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第66話 月の明かりは死者を照らす

いつも読んでいただきありがとうございます


 深夜の森を大雑把に列をなして進む者たちがいた

 時折、剣戟の音と叫び声が聞こえるがすぐに聞こえなくなる

 一人の男が鬱蒼と茂る森の中、樹上から気配を絶ち様子を窺っている


「ちっ・・・こっちも間に合わなかったか」


 男はそう呟くと列をなして進む者たち気づかれないように木から木へと移っていく

 月が雲の合間から顔をのぞかせ光がその者たちを照らす

 眼窩が落ちくぼみ渇いたような皮膚で視線を様寄せながら歩くものや骨だけになって歩くもの霞のような状態で動くもの様々だがすべてに共通することは生きていないことだ


 アンデッド。死して魔物と化したもの達。生者を妬み生への執着からか生者を見れば襲い掛かりその命をむさぼり喰う者達だ


 樹上を渡り歩く男は試験官としてギルドから依頼として受けたことを後悔していた。明らかに自分の力量を超える荷が重い仕事になってしまったからだ


 アンデッドを見かけたのは冒険者達に隠れるように樹上で気配を絶っていた時、目的地のゴブリンの村の手前でスケルトンと遭遇しその時は撃退したがそれを皮切りに次々へと現れスケルトン、グール、レイスに挙句はリッチが現れる始末だ


 Eクラスの冒険者たちでは討伐難易度Eのスケルトンやグールを何とか撃退できたが肉体を持たず精神的な攻撃を得意とする討伐難易度Dのレイスに太刀打ちできずいま行軍しているアンデッドの仲間になる始末だ


 樹上からその様子を唇を噛み見るだけしかできずできるだけ森に入った冒険者を救おうとしているが成果は芳しくない


「だが奴ら一体どこから現れた・・・それにこの方角はワ―ラスか、まずいな」


 目下を行軍する意思なき者たちの大群。それを見て男は森に入ったDランク冒険者達の救出を断念する


「ギルド長から言われたように奴に助けを求めるか・・・」


 男がそう決断し踵を返した時、全身に悪寒を感じ咄嗟に前の枝に飛び移る

 先ほど男がいた場所に全身黒ずくめで白い仮面を嵌め右手には禍々しい剣を持っていた。あと少し飛び移るのが遅ければその剣で斬られていたであろう


「デューク・・・」


男は手に持つ意匠を凝らした槍を樹上で構えデュークと呼んだ男と相対する


「戦いたいのはやまやまだが情報を持ち帰るのを優先させてもらう」


 男はそういうと槍を一振りし自分の枝を切ると木の幹を足場に次の枝に飛び移り最大限の速度で逃走を図る。後ろ目でデュークを見ればただその場に立って様子を見ていたが何を考えたのか亡者の列に飛び込んだ


「なにを!?」


 木を飛び移りながら男は驚愕の光景を目の当たりにする

 生者と相いれない死者の行進。その中をデュークは襲われず紛れるように縫って追ってきた


「まずい!このままだと追いつかれるな。逃げ切れるか・・・」


 亡者の列が樹下を行軍する中、男の逃走劇が展開されるのであった



 深夜、清十郎はすっと眠りから覚めると髪を後ろに縛り装備を着用する

 隣でロビンが口を開けて気持ちよさそうに眠っているのを一目見ると清丸を腰のベルトに差しこみ階段を降りて無人のエントランスを通って宿の扉を開けて外に出る。

 宿の扉は夜でも鍵は空いていた。きっと深夜に出発する者たちもいるから鍵が開けてあるのだろう


 玄関を出ると清十郎は宿の裏手へ回ると広さのある庭に長身の男が立っていた。今は月が雲に隠れてしまった為に顔が見えない


「さすがだな。念の為、確認するが清十郎殿とお見受けするが間違いないか?」


「うむ。儂が清十郎じゃ。軽く殺気を飛ばしたのはお主じゃな」


「ああ。緊急につき不作法は許してほしい」


「それは構わん。その緊急とやらはなんじゃ」


 男の謝罪に清十郎は不要と答えたところで月が雲の合間から顔だす


「そなた、怪我をしておるではないか!」


 目つきが鋭く力を帯びているが本来、精悍であろう顔がいたるところ汚れており疲れた表情を作っている。茶色の長髪はまとまりなく垂れ意匠を凝らした槍に持たれながら体中に傷を作りなんとか立っているような状態であった


「大丈夫だ。こいつのおかげで急所だけは守ることができた」


 男はそう言うと傷だらけだが鍛え抜かれた身体に纏う青い色の鱗状の鎧を叩く


「むぅ。とりあえず立っておるだけやっとではないか。ちと待っておれ」


「なにを・・・」


 清十郎は男に近づくと手をかざすと傷を塞ぐイメージをしながらヒールを唱える

 見る見るうちに傷が塞がることに男は驚く

 ついでに綺麗にするイメージをし生活魔法のクリーンを使用する

 ポーラから一通り基本の魔法を教えてもらっているので今の清十郎は生活魔法を余裕で使える


「こいつは助かったぜ。俺の名前はヴァリスBランク冒険者だ」


 傷がなくなり汚れがなくなったヴァリスは精悍な顔つきを取り戻し垂れていた長髪を後ろに流す

 その仕草が妙に様になりきっと何人もの女を泣かせているのだろうなと自分の事を棚に上げて清十郎は思う


(なぜ・・・この世界はこうも男前が多いんじゃ?)


「ん?どうしたそんな目をして」


 清十郎の胡乱な目を見てヴァリスが首を傾げる


「・・・いや。なんでもない。ヴァリス殿、緊急の要件とはなんじゃ?」


「そうだった。今、このワ―ラスに亡者の大群がやってきてる」


「なんじゃと?」


「規模は大体1000くらいかもうそれ以上は数えきれんかった。もう気づいてるかもしれんが俺は試験官の依頼を冒険者ギルドより受けててな。森に入る試験者たちを見守っていたんだが森の奥からスケルトンが現れたと思ったら瞬く間に亡者の群れが濁流のように冒険者達を飲み込んで行ったんだ。助ける暇はなかったよ」


ヴァリスは精悍な顔つきを歪める


「ふむ・・・。事情は分かった。で、それを儂に教える理由はなんじゃ?一応、儂も試験者なんだが」


「ああ、ギルド長より万が一があれば清十郎殿を頼れと言われててな」


「はぁ。バングリーの奴め・・・」


「そう言うな。それだけお前への信頼が篤いってことさ。この後だがどうするかの判断はお前に任せる。今、この街には第一王女殿下が見えていてな。親衛隊の面々も滞在しておられるから俺はそっちに向かう」


「委細承知した」


 清十郎は嘆息するとヴァングリーに頷く


「あぁ、そうだった。お前と戦う予定だった行方不明の冒険者だが見つかったぞ」


「む?」


「名前をデュークと言うんだが奴が亡者の列に紛れ込んでこちらに向かっている

 奴は俺をみるなり問答無用で襲い掛かってきやがったから敵とみなした方がいい

 黒づくめで仮面をして魔剣を身に着けたかなり変わった格好をしているから見ればすぐにわかる」


「わかった。もし出会うようならば気を付けるとしよう」


「ああ、そうしてくれ。じゃあ俺は行く」


「わざわざ済まんかったな。お主も気を付けて行けよ」


「ああ。お前もな」


 お互いに小さく笑い頷くとヴァリスは夜の街へと消えていった


(さて、亡者との戦いをどうするか)


 清十郎はとりあえず仲間と相談するかと宿に戻るのであった



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