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昨日お兄様に宣言した通り、ランドール辺境伯領での最終日は辺境伯夫人とクレアとのお茶会で始まった。これまではなんだかんだオルファス様とのことを冷やかされてばかりだったので、今日は朝からすぐに本題に入った。もちろん大衆恋愛小説の話だ。今まで読んだ本の中からおすすめのものなどを紹介しあう。辺境伯夫人から読みたい恋愛小説のジャンルなども前回より具体的に聞いた。伝えておけばこれからもお母様が送ってくれるだろう。クレアは辺境で読んでいたおすすめの小説と、王都で読んだおすすめの小説の両方を紹介してくれた。辺境の大衆恋愛小説のラインナップは王都とは少し違っているのでなかなか興味深い話が聞けた。いつも話しているとはいえ、こうして改めて聞いてみると新たな気づきがあるものだ。私はいつもレイナルド殿下に贈ってもらっている外国の恋愛小説の話もした。これは今までクレアにもしていなかった話だ。令嬢と王子様との恋愛小説推しのクレアには深く刺さったようだ。これからは外国語の習得に力を入れると言っていた。自領と接している国の言葉以外はそんなに熱心に勉強してきていないらしい。とりあえず手に入れやすい近場の国の小説を中心におすすめしておいた。
話していると時間はあっという間に過ぎ、そろそろ日が傾いてくる頃だった。私達はお茶会を切り上げ、お兄様の鍛錬の総仕上げというものを見に行くことにした。
鍛錬場に出るといつも以上の熱気だった。鍛錬最終日ということもあり、お兄様にも辺境伯達にも熱が入っている。
お兄様は滝のような汗を流しながらオルファス様と打ち合っている。オルファス様はほとんど汗もかいておらず涼しい顔だが、その瞳からは熱を感じられる。その後ろではウィリアム様がお兄様に檄を飛ばしながらアドバイスをしている。ウィリアム様だけではない。辺境伯もオルファス様もお兄様の動きの欠点を指摘したり、攻め込み方のアドバイスをしていたりする。それを見たクレアや辺境伯夫人もお兄様に向けて何かを叫んでいる。辺境伯家全体でお兄様を育てようとしてくれているのが伝わってくる。私はそれを見ていて胸が熱くなってきた。
例のごとく私が目を潤ませながらお兄様を見ていると、これまた例のごとくオルファス様と目が合った。そんな私を見てオルファス様は何とも形容しがたい表情をした。そしてふっと笑った。私は恥ずかしいやらなんやらでやりきれない気持ちになった。が、すぐに気落ちを切り替える。今はお兄様の大事な時だ。そんなことを考えている場合ではない。
私もクレアに並んで必死でお兄様を応援した。こんなに大声を張り上げるのは前世から数えても初めてな気がする。足を踏ん張っておなかに力を入れて声を出す。日一日とたくましくなっていくお兄様を見ているだけで私まで強くなったような気になってくるのが不思議だ。お父様やお母様の気持ちが少しわかったような気がする。
お兄様は昨日はへろへろになっていたはずなのに、今日は最終日だから気合の入り方が違うのか、倒れることなく向かっていく。剣で打ち合う鈍い音がする。その音の勢いも衰えることなく力強いままだ。そんなお兄様を見ていたら、私は涙をこらえきれなかった。涙でぐちゃぐちゃになった顔で必死に応援している間にお兄様の鍛錬最終日は終わった。
「ちょっとルーチェ、なんて顔してるのよ!?」
クレアの声に全員がこっちを見た。恥ずかしい。お兄様は私の姿を見てなぜか感動したらしく、一緒になって泣いている。それを見ていたウィリアム様とクレアまでもらい泣きを始めたので、その場はなんだかおかしなことになった。辺境伯と夫人は微笑ましくも温かい目で見守ってくれ、オルファス様は
ツボにはまったのか爆笑。むしろ笑い泣きしている。
お兄様と私は抱き合って泣いていたが、みんなの様子にどこからか楽しくなってきていつの間にか笑っていた。みんなも笑っていて、辺境伯領での最終日はこうして終わった。
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楽しかった辺境伯家での日々も終わり、私とお兄様はいま帰りの馬車に乗っている。これから約一週間の旅だ。滞在期間より移動期間の方が長いのがなんとも切ない。来年もまた遊びに行く約束をした。お兄様もちゃっかり一緒に約束していた。この一週間の鍛錬はお兄様の中の何かを変えたらしい。来る前は辺境伯家での鍛錬にちょっと怯えた様子を見せていたが、今では来年の約束をしているくらいだ。お兄様のその変化が私には少し眩しかった。
「辺境伯家で鍛錬を積んだからね。暴漢が出てもルーチェ一人くらいなら守ってあげられると思うよ。」
こんなことを言っている。
「クレアにも以前、同じようなことを言われましたわ。」
「クレア嬢は強いからね。また手合わせしてほしいな。
というよりも、在学中にクレア嬢より強くなれるようこれからは鍛錬に打ち込もうと思う。何かあった時に妹の親友のご令嬢に助けられるようじゃ紳士ではないからね。」
クレアに負けたのがお兄様の中では相当効いたらしい。辺境伯家での楽しかった日々の話に花を咲かせながら、私達は帰りの行程を進んでいった。




