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 ランドール辺境伯家を出てからまる一週間。ようやく住み慣れた王都に帰ってきた。辺境伯家に滞在していたせいか、王都にあるものがみなちゃちに見える。これが辺境と王都との違いか、と理解した。辺境に実際に訪れてみたことによって、今まで知識の中でしかわからなかった辺境と王都との違いが理解できるようになった。たしかにこれならオルファス様は学園に残るより辺境で学んだ方が有意義だろう。辺境伯夫人が小説に憧れながらも辺境という土地を出ない理由もわかるような気がする。学びの多い旅だった。お兄様はなおさらだろう。来年も辺境に行きたくもなるというものだ。



 王都についてしばらく進んだろうか。貴族たちの住むエリアに差し掛かった。そろそろ我が屋敷が見えてくる頃だ。先触れは出してあるので、お母様が待っていてくれているだろう。途中で手紙は出したが、お母様に会って直接辺境での話や辺境伯夫人のことを伝えたい。そして文字通り一回りたくましくなったお兄様のことも。




 その日の夕食は大いに盛り上がった。夕食の時間だけでは足りなくて、サロンに場所を移してお茶を飲みながら辺境伯領での話をした。お父様もお母様もお兄様の鍛錬の話を目を輝かせながら聞いていた。私まで少し誇らしい気分になったくらいだ。それから辺境の話もたくさんした。お兄様がいつも夕食の後に辺境伯達と話していたという辺境の話をしてくれた。領民たちの街での暮らしぶりとか、辺境伯としての日々とか、政治や経済に至る話まで。お兄様は実に濃密な日々を過ごしていたようだ。それを聞いていて私は己の過ごし方をちょっとばかり恥じた。たぶんお兄様もお父様もお母様も、辺境伯家の人達も気にすることはないと言ってくれるだろうけれど、やっぱりちょっと気になる。来年は私ももっと成長できる過ごし方をしようと心に誓った。





**********





 一夜明けて、今日はレイナルド殿下とのお茶会の日だ。この一か月弱はあっという間だった。レイナルド殿下との前回のお茶会の翌日に辺境に向けて発ち、一週間ほど滞在して、帰ってきたら翌日にはまたお茶会だ。まだ一か月近く経つという実感がわかない。とはいえそんなことを言っていてもあと数時間もすればレイナルド殿下が来てしまうので、慌てて着替えて準備をする。



 今日の衣装もレイナルド殿下から送られてきていた。夏らしいすっきりとしたデザインのワンピース。金に近い黄色に鮮やかな青い刺繍がほどこされている。パフスリーブの七分袖がかわいらしい。髪飾りもまたレイナルド殿下から一緒に送られてきたというものをつける。軽い青いガラスに金の装飾を施された薔薇の形のものだ。髪をまとめて結い上げて、髪飾りをつけてもらった。せっかくの夏仕様なのでメイクも黄色や青を使った夏らしい涼しげなものにしてもらう。アクセサリーも髪飾りと揃いのものが届いていた。レイナルド殿下の心遣いを感じる。

 




 今回はサンルームで私はレイナルド殿下を迎えていた。日差しが壁一面に備え付けられた窓から入り込んできて気持ちいい。夏ももう終わりが近づき、日差しもだいぶ柔らかくなってきた。


「今日の服もよく似合っているよ。君は何を着てもよく似合うから送り甲斐があるよ。まるで夏の妖精みたいだ。」


「ありがとうございます。レイナルド殿下の見立てがいいのだと思います。」


「嬉しいことを言ってくれるね。

 さてルーチェリア嬢、早速聞かせてくれるかな。ランドール辺境伯領はどうだった?」


「そうですね。想像していたよりもっと過酷な場所であることがわかりましたわ。でもあの質実剛健な雰囲気にはとても好感がもてました。王都との違いを帰ってからひしひしと実感しているところです。」


「そうか。まだ帰ってきたばかりだったね。」


「はい、昨日着いたばかりです。」


「忙しなくさせてしまったかな。申し訳ない。

 君がランドール辺境伯領から送ってくれた手紙も興味深く読ませてもらったよ。手紙に書いてあったけれど、クリストフが鍛錬に励んでいたんだって?」


「そうなんです!聞いてくださいませ。」


 私はレイナルド殿下にお兄様がいかに頑張って鍛錬に励んでいたか、辺境伯家の人達がみんなでお兄様を応援してくれて成長を見守っていてくれたかを、熱く時に涙ながらに語った。


「それは・・・。クリストフにはいい経験になったようだね。私も一緒にランドール辺境伯領に行きたかったくらいだ。次にクリストフに会うのが楽しみだな。

 それで?ルーチェリア嬢はどう過ごしていたの?」


「私は、手紙にも書いた通りのことしかしていなくて、お恥ずかしい限りですわ。

 クレアや辺境伯夫人とお茶会をして、お兄様の鍛錬を見学するだけで一週間過ごしてしまいました。ただ遊んでいただけの自分の浅はかさを恥じているところです。」


「気にすることはないよ。クリストフにはクリストフの考えや立場というものがあるし、それはルーチェリア嬢のものとは違う。君が自分を恥じる必要なんてないんだよ。」


「それは、そうかもしれませんが。」


「向上心が高いのはいいことだよ。でもそれによって自分を恥じる必要はない。」


「そうでしょうか。」


「そうだよ。

 そんなことより、私はルーチェリア嬢に聞きたいことがあるんだ。」


 レイナルド殿下は言葉を切った。そして私の瞳をじっと見つめる。吸い込まれてしまいそうな瞳だ。


「ランドール辺境伯領で出会った男性に惹かれたりしなかった?

 また辺境伯子息と親しくしてたりしていない?」


 レイナルド殿下の瞳はおそろしく真剣で熱かった。





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