第94話 板挟み
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昼過ぎ玄関前で使用人たちと共に並びウェインの帰りを清十郎は待っていた
午前中に学院の方へはロムアを通じて休む旨をすでに連絡済みだ
しばらくして屋敷に見慣れた馬車が入ってくる。遅れてもう一台200人程度の兵士を引き連れた豪華な馬車が屋敷の中に入ってきた
そんな様子をどこか他人事のように清十郎は眺めていると屋敷前に止まった馬車からウェインが下りてくる
「やあ、みんな久しぶり。変わりはないかな?」
緑の髪に細い目をさらに細くし優し気に微笑むウェインは変わらず元気そうだった
「おかえりなさいませ」
ロムアが挨拶をすると出迎えにきていた屋敷の使用人たちが一斉に頭を下げる
「うん。ただいま。みんな元気そうだね」
屋敷の面々を一通り眺めるとウェインはうなずき清十郎達を見る
「うむ。おかえりウェイン変わりなさそうじゃな」
「おかえりなさいお兄様」
「父上、おかえりなさい」
ウェインと目が合った清十郎が挨拶をすると続いてイリア、ビットと挨拶を行う。それを見てウェインは優しく微笑みながら頷く
「積もる話もあると思うけど今は時間がないんだ。さっそくだけど王女殿下をお迎えするから列を作ってくれるかな」
ウェインはそう言うと意図を組んだロムアがすかさずミーニャと共に使用人たちにてきぱきと指示をだす。しばらくして赤い絨毯が敷かれ使用人たちが絨毯脇に列をなし準備が整うとそこに豪華な馬車が止まり一人の意匠を凝らしたプレートアーマーに身を包んだ女性が扉に手をかける
「ふむ。あの者は・・・」
清十郎にはその女性の凛々しい顔立ちとオレンジ色の髪に見覚えがあった。たしかファランポスと戦っていた女性だ。ふと横眼でその女性と目が合うと女性は鋭く清十郎を見つめる
はて?と清十郎が思っていると扉が開かれ中から純白のワンピースに身を包み腰まで伸ばした若草色の豊かな髪の頭の上にティアラを載せた女性が扉を開けた女性の手を取り下りてくる
その顔は美しくも凛々しさを感じさせ王女にふさわしい威厳を放っている
王女は頭を下げる屋敷の面々を見渡しその黄金に輝く瞳が清十郎を捉えた瞬間、目を見開くと小走りに清十郎の元に駆け寄りそのまま抱き着いた
「なっ!」
ウェインをはじめその場にいた全員が固まる
「こ、これ!お主、離さぬか!」
慌てる清十郎を他所に王女は華奢な体に似合わず力強く清十郎を抱きしめる
「いいえ、離しませんわ。私、これほど恋焦がれた男性は初めてですの!」
「はっ?」
王女の言葉に真っ先に反応したのは清十郎の隣にいたイリアだ
優し気に微笑んでいるように見えるが清十郎には凍てつくほどの怒りの形相にしか見えない。イリアの背後に般若が浮かんでいるのが幻視できるほどだ
「あなたは?」
清十郎に抱き着いたままイリアに尋ねる王女にイリアは丁寧にお辞儀を行う
「初めまして二ルティーナ王女殿下。私はウェイン=ハーミットの妹でイリア=ハーミットと申します。よろしくお見知りおきくださいませ」
「ああ。貴方がイリアさんね。ふふ。夫、清十郎がお世話になっておりますわ」
「夫!?」
まったく身に覚えのない言葉にぎょっとなるのは清十郎だ
「イ、イリア殿、違うぞ!まったくもって違うぞ!」
清十郎の慌てようにもイリアは動じない
「ええ。大丈夫です。清十郎様とはすでに口づけを交わし私が名実と共に妻でございます。いかに王女殿下と言え人の夫に手をお出しになるのは失礼ではございませんか?」
「なっ!?」
今度はイリアの言葉に清十郎が吃驚する
「あら?それを言えば私は清十郎様に壁の上であられもない姿をお見せしてしまいましたわ。あれほどのことをしておいて責任をとらないなんて清十郎様はおっしゃられませんよね?」
あざといほどの優しい微笑みで清十郎を至近距離で見つめる。ついでにその豊かな胸を清十郎に押し付けることを忘れない
「あ、あられもない姿じゃと?」
「はい。私、あれほどの辱めを受けたのは初めてでございました。責任を取っていただかなければ自ら命を絶たねばなりません」
「お、お主言い過ぎではないか?」
「・・・ひ、ひどい。清十郎様は私が嘘をついているとでも?」
二ルティーナの瞳から一滴の涙がポロリとこぼれる
「う・・・」
言葉が詰まる清十郎にイリアが優しく肩に手を置く
「大丈夫でございますよ。清十郎様。貴方がそのようなことをする殿方でないのは私が良く知っておりますわ」
「イ、イリア・・・ど・・の?」
清十郎が喜んで振り向いたそこにはもうすでに限界突破のイリアの顔があった。身内ならばわかる優し気に微笑んでいるがそこに優しさの一欠けらもない恐ろしい表情であることを知っているウェイン、ミーニャ、ビットはすでに一歩後ずさっている
「王女殿下、私の夫は決してそのようなことは致しません。むしろ王女殿下がそのようなことを申されますと品格がお疑いになられますよ?」
「あら?私は事実を申しているだけです。あなたこそお引きなさいな」
バチバチとイリアと王女との間で火花が散る中、仲裁に入ったのはオレンジ色の髪をポニーテイルでまとめた女性だ
「殿下、今は皆の目が集まる場所でございます。とりあえずその男をお離しください。ウェイン卿、貴方も早く殿下を中にご案内くださいませ。いつまでもこのような場所に居られて良い方ではありません」
きつめの言い方だか渡りに船とばかりにウェインが話に乗る
「これは失礼をいたしました。どうぞわが屋敷の中でまずはお寛ぎくださいませ」
それに促され仕方なしに二ルティーナは清十郎を解放するが清十郎の右腕だけは離さないとばかりに腕にしがみついている。清十郎のもう一方の腕をイリアがとり腕を組む。両手に花の状態で男子ならば喜ぶ状況だが今のこの状況は清十郎の精神をガリガリと削る状態でしかない
「「さあ、参りましょう」」
なぜか重なる左右から聞こえる言葉を最後に清十郎は引きずられるように屋敷の中に入っていくのであった
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