第96話 ただの女として
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ニルティーナとイリアが清十郎を間に挟んで睨み合うのを見ながらウェインは頭痛を感じるのを我慢しながら口を開いた
「殿下、私は臣としてお諫めいたしますが御身は大切な国の宝です。ここにいる者は全員口が堅く漏らすことはございませんが軽々しい行動はお控えしていただくようにお願い致します」
「あら?軽々しくなんかありませんわよ?」
ウェインの諫言にもニルティーナはさらりと言ってのける
「だって私の夫となる男性ですもの」
「いえ、だからこそ・・・」
「ウェイン卿、臣として諫めるならば清十郎殿を私の夫としてお認めなさいな」
ウェインが言い募る言葉を遮りニルティーナが黄金の瞳でウェインを見る
そこには女性としてではなく国を預かる王女としての姿があった
「わかりませんか?この方の名前はすでに王都で広まっています。それに清十郎様は異世界の方でしょう?」
ニルティーナの言葉にウェインは自然と目が細くなる
「ウェイン卿、普通に考えればわかることですよ」
そこでウェインは自らが思い誤っていたことに気づいた
「ふふ。あなたほどの方が忘れていたようね。ライラは戦乙女として私は大魔術師として名前が知られているくらいには戦いを経験していますよ?それに私が率いる親衛隊の強さを忘れましたか?」
眉間に皺寄せ険しい表情を浮かべるウェインをみながら二ルティーナは静かに紅茶に口をつける
「なにもそんなに怖い顔をする必要はありませんよ。ただ清十郎様が私の夫になってくださればそれで構わないのです」
「・・・そうですか」
ウェインは眉間に皺を寄せたまま腕を組み頷いた
「わかっていただけましたか?」
「そうですな」
「お兄さま!」
「イリア、静かにしなさい。それにさっきから殿下に対して無礼がすぎる。殿下、愚妹の無礼をお許しください」
イリアの叫びをウェインは窘めると静かに頭を下げた
「いいえ。構いませんわ。それにイリアさんほどの気概のある方でしたら清十郎様の側室として十分に資格はあるでしょう。あとは私とイリアさんが仲良くなればいいだけの話です」
「愚妹にそこまで言っていただき感謝の言葉もありません。ですが殿下おひとつお忘れではございませんか?」
ウェインの言葉にここまでは自分の思い通りに事が運び上機嫌だった二ルティーナの顔がわずかに曇る
「・・・何をですか?」
「気持ちですよ」
そこでウェインは清十郎に目を向ける
「清十郎、君の気持はどうなんだい?」
それまで事の成り行きを見守っていた清十郎が静かに口を開く
「儂はイリア殿を愛しておる故に姫君の気持ちには答えることはできん」
清十郎のはっきりとした断りの言葉が室内に響いた
「そのように申しておりますが殿下はどう思われますか?」
「それでも構いませんわ。後から愛を育めばいいだけのこと。清十郎様どうか私と王都にいらしてくださいませ」
清十郎は首を振ると二ルティーナを見る
「儂はイリア殿以外に妻を娶るつもりはない。そなたの気持ちには答えられぬ」
「・・・あなたはすでにほかの国にも名前が知れ渡っています。異世界の者と知っている国もあるでしょう。もしこのオーランド王国があなたを捕まえようとすればどうしますか?」
「その時は叩き潰すまでよ」
清十郎のはっきりとした物言いに二ルティーナの表情が険しくなる
「・・・あなたの強さならそれもできるでしょう。しかし、手配され食料を手に入れることすら困難になったらどうしますか?あなたなら切り抜けられるでしょうがイリアさんもとなると難しいのではないですか?」
「そうなれば世界を敵に回してでも儂はイリア殿を守るだけよ」
「どうやって?」
「ふむ。儂の国を作ってみるのもまた一興かも知れんな」
その言葉に二ルティーナは初めて驚いた表情を浮かべた
「あなたは野心がないと聞いていましたが・・・。これは考えを改めないといけませんね」
正面から見る清十郎の瞳に動じる様子はなく本心から言っていることがわかる
「分かりました」
そういうと二ルティーナは清十郎に向かって目を伏せ頭を下げた
「殿下!」
「ライラ」
ライラの怒声が部屋の中に響くが二ルティーナが今までにない真剣味を帯びた声音で静かにライラの名前を呼び黙らせる
「清十郎様、数々の失礼な発言をお許しください」
「構わん。わかってもらえればそれでよい」
「ですが断るのは私をもっと知ってからにしてほしいのです」
「いや、儂は・・・」
言いかける清十郎の口に人差し指をそっとあてるとにこやかに微笑む二ルティーナの目から一粒の涙が頬を伝う
「女性に恥をかかせてはなりませんよ。清十郎様がどれほどイリアさんを愛しているか十分にわかりました。ですが私とて同じ時間があったなら貴方は振り向いてくれるかもしれまん・・・。ですから私にも機会をくださいませんか?」
「そなた・・・」
「いいのではないしょうか」
清十郎が言葉に詰まったところで後ろから声がかかり振り向くとイリアがまっすぐに清十郎を見ていた
「同じ女としてもし立場が違えば同じように機会を欲したかもしれません。清十郎様どうかその目でしっかりと殿下を一人の女性と見て判断してくださいませ」
イリアに言われて清十郎は眉間に皺を寄せ渋々ながらに頷いた
「・・・分かった」
「イリアさんありがとう・・・」
二ルティーナは精一杯笑う
その顔は誰からも見ても本心とわかる悲しさを帯びた微笑みだった
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