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第82話 ビットとゴルド

いつも読んでいただきありがとうございます!

 ビットの掛け声で全員が一斉に素振りを行う

 今は貴族学校の練兵場で剣術の授業中だ。当番になったものが号令をかけることになっている

 学校で行われる授業は引退した冒険者や商家の跡目を譲った者などが教官をつとめ教えている


「最近のビットはやるようになったな。一つ一つの素振りが綺麗になった」


「そうですか?私は魔法を専門に教えておりますからよくわかりませんが」


「ああ。余程いい指導者と巡り合ったと見える」


 剣術担当で教えているロレンスは満足そうにしゃべるのを隣にたつ魔法担当の教官フェンスがそれを聞いて相槌を打つ


 ロレンスは40を超え限界を感じ引退した元C級冒険者だ。短髪に角刈りで鍛え抜かれた身体はいかにも厳めしい雰囲気を醸し出している


 対してフェンスは王都で魔術研究にのめり込んだがこれもまた限界を感じ30でアボルグで隠棲していた所、バングリーに声をかけられ魔法担当の教官になった


 フェンスは黒のローブを纏い陰気な雰囲気をだしている

まだ30だがまともに手入れされていない黒に近い青色の縮れた髪をそのままに白い肌が陰気な雰囲気に拍車をかける


「・・・ビット君の指導者はきっと清十郎という男でしょう」


「ん?フェンス殿は知っているのか?」


「ああ、以前、冒険者ギルドですれ違った時に膨大な魔素を纏っていて一瞬驚いたよ。これはと思って領主様にその男を是非、研究させて欲しいと願ったが却下されたよ。その件に関しては詳しいことは口外禁止を言い渡されたからこれ以上言えないがこの間のワ―ラスの話は聞いているか?」


 フェンスは元研究者だけあって能力鑑定眼というスキルを持っている。これは見るものの能力をある程度見極める事ができる能力だ。ポーラの扱うものの下位互換と言ってもいい


 魔法を扱う者であるフェンスはあまりにも凄まじい魔素を纏う清十郎を鑑定したことがある。それで異世界者かもという疑念を持ち是非研究がしたくなって領主に願い出た経緯があった


「ああ。王女殿下と英雄の話だな。ん?そういえばあの時にでてきた名前も清十郎だったな。ということは・・・」


「ああ。彼の師匠はその英雄殿だな」


「そうか!なるほどな!たしかにそいつに教えてもらえれば腕もあがるな。いやあ。俺も若ければな・・・」


「ロレンス教官!素振りが終わりました」


 ちょうどその時、素振りを終えたビットが駆け寄ってくる


「ん?そうか、なら次は模擬仕合だな。全員防具をつけて整列させろ」


「はい!」


 ビットは踵を返しみんなに大声で指示をだしている


「ふむ。やはり最近のビットはいい。きっと伸びるぞ」


「なら、彼にはぜひとも私の魔法の授業でも延びてもらわないといけないね。くふふ」


 ビットの知らないところで二人の教官はビットの強化計画を練るのだった



「それまで!」


 ロレンスの大きな声が響く。生徒たちが互いに礼をして後ろにさがる

 模擬仕合が一通り終わりみんな荒い息を吐いている


「うむ。みんなよくがんばったと思う。ビットとゴルド前にでろ!」


 ロレンスの呼び声にビットとゴルドが戸惑いながら立ち上がり前にでる


「みんなも気づいているかもしれないがビットは最近、技量を伸ばしてきている。ゴルドも同じだ。このクラスではこいつらが一番二番を争うと思っている。そこで二人の模擬仕合をここで行いたいと思う」


 ざわめくクラスメイトを他所にロレンスはニヤリと笑い話を続ける


「模擬仕合の時はあくまで打って打たれてだが今回はきちんと俺が判定をしてどちらが強いか決めてやる。二人ともどうだ?」


「俺は構いません」


 ゴルドが強い視線でビットを睨む

 視線を受けても以前ならいざ知らず今のビットはそんな視線すら堂々と受け止める

 その様子を見てロレンスはビットが一皮むけたことに確信を抱く


「・・・俺も構いません」


 二人から離れて囲むように車座で他の全員が座って見学する


 体格差は圧倒的、誰もがビットの負けを思わせるがなぜかビットの威風堂々とした立ち振る舞いに目を奪われる


 ビットってあんなにきれいに動けたっけ?


 だれかがそんなことを呟く声が聞こえた時、ロレンスの開始の声が響く


「はじめ!」


「うぉぉ!」


 ロレンスのはじめという声と同時にゴルドが斜めから剣を振り下ろす

 大柄な体躯もありかなりの勢いで木剣がビットに襲い掛かる


 ビットはいつもの上段ではなく正眼に構えたままゴルドのひどく緩慢な振り下ろしを見ると首を傾げ側面に飛び込むように移動し側面から背中を斜めに斬る


 バシィッっと防具に木剣があたる音があたりに響いた


「なっ!」


「それまで!」


 呆気ない終わり。車座で座っていた生徒たちも何が起きたかわからないまま終わった試合

 それに納得のいかないゴルドがビットに詰め寄る


「おい!てめぇ!なにせこい真似してやがる」


「なにがだよ」


「今、魔法か何か使っただろ!」


「俺は使ってない!」


「嘘をつけ!」


 ビットの胸倉をゴルドがつかむ


「そこまでだ!」


 今にも殴り掛からんとするゴルドにロレンスが止めるがさらにゴルドは言い募る


「教官!止めないでください!俺はこの卑怯者に・・・」


「馬鹿者!ビットは魔法は使っていない」


「え・・・?」


「ふむ。納得がいかんか。ならもう一度戦ってみろ」


「でも、それだとまた魔法を・・・」


「大丈夫。それについては私が見張っていよう」


「フェンス教官・・・」


 ゴルドは黒いローブをまとう男を見て言葉が詰まる


「私が見ていれば魔法を使ったかどうか判定しよう。まさか、君は私を信用できないとは言わないな?」


「う・・・」


 フェンスはあらゆる面で融通が利かないことでも知られている

 以前、成績を上げる為に金銭を持ち掛けた貴族の息子を容赦なく退学にしようとした男だ

 校長の仲裁もありなんとか事が収まったがそれ以来融通の利かない男としてレッテルが貼られている


「わかりました・・・」


「よし。ならビットも悪いがもう一度戦ってくれないか?」


「俺は別に構いませんが」


「なら。今度は俺とフェンスで見ているからな」


 ロレンスがそう言いビットと渋々ゴルドがもう一度、生徒が車座で座る中央に立つ


「化けの皮をはがしてやる」


「俺は卑怯なことはなにもしていない」


「言ってろ」


 ビットと鼻息を荒くするゴルドにロレンスは嘆息する


「はぁ。まあ、いい。二人とも準備はいいか?」


「はい」


「大丈夫です」


「よし。なら、はじめ!」


 ロレンスの合図とともに再びゴルドが斬りかかる

 ゴルドは自分が出せる一番の振りだと思った。ビットを打ち据える未来図すら頭の中に描いたほどだ

 だが結果は目の前のビットは消えるようにいなくなり背中に衝撃と共に打ち据えられる音があたりに響く


「それまで!」


 無常にも響くロレンスの試合終了の合図


「そ、そんな馬鹿な・・・」


 思わず膝から頽れるゴルド


「ゴルド、今度はビットは魔法は使っていないぞ。フェンスから見て魔法を使った痕跡はあったか?」


「いや、ないな」


「よし。なら勝者ビット!」


「よっしゃー!やったなビット!」


 その瞬間ポルトの叫び声が響く


「・・・ざけるな」


「ほら、ゴルドもそろそろ立ち上がって礼を取れ」


 ロレンスが膝をついたままのゴルドの肩に手をのせる


「ふざけるな!」


 ロレンスの手を払いのけゴルドは立ち上がるとそのまま練兵場を出て行ってしまった


「ったく。仕方のないやつだ」


 静まり返る場でロレンスは嘆息しフェンスもその様子にあきれているようだ


「よし、なら今日の授業はこれで終わりにする!解散」


「ありがとうございました」


 ロレンスの解散を合図に全員で礼を行いその場は解散となった


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