第95話 女の闘い
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屋敷の応接室の中、上座には清十郎を間に挟んでニルティーナとイリアが並び下座にはウェインが座る
ニルティーナの側付きの侍女が紅茶を淹れて二ルティーナの前にそっと置くとロムアがそれを見届けてから紅茶を淹れてウェイン達の前に順番に置いていく
紅茶をそれぞれ分けて淹れているのは毒の混入を避けるための暗黙の了解とこういった場合では序列が優先され位の上の者から順次配膳されることを清十郎は以前の講義で学んでいる
「殿下その男とイリア様は下座に座らせなければいけませんよ」
やんわりと護衛のオレンジ色の髪の女性がニルティーナを窘める
「ライラ、それについては先ほども申しましたが構いませんわ」
さらりと言ってのけるニルティーナにライラは嘆息する
先ほどイリアと清十郎が下座に行くので一緒に座ろうとしたらライラに窘められならば清十郎だけをと上座に行こうとしたらイリアに王女殿下は上座にどうぞと言われた為、仕方なしに清十郎を間に挟みイリアを上座に置くことを良しとしたのだ
「しかし・・・」
「私が良いと言っているのです」
ニルティーナにそこまで言われてはライラは黙るしかない。鋭く清十郎を見た後ライラは二ルティーナの後ろに立つ
(なぜ儂をにらむ・・・)
清十郎はそう思いながら嘆息する
「ふふ。皆さんそう緊張なさらず楽にしてくださいね」
二ルティーナがにこやかに笑いながら紅茶を口にする
そう言われてもと清十郎は思う。右腕をがっちりと二ルティーナに抱きしめられ柔らかな感触に心が揺れ動かされる場面だが左側にイリアがいると思うとそんな気分には到底なれはしない
「殿下、ポートウェル卿のところに向かわず私の屋敷へ参られた本当の理由を教えていただけませんか?」
ウェインが苦笑いを浮かべながら清十郎見てから二ルティーナを見る
「そんなものありませんわ」
「え?」
驚くウェインに二ルティーナが言葉を続ける
「ただ、清十郎様にお会いしたかっただけですわ。それと側室候補のイリアさんを見たかったと言えばいいかしら?」
涼しい顔をしてさらりと言ってのける二ルティーナの態度にウェインは頭を抱えたくなった
「殿下、先ほども申し上げましたが清十郎様はすでに私の夫です。それを召し上げ私が側室になるのはどうかと思いますよ」
イリアが目を細めて二ルティーナを牽制するが二ルティーナはにこやかに笑いイリアを見る
「あら?でも、まだ結婚はなされていませんよね?」
「・・・」
黙るイリアに二ルティーナは黄金に輝く瞳で清十郎を見つめる
「口づけだけで清十郎様の夫となれるのでしたら私もすれば夫にできるのかしら?」
そういうと顔を清十郎に近づける。いきなりのことで慌てたのは清十郎だ
「これこれ!イリア殿も姫君も落ち着かれるのじゃ!」
「まぁ!姫君なんてよそよそしい呼び方はおやめになって私のことは二ルティーナと呼んでくださいませ」
「殿下!」
「ライラは黙りなさい。今は清十郎様と話をしています」
ぴしゃりと言われライラは口をパクパクとさせウェインを見る。その目にはなんとかしろと訴えている。無理とウェインは細い目を更に細めて訴える
やれ
無理
しばらく目線の応酬が繰り返される中で事態は進んでいく
「イリアさんはそこのところをどうお思いなのかしら?」
わずかにギリと奥歯が噛みしめる音が清十郎の耳に届き清十郎はイリアを見るがそこには優しく微笑むイリアの顔が面前にあった
「イリア殿?」
「王女殿下、これが私の答えですわ」
イリアの言葉と共に柔らかな感触が唇にあたる
清十郎は一瞬目を見開くがイリアの柔らかな唇の感触と香りに目を閉じ堪能したところでイリアが口を放す。互いの口が離れる時に引いた糸がシャンデリアの灯に照らされる
「清十郎様は私を愛でてくださっています。今更他の女性に目を向ける方ではありませんわ」
静まり返る室内の中で今度は清十郎の右側からギリリと音が響く
慌てて清十郎がそちらを振り向くと二ルティーナの顔が面前にあり顔をがっちり固定され唇が重ねられる。勢いが強すぎたのかガチンと歯があたる音が室内に響いた
驚き目を見開いた清十郎は見てしまった
黄金の瞳は清十郎を見ておらずその後ろに向いておりその目にはお前なんぞに渡すものかと言っているようだった
「・・・殿下おやめになってください。それにイリアもそれまで」
室内に響くウェインの声が重く感じる中、その声で二ルティーナは唇を放す。呆ける清十郎に二ルティーナは柔らかく微笑むと鋭い視線をイリアに向ける
「ふふ。これで貴方と同じ条件ね」
「・・・」
にらみ合う二ルティーナとイリアにライラとウェインはため息を吐くのだった
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