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食べているオルファス様をじっと見すぎたのか、オルファス様と目が合う。私は恥ずかしさと気まずさからさっと目をそらした。それを見てオルファス様が口の端でふっと笑ったのが見えた。いたたまれない気分になりながらもその口元がセクシーだな、とか思ってしまう。その様子をずっとクレアに見られていたのには気づかなかった。
食後は紅茶を飲みながら一休みする。それが終わったらお兄様達は鍛錬に戻るらしい。午前中は筋トレしたり素振りをしたりの基礎練習だったが、午後からは実際に打ち合っての稽古になるらしい。
「私も参加しようかしら。体がうずいてきちゃったわ。」
急にクレアが言い出す。
「それがいいんじゃないか。クレアとが一番実力的にも体格的にも合うだろう。」
「そうだな。ではクレア、着替えて来い。
ルーチェリア嬢は気にせずそのまま見学していてくれ。」
クレアの言葉に賛成票が上がり、あっという間にクレアも鍛錬に参加することになっていた。私はクレアよりむしろ、お兄様が心配になった。他の人達なら対格差も実力差もあるし、手加減をしながら打ち合ってくれるのだろうが、クレアが相手ならほどほどにしか加減してもらえなさそうな気がしたからだ。加えてお兄様は、相手が女性だし妹の親友だしということで強気に打って出られないだろう。この勝負確実にお兄様の負けだ。たぶんクレアはお兄様が本気を出しても勝てないほど強い。だからこそ辺境伯は許可したのだろう。お兄様の精神面が試されているのかもしれない。よし、私はお兄様を応援することにしよう。
しばらくして着替え終えたクレアがやってくると、午後の鍛錬が始まった。素人目に見てもクレアの動きは機敏でお兄様よりもはるかに強そうだ。クレアがこんなに強かったなんて辺境伯領にくるまで知らなかったので、なんだか新鮮な思いだ。
クレアは不敵な笑みを浮かべながらお兄様と剣を交えている。対してお兄様は腰が引けている。クレアが相手だからやりづらいのだろう。ここは相手をクレアだと思わずに、アドレアン様か誰かだと思って力いっぱいやってほしい。でないとお兄様がけがをしてしまうだろう。今は剣を当てる練習だが、試合形式での練習になったらけがは避けられない。私はハラハラしながらお兄様を見守った。
手に汗握りながらお兄様を見つめていると、誰かが隣に腰を下ろした。
「さっきからすごい形相で見てるな。」
笑い含みの声はおなかの底に響くような低めのテノールで。
(オルファス様だ!)
私はドキッとした。変に意識してしまったからか、今はオルファス様の顔を見るのも恥ずかしい。
「クリストフが心配か?少し顔色が悪い。」
そう言いながら私の額に張り付いた前髪を長くしなやかな指がかき上げてくる。ついうっかり心臓が止まりそうになった。ついうっかりなんかで心臓に止まられてしまっては困るが、そんな心臓の気持ちも理解できてしまいそうなほどだ。オルファス様の存在は心臓に悪い。これは自信をもって力いっぱい言える。
動けなくなっている私にオルファス様が言う。
「深く息をしろ。それだけでも違ってくる。
大丈夫だ。クレアはクリストフに怪我をさせたりしない。そんなに弱くないからな。」
オルファス様は私の背中に手を当てて深呼吸するよう促してくる。ドキドキが止まらない心臓をなだめつつ、私は大きく息を吸う。そうすると自然と背中に当てられているオルファス様の大きな手に意識が集まっていく。いっぱいに吸うと今度は、息を吐くのを促すようにオルファス様の手が私の背中を撫でさすっていく。お兄様のことなんか一瞬にして頭から吹き飛んでしまった。私はまるで人形になったかのようにオルファス様の手に促されるがまま深呼吸を繰り返した。
いつの間にか打ち合いの練習は終わっていて、今度はお兄様とクレアの練習試合が始まるらしい。お兄様はどこかやりづらそうにしていて、それに対してクレアは絶対勝つわよと息巻いている。私は両手の拳を握り締めてお兄様にアイコンタクトを送った。お兄様は力なく微笑んでくれた。ダメだ、これじゃやられる。私は反射的にそう思った。それは隣に座るオルファス様も同じだったらしい。立ち上がってお兄様にアドバイスをしてくれている。ウィリアム様もクレアを女性だと思うな、歴戦の士だと思えとかとんでもない声をかけているし、私は一層心配になった。
辺境伯の合図で二人が位置に着くとオルファス様が戻ってきた。緊張からかついこぶしを握り締めてしまっていた私の右手が温かい何かに包まれる。私の手をすっぽり包んでしまえるほど大きくて、どこか硬さのあるそれは握り締められた私の指を優しく撫でる。その安心感に力が抜けた。
私はひとつ深呼吸をして目をしっかり開けてお兄様とクレアの様子を見守った。2人の顔を見てから辺境伯が合図をする。
試合開始の合図だ。




