第79話 新しい工房
いつも読んでいただきありがとうございます
清十郎は屋敷のソファーで柔らかな枕の元、横になり自分の頭を優しくなでる手の感触を味わいながら微睡んでいた。屋敷の窓からは少し冷たさを帯びる風が吹き込みとても爽やかで気持ちがいい
「のう、イリア殿」
「はい?清十郎様」
自分の愛する女性の顔がすぐ間近にある。イリアは優しく微笑みながら清十郎を覗き込んでいる
ああ、なんという幸せ
清十郎の心はとても満足しきっと今の自分の顔は人には決して見せられないだらしのない顔になっているだろうと思う
「これは夢かのう」
「夢だと思いますか?」
愛する女性に膝枕をしてもらい優しく頭をなでられる。夢としか思えない
夢ならばという気持ちが清十郎の心に生まれ自分の頭を優しくなでる手をそっと握る
「清十郎様?」
イリアの手を引っ張るのと同時に自分は起き上がりイリアの体を抱き寄せ困惑するイリアにそっと顔を近づけ口づけをしようとした瞬間、横から当然のごとく声がかかる
「清十郎様、だめですよ!リビングはみんなでくつろぐ場所。お二人だけの場所じゃないですよ」
ミーニャの声で清十郎は慌てて周りを確認するとそこにはウェインをはじめ全員がそろっていた
「うん。一部始終見ていたけど。ほんと君たち仲いいね。うらやましくなるよ」
「ではウェイン様もご再婚をお考えになられては?」
ウェインが微笑ましく声をかけるとロムアがここぞとばかりに再婚を進める
「いや、僕はいいんだ。ビットもいるしね」
「できたらもうおひとりぐらい御子がほしいところですな」
「いや。それはイリアに任せるよ」
苦笑いしながらさらりと躱す主にロムアは嘆息する
「ところで儂はなぜイリア殿にその・・・」
顔を赤くし言葉がつづかない清十郎にミーニャが説明する
「清十郎様、覚えてないんですか?
二週間ほどバングリー様の工房に行ったきり戻らずにようやく帰ってきたと思ったら戻ってくるなりご自分の部屋で丸1日寝てたんですよ。
呼んでも起きないからよほどお疲れだったんだと思います。今朝、ふらっと起きてきて朝食をかきこんだと思ったらリビングのソファーでまた寝ちゃったんですよ」
清十郎はミーニャに自分の行動を教えてもらいああ、なるほどと納得する
「で、そのあとそれを見つけたイリア様がそっと自分の膝に清十郎様の頭を」
「ミーニャ言わなくてよろしい」
顔を赤くしながら復旧したイリアがぴしゃりと言い切る
「まあ、二人が仲睦まじいのは大変いいことだね。ところで清十郎は自分の工房の方は見に行ったかい?」
「そういえば、まだ見に行っておらぬな」
「よかったら見に行ってみてはどうだい?」
「ふむ。そうじゃな。そうするとしようか」
「僕はレギウスとまた打ち合わせがあるからいけないからイリアとミーニャ頼むね」
「「はい。わかりました」」
ウェインの指示にイリアとミーニャは頷く。まあ言われなくてもこの二人はついていく気満々であったが
「よし。ならさっそく行くとするか」
「そうですね。参りましょう」
早速とばかりに清十郎は立ち上がりウェインたちに挨拶を交わすと屋敷を後にした
中層区のはずれの一角にそこはあった
通りの正面からみると木で組まれたログハウスのような外見だ
左右に一定の広さの庭が広がっておりログハウス風の建物の奥に煙突のついた建物が併設されている
「ふーむ。見た目も悪くないな。良い店になりそうじゃ」
とりあえず中に入ってみようということで中に入ると人が10人から15人ほどは入れる広さがあり奥にカウンターがあった
窓から光が部屋を明るく照らし採光も悪くない。窓から見える景色は裏庭に植えられた木の枝葉から落ちる木漏れ日が感じの良いアクセントとなりきっとここでお茶を飲めば楽しめるだろう
「うふふ。窓際にテーブルと椅子を置いて紅茶を用意したら楽しいお茶会ができますね」
「本当にそうですね」
イリアとミーニャも同じことを思ったらしい
「まだ奥に部屋があるし行ってみるか」
清十郎はカウンターの裏から奥へと入ってみると7人から8人はくつろげるリビングがあった。暖炉もついており冬でも温かいだろう。当然ここにも窓があり明るく部屋を照らしている
「あ、階段がありますよ」
部屋の隅に2階に上がる階段がついていたので上がってみると廊下があり片側に6畳くらいの
部屋が2部屋と廊下の突き当りに8畳くらいの広めの部屋が一つあった
「なかなかいいお家ですね。私の実家より広いかも」
ミーニャがうらやましそうに部屋を見て回る
各部屋すべてに掃除が行き届いており清十郎が来る前に手が入っているようだった
「ふむ。ウェインもなかなか粋なことをしてくれるな」
「ふふ。お兄様らしいですわ」
和やかに笑い合う清十郎とイリアにミーニャがニヤリと笑う
「これでいつでも子作りに励めますね」
「「なっ!」」
二人そろってゆでだこのようになり固まるのを余所にミーニャは笑いながら階段を下りていった
「イ、イリア殿、そろそろ行くかの?」
「そ、そうですね」
このまま雰囲気に流されそうになりながら一欠けらほどの理性でなんとか自分を抑えイリアを促し下に降りるとニヤニヤ顔のミーニャが待ち構えていた
「うふふ~。てっきりそのまま始まっちゃったらどうしようかと思ってました」
「ミ~ニャ~!」
「い、いたいでふ!」
口に手をあてて笑うミーニャをこれ以上言わせてなるものかとイリアが素早く捕まえるとその頬を両手で左右に引っ張る
「たふけて~!」
「・・・自業自得じゃ」
涙目で助けを求めてじたばたするミーニャを放っておいて清十郎はリビングの先に行く
リビングの奥は台所とちょっとした浴室が備えてあった
「ふふ。これなら私も泊まれますね」
「え?」
「い、いえ。なんでもありません。ほ、ほら清十郎様、ここの扉から作業部屋にいくのではないですか?」
清十郎の後ろから覗き込むように部屋を見たイリアがポツリと呟く
何のことかわからず首をかしげる清十郎をそのままにイリアが先に行く
イリアについて扉を抜けるとそこは床面が全面石造りで作られており他に見慣れた炉に火床がある部屋だった
「おお!ここが作業部屋か!なかなか立派ではないか」
清十郎が思わず感嘆の声をあげるほど部屋は広くおそらく前の住人が弟子でも取っていたのだろうか。炉は一つだが火床がもう一つ離れた場所にありその名残を残している
窓から見える景色は離れた場所に隣家の屋根が見えこれなら夜中に作業しても困ることはないだろう
「ふむ。ここの扉からは外に出られるのか」
作業部屋にある扉を開けると庭とつながっておりその場所だけ草が生えそろっておらず朽ちた木が土に突き刺さっていることからここで試し切りなどを行っていたようだ
「いい場所じゃな」
「本当にそうですね」
いつの間にか清十郎の隣に立つイリアが景色を眺めながら優し気に微笑む
「ふふ。お二人ともそうしていると長年連れ添った夫婦みたいですね」
後ろからミーニャが当然のごとくからかってくる
「そうじゃな。そういう夫婦になれればいいのう」
「え?乗ってこない・・・」
清十郎がミーニャのからかいに乗らずどこか遠くを見ながらポツリとつぶやく姿にイリアが身を寄せる
「そうですね。そういう夫婦になれるといいですね」
そっと清十郎に体を寄せるイリア
「あ、あれ?私、置いてけぼりですか?」
ミーニャは自分のからかいが倍返しに帰ってくる羽目になり涙を流しながらクマの子亭でケーキをやけ食いしレイルに慰められるのは少し後の話である
良かったらブックマークの登録、評価をよろしくお願いします
感想、レビューもお待ちしております




