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 辺境伯夫人とクレアと話をしている間に昼食の時間になったらしく、図書室に昼食が運ばれてきた。美味しそうな料理の数々につばを飲み込む。昨日の夕食や今朝の朝食も美味しかった。ランドール辺境伯家には腕のいい料理人がいるらしい。

 納涼会の時にオルファス様から聞いた話だが、辺境では王都以上に強靭な肉体が好まれる。体が資本だから、必然的に王都より食を大事にする傾向にあるらしい。なので料理人の質がいいとか。ランドール辺境伯邸の食事を見る限り、その話は本当なのだろう。



 夫人とクレアと3人で食卓を囲む。女性だけの食事は思った以上に楽しく進み、明後日もこうして食事会を兼ねたお茶会を開催することに決まった。

 食事を食べ終えると、またお茶を飲みながら小説の話に戻る。今度はクレアが話す番だ。王都で出会ったおすすめの小説について話し出す。本人が推していると公言しているだけあって、クレアの話の大半は王子様と令嬢の恋物語だ。でも心境の変化なのか、ところどころ騎士様の話が混ざってきている気がする。

 それを指摘するとクレアは言った。


「騎士様とのお話にして、王子様と三角関係になるところがいいの!

 王子様と騎士様の間で揺れる令嬢の心理描写がたまらないのよ!

 だからルーチェもぜひともカタル様と仲良くして頂戴。応援してるわ!」


「仲良くって言われても。」


「何言ってるの。納涼会でも一緒に踊ってたじゃない。」


「あら、ルーチェちゃんは騎士団長の御子息とも関係があるの?」


「そうなのよ、聞いてちょうだい、お母様。

 ルーチェったらファーストダンスをカタル様と踊っていたのよ。

 カタル様と言ったら毎年納涼会ではどこかに雲隠れしていて踊らないって有名だったのに!」


「まあ、すごいじゃない、ルーチェちゃん。

 王子殿下と騎士団長子息を天秤にかける悪い女ね。」


「しかもその後はオル兄と踊ってたわよね。」


「じゃあオルファスにも可能性はあるのかしら?」


「王子殿下と騎士団長子息と辺境伯子息を秤にかける悪い女ね。」


 クレアまでそう言ってニヤッと笑う。夫人とクレアは見た目はそこまで似ているわけではないが、変なところで親子なんだなと実感させられた。



 クレアと夫人にひとしきりからかわれた後、話題は夫人の好きな恋愛小説の話へと移った。夫人はまんべんなく読むタイプらしい。好きなのはどちらかと言うと令嬢モノらしいが、相手に対してこだわりはないらしい。王子様だろうが執事だろうが平民だろうがなんでもアリらしい。ちなみに私は執事や平民相手の話は読まない。貴族令嬢が執事や平民と結ばれるのは、それこそ王子様と結ばれるよりも難しいからだ。侯爵令嬢という立場でそのような叶わぬ恋に身をやつして家を没落させるわけにはいかない。領民や使用人の人生もこの肩にかかっているのだ。読むだけで済めばいいが、それに惹かれてしまう可能性のあるようなことなど、私にはできなかった。本を読んで憧れない自信がなかったのだ。

 夫人の話によると、辺境という土地柄か、ランドール辺境伯領に入ってくる小説は平民女性モノが多いらしい。たまに貴族令嬢モノの小説が入ってきたとしても、執事が相手だったり平民が相手だったりするものが多いとか。中でも人気なのが平民女性と王子様のラブストーリーだそうだ。やっぱりどこの世界でも王子様は人気があるようだ。そんな環境でなかなか好みの貴族令嬢モノの小説が手に入らないため、王都に出る用事があれば買いあさり、子ども達が学園に通うようになってからは買って送るように指示したり、と苦労していたらしい。あのウィリアム様やオルファス様が大衆恋愛小説を買いに書店に通っている姿を想像すると、なんともいえないものがある。道理でオルファス様が大衆恋愛小説に詳しかったわけだ。

 夫人の話には驚くことがあった。それはオルファス様が学園の生徒だということだ。一応最高学年に籍はあるらしい。既に必要な単位を取り終えており、式典の時くらいしか登校しないらしい。辺境伯家だけに王都より辺境で学ぶことの方が多いとか。オルファス様が帰ってきてしまったから、クレアが入学するまで小説が手に入らなくてつらかったそうだ。今は同じ趣味のクレアが学園に入学したため、頻繁に小説を送ってもらえて充実した毎日が過ごせているらしい。


「辺境にいると手に入るまでに時間がかかるし、そもそも限られたものしか出回らないし、好きなものを選んで読むということ自体難しいのよ。だから王都暮らしにあこがれる時もあるわ。」


 クレアは以前そう言っていた。夫人も同じなのだろう。しかし辺境伯夫人という立場上、そう簡単に辺境を出られない。不憫だ。私は心から夫人に同情した。


「だから今回ウィンサー侯爵夫人から普段読むことができないような小説がたくさん届いて、つい興奮して読んでしまったのよ。」


 その日は夫人が今までどれだけ小説を入手するのに苦労したかの話を聞いて過ごした。私は王都に住んでいて簡単に小説が手に入るし、レイナルド殿下も折に触れて外国の大衆恋愛小説を贈ってくれる。自分の恵まれた環境に感謝した。





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