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第80話 頑張るビット

いつも読んでいただきありがとうございます

 清十郎が工房を見た翌日の朝、久しぶりにみるビットの素振りを見て満足げに頷いていた


「ふむ。ビットもなかなかいい振り下ろしができるようになったな」


「師匠、本当?」


「これ!誰が素振りをやめてもいいと言った。続けなさい」


「はい・・・」


 素振りをいったんやめて清十郎の方を向くビットに清十郎の叱咤する声が響く。しょんぼりしながら素振りを再開するビットを他所に清十郎は一旦、屋敷の離れに行くと一本の木刀を持ってきた。これは時間をみつけて硬そうな木を選び彫って作り上げたものだ


「ビットよ。素振りをやめよ」


「はい」


 素振りをやめさせた清十郎はビットの対面に木刀を持ち自然体で構える


「これよりお主の力を計る。好きに打ち込んでまいれ」


「え?」


「じゃからいつでもいいから打ち込んでこいと言うておる」


 一瞬、清十郎の言っていることがわからなかったがビットは言われたことをようやく飲み込むと目を輝かせて木剣を構える


「よし、いつでも構わぬぞ」


「いくよ。師匠!」


 ビットは上段に構えると裂帛の気合で清十郎に木剣を振り下ろす


「はあ!」


(ふむ。基礎があがり鋭さを増したがまだまだじゃな)


 苦笑いを浮かべつつ清十郎はビットの振り下ろしを木刀で優しく受け流すと体が流れるビットの足腰ついでに頭を軽く打ち据える


「いてえ!」


 ビットの叫びが庭に響く。見学していたイリアとミーニャも驚いたほどだ


「ほれ。痛がっておらんでもう一回じゃ」


 痛みで打ち震え涙目になりながら振り返るとビットは言われた通りもう一度上段に構える


「くそぅ!」


 半ばやけくそ気味に振り下ろすビットに清十郎はまたもや受け流すと駄目なところを打ち据える


「いたーっ!!」


 しばらくこのやり取りが続きビットが痛みと疲れで倒れると終わりになった


「ふむ。基礎はまあまあ出来てきておるな。ビットよ。明日より素振りの練習を増やす。上段が終われば左右の薙ぎの素振りを追加じゃ」


 清十郎は大の字で荒い息を吐いて涙目で転がるビットをみながら声をかけるがビットは返事をする元気すらない


「ふむ。この調子では強くなるなど夢のまた夢じゃぞ」


「・・・はぁはぁ。やります!」


「よし。その調子じゃ!次からは今のように打ち込みの練習も加えるでな。しっかり精進いたせ」


「そりゃないよ!師匠ー!」


 ビットの泣き声が混ざったような叫びを聞き清十郎は笑いながら倒れるビットをそのままにイリア達とともに庭を後にした


 その後、食堂に向かうと清十郎は首を捻る。何かが足りない。そんな気がする


「うん?清十郎どうしたんだい?」


 ウェインが首を捻る清十郎に声をかける


「何かが足りない気がする」


 ウェイン、ぐったりとしているビット、イリア、ミーニャ、と見て席が2つ空いていることに気づいた


「ふむ。ポーラ殿とティリがおらんな」


「あれ?清十郎は聞いてない?

 ポーラ殿とティリは孤児院の方に行ってるよ。なんでもティリが幼児退行とかいう症状を起こしてて今のままだとあまり本人のためにならないから孤児院の方で子供と一緒に共同生活をさせるんだって」


「ふむ。そういうことなら仕方がないのう」


「ポーラ殿からいつでも構わないのでまた孤児院の方にも顔を出してほしいと言付かってるよ」


「相分かった。近々、顔を見せにいくかのう」


「至急じゃないみたいだしそれでいいと思うよ。ところで僕はレギウスと王都の方へ行くことになったからよろしくね」


「ふむ。いつ帰ってくるんじゃ?」


 そこでウェインはうーんと唸る


「向こうの状況次第かな。早ければ1週間ほどで帰ってくるし長ければもう少しかかるかもしれない。こっちにはロムアを残していくから何かあったらロムアに相談して」


「そうか。なら気を付けていくんじゃぞ。ロムア殿よろしく頼む」


「承りました」


 ウェインの後ろでロムアは返事をし軽くお辞儀をする


「そういえば清十郎、工房の方はどうだった?」


「うむ。気に入ったぞ。あんなにも良い場所を選んでもらってありがたい。礼を言うぞウェイン」


 清十郎が礼を言うということに対してウェインはにこやかに首を振る


「いや、礼を言うのはこちらの方だよ。あんなにも素晴らしい剣を貰ったしね」


「え?父上、師匠から剣を貰ったの?」


 それまで疲れ切ってどこか虚ろな目をしていたビットが反応する


「はは。ビットは本当に剣が好きだね」


「うん。それでどんな剣を貰ったの?師匠、僕も剣が欲しいよ」


「お主にはまだ早い。しっかりと基礎を身につけよ」


ねだるビットに清十郎がぴしゃりと言い切る


「そうだよ。ビット、剣は遊び道具じゃないんだ。いずれ君が剣を扱えるようになったら

見せてあげるよ」


「えー・・・」


 軽く肩をすくめてウェインが言い聞かせるとビットががっくりとうなだれる


「そう、落ち込む出ない。そなたの剣は儂が打ってやるでな。その時を楽しみにしかと励め」


「え?ほんと師匠!」


 先ほどまでの落ち込み様から一転今にもとびかからんほどの喜びようだ


「うむ。儂は嘘は吐かん。ウェインもそれで構わんか?」


「ああ。助かるよ。ビットの初めての剣は君から是非贈ってやってくれ」


 ウェインがうなずくのを見るとビットが目を輝かせる


「やったー!俺、がんばるよ」


「子供はこうでなくてはな」


 清十郎はその様子をみて満足そうに頷くのであった


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