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クレアと辺境伯夫人との初お茶会の翌日、私達はお兄様の鍛錬の様子を見学に行くことになっていた。朝食後にクレアと待ち合わせて鍛錬場に向かい、お昼ご飯はピクニックのようにしてもらって鍛錬場でみんなで食べられるように用意してもらうことになった。ちなみに辺境伯夫人は読みたい小説がたくさんあるからと別行動で読書漬けの時間を過ごすらしい。私のことは気にしないでと素晴らしくいい笑顔で手を振られた。
鍛錬場に出てきたとき、朝食が終わってからまだそんなに経過していなかったにもかかわらず、お兄様は玉の汗を全身から滴らせて、上半身を折り曲げて膝に両手を当て、ぜえぜえと肩で息をしていた。対してランドール辺境伯家の面々は汗一つかいておらず、涼しい顔をしていた。もちろん誰も息など乱していない。
いったい何が起きてるんだろう。そう思っていると、隣から楽しそうな声がかかった。
「やってるわね。」
クレアだ。クレアは見慣れた様子で驚くふうでも訝しむふうでもない。これが辺境伯家流の通常の鍛錬風景ということなのだろうか。
少なくとも以前見た王宮での鍛錬はこんな感じではなかった。たしかにみんな一律に汗はかいていたし、息も乱していたがこんなに圧倒的な感じではなかった。それだけ辺境伯家流の鍛錬はハードだということか。私は一昨日の晩、夕食の時に辺境伯が言っていた「王子殿下を打ち負かすほどとは言えないが、少し危機感を抱かせられるほど」という言葉を思い出した。辺境伯は本気だ。私はこの時になってようやくわかった。辺境伯は冗談で言っていたわけではない。むしろ少し謙遜気味に本気でレイナルド殿下に一太刀浴びせさせようとしているのだ。
私は辺境伯家というものが少し怖くなった。なかなかそこが知れない人たちだ。その時ある考えがひらめいた。ふと思ったのだ。だからクレアに聞いてみることにした。
「ねぇ、もしかしてクレアはお兄様より強いの?」
「私?もちろん。
剣の腕じゃ兄貴達に遠く及ばないけれど、それでもクリストフ様程度に負けたりはしないわ。
たぶん一太刀も受けないと思うよ。」
クレアは不思議そうに、当たり前のことのように言う。私はちょっと怖くなった。クレアでさえもか。お兄様の剣の腕は決して悪くはなかったはずだ。少なくとも王都ではそうだ。それでも辺境伯令嬢一人まともに相手にできないとは。辺境とはそんなに厳しい場所なのだろうか。私は認識を改めざるをえなかった。それなら学園で必要単位を取り終えたオルファス様が辺境に戻ってきたのもわかる。王都になんていたって何も得るものはないだろう。せいぜい社交の腕がみがけるくらいだ。だが辺境伯家に真に必要なのは社交の腕などではない。強さだ。有事の際に戦える強さ、判断力。そういったものは
この辺境の地でしか培うことはできないだろう。私は改めて辺境伯家の凄さを知った。それだけでも今回辺境まで来た甲斐があったとわかる。それはお兄様も同じだろう。だからこそ辺境伯家の過酷な鍛錬に食らいついていっているのだ。
こんな時に思うのも違うと思うが、私は改めて辺境伯家の魅力を知った。これからはもっと積極的に辺境の男性との恋物語を読んでいこうと思う。
「どうしたの?ニヤニヤしちゃって。」
「クレア、私わかったの。辺境の男性の魅力が!これからはもっと積極的に辺境の男性との恋物語を読んでいこうと思うの!」
私のその言葉に、近くにいたオルファス様がふきだした。
しばらく鍛錬を見学した後、一区切りついたところを見計らって私達は昼食にしようと声をかけた。お兄様はその言葉を待っていたかのように、半ば転がるようにしながら私達が広げたマットの上へと飛び込んできた。マットの上にたどり着くと、もう限界といった様子であおむけに倒れこんだ。それを見てクレアを含めた辺境伯家の面々が笑う。
「クリストフ殿、今からそんな様子じゃ午後が持たないぞ。」
「一日はまだまだ長いぞ。へばってる暇はないぞ。」
「王都では相当ぬるい鍛え方をしていると見える。そんな様子では有事の際は全く役に立たないのではないか?」
「クリストフ様、ファイト!
せめて私に勝てるくらいに強くなってくださいね。」
みんな口々にいろんなことを言っている。頬にそよ風を感じながらみんなの様子を見ていると、幸せだなと感じられた。私は見学していただけで特に鍛錬はしていないけれど、すごく充実しているように感じた。
辺境伯家の人達はよく食べる。みんな鍛えているからおなかがすくのだろう。今日はお兄様も負けず劣らずよく食べている。昨日もそうだったのだろうか。王都ではお上品に食べているが、今はがつがつ食べているといった表現の方がしっくりくるくらいだ。こんなお兄様も健康的でいいな、なんてつい思ってしまう。辺境伯家の人達もがつがつ食べているはずなのだが、そこは慣れなのかあまりがっついているようには見えない。ウィリアム様は見ようによっては少しがっついているようにも見えるが、オルファス様なんか食べている姿もとても優雅だ。そして色っぽい。私の中の辺境伯子息に憧れる心に火がつきそうだ。




