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 クレアと話してすっきりしたせいで大事なことを忘れてしまっていた。私は今自分のうかつさを呪っている最中だ。とはいえ、現実逃避していても現実からは逃れられない。



 午前の授業を終える前から、廊下が騒がしかった。今日の午前中最後の授業は少し長引いていて、他のクラスは昼休みに入っている。そんな昼休みの廊下がいつもより騒がしい。女子生徒が普段より多い気がする。時折高い声が聞こえてくる。

 それが時間の経過とともに私達の教室の方に近づいてくる。講師が荷物をまとめて教室を出ていった頃には、廊下はだいぶざわついていた。なんだか黄色い悲鳴が聞こえる気がする。一瞬またお兄様かと思ったが、今までお兄様が来た時にここまでの騒ぎになったことはない気がする。そんなことを思ったせいで判断が遅れた。私が気づいたころには教室の扉が開けられ、彼が目の前に歩いてくるところだった。


「やあ、ルーチェリア嬢。ご機嫌いかがかな。」


 目の前の王子様は、窓から入ってくる日の光を浴びてきらきらと輝く金髪を風になびかせながら完璧な笑顔で言った。



「レイナルド殿下。」


 私は目の前の人物を見てあっけにとられた。お兄様の言葉がリフレインする。レイナルド殿下が自ら誘いに来るかもしれないよ。たしかにお兄様はそう言った。だがしかし、まさか王子殿下自らが本当に来るとは思わないではないか。私は悪くない。そう思いつつも気が付いていた。お兄様の誘いを無下に断り続けていた自分が悪いのだと。



「学園生活はどう?楽しく過ごせている?それ以外にも、何か困ったこととかはないかな?」


 レイナルド殿下はさわやかにきらきらオーラをまき散らしながら聞いてくる。うぅっ、笑顔が眩しい。レイナルド殿下のオーラに押されて、無意識のうちに一歩下がった。


「毎日楽しく過ごしています。おかげさまで困ることもなく。

 レイナルド殿下やお兄様が気にかけてくださるおかげです。」


「いや、そんなことはないよ。でもそういってもらえてよかったよ。

 これで君を気兼ねなく昼食に誘えるからね。」


 そう言うとレイナルド殿下は目が合ったら気絶しそうなスマイルを放った。後ろで女子生徒の悲鳴と何かが倒れる音がした。その音に私は我に返った。一瞬意識を飛ばしていたみたいだ。


「ルーチェリア嬢?」


 私が意識を飛ばしていたせいか、レイナルド殿下が心配そうに聞いてくる。


「大丈夫です。ちょっと窓の外に気をとられていて。」


「そう?

 でも私といる時は私のことだけを見ていてほしいな。」


 レイナルド殿下の言葉に周囲から悲鳴が上がる。私も一緒になって悲鳴を上げてしまいそうになった。踏みとどまった私を誰かほめてほしい。クレアがキラキラを通り越したギラギラした目でこちらを凝視しているのが目に入った。それを見て我に返った。


「ごめんなさい。青い鳥がいたので、つい。」


 私はとっさに嘘でごまかした。あんな思わせぶりなレイナルド殿下の言葉に付き合っていたら心臓が持たない。話を逸らすに限る。


「青い鳥か。仕方ないね。

 今回はゆるしてあげるけれど、次からは私のことだけを見てね。」


 レイナルド殿下の微笑みに周囲からため息が漏れる。私が返答に窮していると、レイナルド殿下が先に口を開いた。


「それで、今日のランチのことだけれど。」


 レイナルド殿下の言葉にはっとして殿下の顔を見る。周囲は静まり返って私達の会話に耳を澄ませている。


「今日のランチは私と一緒に食べてくれるのかな?

 クリストフを寄越すといつも断られてしまうから、私もそろそろ焦れていたんだ。

 どうかな?」


 これは逃げられない。そう悟った。お兄様やアドレアン様ならともかく、レイナルド殿下に直々に出て来られては断れる人はいないだろう。

 私は諦めてクレアを見る。クレアはにんまり笑いながら、どうぞどうぞと何度も頷いている。


「お友達も一緒でもいいんだよ?」


 レイナルド殿下がそう言ってくれた。が、私が返事をするよりクレアの言葉の方が早かった。


「恐れ入ります、王子殿下。いつもルーチェリア様に仲良くしていただいているクレア・ランドールと申します。

 ありがたいお言葉ですが私はいつもルーチェリア様とご一緒させていただいておりますし、せっかくの機会にお邪魔をして水を差すようなことになるのも気が咎めます。

 私のことは気にせずルーチェリア様とご一緒にお食事なさってください。」


 まるで別人のように猫を被ったクレアの姿に私は売られていく子牛のような気分になった。周囲の生徒たちは固唾をのんで私達のやりとりを見つめている。誰も助けてくれそうにない。私が売られることは決定したようだ。


「ありがとう、ランドール嬢。心遣いに感謝するよ。

 ルーチェリア嬢、お友達もこう言ってくれている。今日は私とランチを共にしてくれるね?」


 いつもより少し強引なレイナルド殿下の態度に周りの女子生徒たちがそわそわしているのが伝わってくる。私もちょっとドキドキした。


「・・・はい。仰せのままに。」


 答えた私にレイナルド殿下は今日一番の笑顔を見せた。





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