自分の殻を打ち壊すのです!

 そんなお兄様を誰よりも近くで応援できることが私の喜びの一つに増えました。」


「クリストフも期待されているね。

 ウィンサー侯爵や侯爵夫人からしてもクリストフの変化は嬉しい変化だろう。

 そういうことなら私としても協力させてもらうことにするよ。今度から鍛錬の際はもう少し積極的にクリストフと打ち合っていくことにするよ。これはアドレアンにも協力を打診した方がいいかな。」


「アドレアン様、ですか?」


「今までは私とアドレアンが打ち合って、クリストフは見学をしたり素振りをしたり、ということが多かったからね。これからはアドレアンと2人でもっとクリストフを追い込んでいくことにしよう。

 クリストフの変化が今から楽しみだな。」


「私もどこかで見学に行かせていただいてもいいですか?」


「もちろんだよ。ルーチェリア嬢1人でもちろん大歓迎だけれど、ランドール嬢と一緒に来てくれてもいいよ。たまにはクリストフも実践で実力をはかることも必要だろう。」


「クレアとの練習試合ですね。クレアが張り切りすぎてお兄様がけがをしないといいんですけれど。」


「それはクリストフの鍛錬不足だな。では精々ランドール嬢に怪我をさせられない程度にはしごいてやるとするか。」


「お願いいたします。アドレアン様には私からもお願いしますわ。

 それにしてもレイナルド殿下は鍛錬がお好きなのですか?お兄様の鍛錬でそこまで張り切っていただけるとは思いませんでした。私としては嬉しい限りですけれど。」


「ああ、他ならぬ君の望みだからね。

 私にできる限りのことをして叶えてあげたいと思ってね。」


 レイナルド殿下は優しく微笑んだ。心臓が不規則な鼓動を立て始めたのを感じる。私はそっと紅茶に視線を落とした。







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