第81話 ビットの一日
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ビットは日が昇る前に起きると緑の髪の寝癖を整え身支度を済ませ木剣を持って庭にでる
以前は側付きの侍女が起こしに来るまで惰眠を貪り着替えも侍女任せだった
だが今はすべて自分の事は自分でやるようにしている
庭にでたビットはしっかりと体を伸ばし師匠の清十郎が来て素振りを終えるまでひたすら走る
清十郎が素振りを終えるのを見計らって自分は素振りを行う
この一か月ほどでかなり体の鋭さが増したと自分でも思う
ところが今日は清十郎が木刀を持って自分の前に立ち打ち込んで来いという
思わぬ師匠の言葉にこの一か月の成果を見せようとビットは張り切った
「行くよ師匠!」
上段に構え思いっきり振り下ろす。ここ最近でも一番の振り下ろしだったと思う
けれど打ち込んでみればいつの間にか自分はたたらを踏み足腰ついでに頭をポカリと叩かれた
一体いつ避けられたさえわからない始末に自分のプライドがへし折られる気がした
ビットは清十郎に余計な事を考える暇がないほどに打ち込みを続けさせられ最後は何も考えることができないほどヘロヘロになり体力がつきて大の字に転がった
「ふむ。基礎はまあまあ出来てきておるな。ビットよ。明日より素振りの練習を増やす。上段が終われば左右の薙ぎの素振りを追加じゃ」
清十郎の慈悲なき言葉がビットは心が折れそうになる
「ふむ。この調子では強くなるなど夢のまた夢じゃぞ」
ビットの心を見透かしたように声がかけられる。一瞬でも心が折れそうになった自分に悔しさが湧いてくる
「・・・はぁはぁ。やります!」
自然と出た言葉だった。その後、次からもこの打ち込みがメニューに入ることを知ったビットは絶叫するが清十郎は笑いながら去っていった
しばらくして体力が戻ると汗を拭きに一旦部屋にもどり着替えを済ませて朝食を終える
「さて、そろそろ行くか」
ビットはカバンを手に貴族学校へ向かう
貴族学校は中層区の大通りに面した一角にある運動場がついた大きな建物だ
学校行く道すがら背中を叩かれる
「おはよう!ビット」
「ああ。おはよう。ポルト」
ビットは隣に立つ茶色の髪のそばかすが目立つ少年に挨拶を交わす
最近できた友達だ。ポルトの家は商家を営んでいる
ビットはこの間の一件からゴルドと真っ向から立ち向かうようになった。うっとうしくなったのかゴルドはビットに絡まなくなったが代わりにポルトをいじめていたらしくたまたま現場を見つけたビットが助けに入ったことがあった。ビットとポルトが打ち解けて友達になるのに時間はかからなかった。今ではビットにとって欠かせない大切な友人だ
「はぁー今日は剣術の授業の日かぁ」
「剣術の授業は楽しいじゃないか。むしろ俺は算術が苦手だな」
ポルトのため息にビットは苦笑いしながら答える
「ビットは剣術の腕前が最近メキメキ上がって先生に褒められるからいいじゃないか」
「そういうポルトだって算術では先生に褒められてたじゃないか。さすが商家の息子だな」
「そんなことないよ。あんなのコツがわかればすぐだよ」
「そうかなー・・・」
「そうだよ」
ビットとポルトが何気ない会話をしながら歩いていると目の前に学校が見えてきた
アボルグ学院、通称貴族学校。平民の割合は9割、貴族1割と圧倒的に平民が多いが貴族が通うから貴族学校と安直に言われている。王都の学院はその逆で貴族が9割平民1割だ
門の前で大柄な赤髪の少年ゴルドと鉢合わせになるがビットを見ると鼻をならしすぐに中に入っていった。最近のゴルドはあまり人に絡まなくなった。以前はビットを見ると取り巻きの2人と一緒に捨て台詞の一つくらいは吐いて行ったがそれもない
ビットは立ち止まり去っていくゴルドの背中を見る。ゴルドの背中はなぜだか影を落としたような暗い雰囲気を纏っている気がする
「ほんと、あいつに会うと嫌なことを思い出しちゃうよ」
ビットの背中に隠れるようにして顔をだしポルトが言う
「・・・」
「どうしたビット?」
「ああ、いや。あいつ最近、一人だなと思って」
「そういえば、いつもの腰巾着の二人いないよね」
「ま、いいか。さ、俺たちも早く中に入らないと遅れるぞ」
「だね。入ろう」
そう言いビットとポルトは校舎の中に入っていった
学校の授業は基本午前と午後で分かれている。今日は午前が算術、午後が剣術だ
午前中、云々うなりながら算術をこなしなんとか授業を終えるとポルトと一緒に食堂に食べに行く
ビットは屋敷の料理人に料理を作ってもらっているので食堂で食べる必要はないがポルトは食堂の食事を食べるので一緒についていく
食堂の料理は味はまあまあだが量と種類が多くそれでもって一食銅貨3枚と激安で食べれるので平民の子供たちにとってはありがたい場所となっている
食堂は持ち込みも大丈夫なのでポルトの誘いで一緒に食べに行くのが最近の常だ
ポルトとビットが席につき食べ始めると一人の少女が食事が乗ったトレイを持って声をかけてきた
さらりとしたブロンドの髪をうなじ当たりで切りそろえた可愛らしい少女だ
「やあ、ポルトにビット、一緒に食べていいかな?」
「ああ、構わないよ」
「うん。どうぞ」
二人は少女に快くうなずくと少女はポルトの横に座る
「エリンは算術はどうだった?」
「うーん。まあまあかな」
エリンと呼ばれた少女はポルトの問いにまずまずといった感じに答える
「さすが商家の娘だな」
「うん。うちもうかうかしてるとエリンのところに負けちゃうかな」
「あはは。ポルトのところと商売の種類が違うから競合しないし大丈夫だよ」
冗談めかしたポルトに同じく笑いながら返すエリン
ポルトのところは雑貨を扱う商店を営みエリンのところは卸を営んでいる
三人が雑談に花を咲かせているとビットは一人で食べるゴルドに目がとまりその視線に二人が首を傾げ振り返る。ゴルドを見つけたポルトが嫌な顔をした
「ビット、ゴルドなんてほっとけよ」
ポルトがそっとビットだけに聞こえるようにささやくとエリンが顔をしかめる
「もう嫌がらせを受けていないんだからそういうこと言うのやめなよ」
「でも・・・」
「男なんだから水に流しなさい」
言い淀むポルトにエリンがぴしゃりと言う
「分かったよ・・・。でも最近あの取り巻き二人がいないのは気になるな」
「あの二人ならあそこよ」
エリンがそういうと目線をゴルドとは離れた場所で食べている二人組を見る
「なんでまたあんなところに?」
「ま、貴族にはいろいろあるんだよ。よし、ごちそうさん」
ポルトの問いにビットはそう答え弁当を食べきると席を立つ
「お?ビット、早いな」
「ああ、午後からの剣術の当番になってるからな。二人はゆっくりしていけよ」
「そうか。じゃあ、またあとでな」
「ビット、またあとでね」
「ああ、またな」
ビットは二人とあいさつを交わし食堂を後にした
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